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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
550.ニュー・ノーマル

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 結果、雉セットダブル(特別)を、コユキ十二人前、運ちゃん九人前、フューチャー六人前食べ終えて、道の駅を後にした時には、三月末の夕陽は既に確り落ち切っていて早暗くなり始めていたのであった。

 運ちゃんが言った。

「んじゃあ、トンネル経由でさっさと送らせて頂きますね♪ 今日は楽しかったですよ! お二人の行く末に幸あれと願うばかりですよぉ!」

 コユキが大きな腹を抱えながら言う。

「そうなの? んまあどうでも良いけど、送って頂戴ね、コーチマン」

「あいあいさー」

 随分馴染んだものである。

 しかし、観光スポットで一日貸し切りの観光タクシーを雇った皆さんなら分かってくれるのでは無いだろうか?

 一日を割安で楽しんだ結果、必ずと言って良い程、運ちゃんは言うのである。

 曰く、『お客さんっ! 季節になったら今回ご紹介できなかった名物をお送りしますね! 絶対です!』だとか、『今度は私がお客さんの故郷を訪ねさせてくださいよっ! 車持って行きますんで運転はお任せを!』的な奴である……

 一期一会パワーとは、次も会いましょうを想起させる魔性の言葉である様であった。

 しかしながら、今回の運ちゃん、悪魔の一柱である彼は無言のままで、愛媛県西条市に向けて只々車を疾駆させたのである。

 町中に入ると、周囲は濃い霧に包まれ、タクシーに装備されていたフォグランプの淡い光だけが、頼りなく周囲に車両の存在を明らかにしているだけとなったのである。

 白い世界に埋め尽くされる車内で運ちゃんは、ここまで重すぎていた口をようよう開いたのである。

「ねえ、お客さん、一つ聞かせて貰いたいんですが…… 義務感でも責任感でも無くて、お客さんがさっき山の中で言った志って…… えーとっぉ、一言で言うとしたら、何て表現します? どうですか? お客さん?」

 ウトウト舟を漕ぎまくっていたコユキは霧に包まれたタクシーの後部座席から答える。

 横に座っていたフューチャーも言葉の一言も発する事無くコユキを横目で見つめ続けて居た。

「うーん一言かぁ…… 小宇宙コスモ? いいや私自身ゴーストかな? なんか違うのよねぇー! うーんー…… あっ! あれねっ! そう、私の中の『ガッツ』がそう囁くのよ! ガッツよっ! ガッツ!」

 そうか、そりゃそうだな、何しろコユキと善悪のガッツと言えば、かの石松を軽く越える物だからな!

 そんな常識を提示されたと言うのに、フューチャーも運ちゃんも今一ピンッ、と来ていない感じである、残念至極……

「ガッツです、か…… ふむ?」

「うーん…… ガッツだと? 一体どういう意味なんですかね? 分かりませんね…… にしても霧が異常じゃないかな? なあ運ちゃん運転大丈夫だろうねぇ?」

「あ、ちょっと黙っていて貰って良いですかね? 私って今っ! ガッツについて考え中なんですよ!」

「ウワアアァァー、眠くなったわねぇ! コユキ腹いっぱい、お眠の時間なのよぉ!」

 なにやら熟考していながらもハンドル捌きに迷いは見当たらない運ちゃんは、突然会話を再開するのであった。

「ふむ分かりませんね…… ガッライ陛下、いえコユキさん、そのガッツとやらで何をするんですか?」

 鼻提灯ちょうちんがパチンと割れてウトウトしていたコユキが淀みなく応えた。

「何ってそりゃ挑戦よ、挑戦! 前人未到の挑戦をガッツで乗り越えるのよ、分かる?」

「挑戦ですか…… それはあれですか、自分たちの犠牲によって数多あまたの生命体が生き残る、その事に対する彼らの評価を期待して行う、挑むという事でしょうか?」

 コユキは溜息を吐きつつ返す。

「はぁー、違うわよ! コーチマンさぁ、さっき山の中で途中でぶった切られた話を蒸し返す訳じゃないけどさぁ、リベラルアーツとかで得るのは自由でしょ? そこには他者や社会からの評価が重要でしょ? 人並だろうがギリギリだろうが最優秀だろうが全て他者の評価によるわ…… でもね、社会が段階的に成長ってか変化して来た切欠きっかけや新たに取り入れた常識って、それ以前のリベラルアーツとは違っているでしょう? 当然よね、寒冷期が終わったってのに分厚い毛皮着てたら蒸れるんだから、新しい世界には新しい常識ってなる訳よ、つまり、今アタシ達が挑もうとしている事ってさ、これまでに人類や世界が信じて来た当たり前、常識って奴を丸ごと書き換える様な大きな変化な訳よ! 誰も気が付く事が出来ないで自然にやって来た事が絶滅に繋がっていたんだからね? 並大抵の変化じゃない訳じゃん! だからガッツを持って挑戦するのよ! 社会の一員として自由に生きられるように、他者の評価を期待するんじゃなくて、そう言った常識から突き抜けるのよ! 常識や本能、当たり前と思って来た事を乗り越えるのよ、も一度言うけど突き抜けんの!」

「評価じゃなくて…… 突き抜ける、ですか? それでどうなるんですか?」

 コユキはルームミラーに映った運ちゃんの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

「ダメなら無駄、上手く行ったら成功よ! それだけね! んでも成功に辿り着いたら、それがそれ以降の社会の常識になるのよ! それが本当の正解よ、正解を得る、その為の挑戦に必要な物、それがガッツだわ! 評価を越えた先にだけ正解は存在するわ! お判りコーチマン? 未曽有みぞうの危機の前には常識や他者の評価なんて何の意味も無い事だと思わない? そんなもんアタシからしたらもうガン無視よガン無視」

「ガン無視、いいや『正解』ですか…… なるほど……」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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