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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
311.オオスズメバチ

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 山道どころか獣道すらない原生林を歩きながら、コユキは直近の記憶、タクシーのコーチマン、むつかしく言うと運転手が最後に残したであろう舌打ちの意味について考えていた。

――――まさかあそこで舌打ちされるとはね? んでも、急ブレーキは確かに危なかったかもしれない、実際死ぬかもしれない状態だったし…… そう言う意味では後ろから来たトラックのドライバーさんのダァルイヴァーテクニックに感謝しかないわねぇ、はっ! まさか、釣りはいらないアピール、所謂いわゆるチップが足りなかったと、か? んな筈無いわよね? だって十円よ十円! 日本みたいな贅沢な先進国なら兎も角、中央アフリカ共和国とかだったら一日の日当レベルよ! 海賊三昧から御寿司用のマグロ三昧ウハウハヤっホーのソマリアでも半日の俸給を上回るわよ? ってことは何であんなに機嫌の悪い態度を取ったかだけど…… あー、あいつアタシを狙っていたとか? もっと山奥まで行ったら、不潔で自分勝手な性の赴くままに蹂躙じゅうりんしてやろうとか思ってたんじゃ? ……そうだ! そうに違いない! 昔からそんな好奇の視線に晒されて来続けたというのに、そこに気づかずにシンジロトークに華を咲かせていたなんて…… 迂闊うかつだった、アタシとしたことが…… 恥ずかしい、穴はあるから入れて欲しい、ハーフで無垢な美少年に…… って、ん? んん?

 真剣に己の行いを恥じ、考え続けていた真面目で素直なコユキの思索を邪魔するように周囲をブンブンと騒がしい音が埋め尽くすのであった。

「へ? ん、んん? マジかっ!」

コユキにしては珍しく大きな声を出してしまったのである。

 それもその筈、テクっていたコユキの周囲を取り囲んだ黒々とした羽虫、いやフライングキラーはオオスズメバチ! その群れであったのだ!

 可愛らしいコユキを大型の野猪やちょ、若しくは肥満が過ぎた熊とでも見間違えたのか? はたまた体臭の強烈さに反応したのかは定かでは無いが、

『コロス!』

 その一点に集約された集団意識を持ってコユキに襲い掛かって来たのである。

「『聖纏(ヴェール)』『自然回復UP(極小)』『散弾連撃(コンティショット)』」

ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト
ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト……

 打ち抜き殺めた罪無き蜂達の数は数千を越えるだろう……
 これほど大きい巣は珍しいのではないか?
 実際この瞬間にもコユキに襲い掛かるオオスズメバチの群れの数は一向に減ってはいないのである。

コユキは瞬時に考えを巡らす。

――――こいつらに刺されるとアナフィラキシーショックを起こすんだったか? 確かアレルゲン物質がヤバイのと、後は神経毒か…… アレルギーは無いし、神経毒の類は消化酵素で無効化出来た筈よね? 確か? なら一か八か試してみるか! よしっ!

「喰らえ羽虫共っ! いや(にやり)喰らうわよ(ハニー風味)、いただきますっ!」(パンっ!)

 大きく口を広げたコユキはガチガチと忙しなく真っ白な歯を噛み合わせながら、自身の周りを包み込んだオオスズメバチの群れの中を残像をチラつかせながら走り回ったのであった。
 体の動き同様、顎肉の小刻みな振動にあわせた超高速咀嚼したオオスズメバチを躊躇する事無く飲み込み続けていくコユキ。

 まさかの生食、殆どほとんど踊り食いとは鉄、いいやダマスカス鋼並の強メンタルと言って良いのでは無いだろうか?

 そのせいだろうか? コユキの顔面や首、手足等のツナギで隠されていない、露出された肌の表面が全てに木目状、言い換えればイビツな指紋のような模様がうっすらとした静脈のような青い色でビッシリ浮き上がって来ていたのであった、綺麗である。

 捕食を続けながらコユキは考えていた。

――――思ったより抵抗感無く食べられるわね、この技なんて呼ぼうかな? 普通で良いか? よし『昆虫食(エントモファジィ)』にしよっと♪

 化け物である。(今更)

 そのまま数分間に渡って食べ続けていたコユキであったが、一向に数を減らさない蜂達に加えて、ある強烈な違和感に気が付いて首を傾げる。

――――あれれ? もう結構食べてる筈なのに全然お腹にたまってないわね? いや、むしろさっきより飢えて来ているような? ま、まさか!

 ある可能性に思い至ったコユキは高速移動を一瞬だけ止めて目の前にいた一匹のオオスズメバチを指で摘まんで再びアヴォイダンスを始めるのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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