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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
342.断罪の大鎌

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 長兄たるオルクスが言う。

「ヨコセ」

「「「「「「は?」」」」」」

「マリョク、ヨコシテ!」

「兄様、何を?」

オルクスの突然の魔力頂戴発言にラマシュトゥが代表して疑問を口にした。

「タメス、カラ、ハヤク、チョーダイ!」

今度はモラクスが懸念けねんを口にする。

「試すって…… 『断罪の大鎌コンヴィクトサイズ』を使うつもりなのか兄者! 確かにあの技ならば相手が害意を持っているかどうかが判るが…… いや、やはり危険だ! 使用直後にスタン、一瞬だが行動出来なくなってしまう、無防備になるんだぞ、だめだ! そんな真似はさせられないぞ!」

 弟妹きょうだい達の中で唯一と言って良い次兄モラクス、偉大な兄に異議を唱える事が出来る存在の言葉を受け、無言のまま背を向けたままの長兄オルクスの次の言葉を待ち、その他の弟妹達は息を飲み成り行きを見守るのであった。

「……ヤルゾ」

 暫くしばらく考えていたオルクスが呟いた。
 モラクスは一つ溜め息をいたが直後表情を引き締めて右手を兄に向けて翳しかざし、自身の魔力を送り始め他の弟妹もそれにならった。

 意見に相違があっても彼の決定には逆らう事は無く、全員で協力を惜しまない、これがスプラタ・マンユ、魔王種の七柱が、自分達をこの世界に生み出し、信じ仰ぎ又惜しみない庇護を与えてくれた絶対神にして最強の魔神、ルキフェルを失ってから魔界で生き残る為の不文律となっていたのである。

 今から一万三千年程前、ルキフェルを失い他の魔神や魔王種達との戦いに疲れ果てたオルクス、モラクス、パズス、ラマシュトゥの長じた四柱は、未だ脆弱ぜいじゃくであった弟たち、アジ・ダハーカ、シヴァ、アヴァドンの三柱を人の住まう地上へと避難させる事を決めたのであった、と言うよりもそうせざるを得なかった、と言った方が正確な表現であろう。

 当然、オルクスに遠く及ばない三柱の弟達は『馬鹿』の状態で地上に顕現したのだ。
 ある者は気まぐれな邪神と呼ばれ、又ある者は正気を持たない暴力の化身として、そして最も自我を無くした竜は破壊の権化ごんげとして、或いは忌避きひされ、或いは怖れの対象としてあがめられ、又或いはこの世の終わりの象徴として憎まれ、唾棄だきされる存在へと貶めおとしめられたのである。

 その間も、その後、彼らが畏怖いふを持って神としてあがたてまつられた時も、可愛い弟として保護し続けていたのが、三人の兄、そして一人の姉であったのだ。
 守り続け、時には自分の魂魄こんぱくを分け与えてでも成長を促し、傷付いた時はその傷を代わって負い、敵対する強者に勝ち続け抗い続けた、それが年長者たる四柱であったのだ。

 長兄オルクスのめいにモラクスが従い、守護者たるパズスが二人を守り、傷を癒すラマシュトゥが命を繋ぐ。
 年少の三柱にはそれが意識を持った日からの『全て』であった。

 故に、こういった場面でオルクスとモラクスが一つの方向へと全身全霊で向き合う時、兄姉弟達に迷いは無かったのである。
 生きる! それは、兄姉弟きょうだい力を合わせて乗り越える事、それ以外なかったのだから!

 だから、一切の疑いも反論も消し去った魔王種七柱はその、大き過ぎる魔力を全幅の信頼を置いて恥じぬ、純白の魔王、オルクスへと注ぎ続けるのであった。
 やるぞ! たった一言だけだ。
 しかし彼等六柱には絶対の宣言だったのである。

 その証左に、魔力保持量の一番少ないラマシュトゥが一言も発さないまま膝を屈した。
 続いて、言葉も無く倒れ込んだのはパズスとシヴァの二人であった、前のラマシュトゥと同様に魔力切れであろう。
 次に青黒く顔面を染めて倒れこんだアジ・ダハーカは一言だけ呟いて意識を失うのであった。

「す、すまぬ……」

 兄弟の中で最大の魔力量を誇るのは末っ子のアヴァドンである、だと言うのに次に倒れたのは彼、オリンポス十二神の中でも中々に我が儘わがまま三昧だった彼、アポロンである。
 倒れて意識を失う前に、龍神アジ・ダハーカと同様、一言だけを残したのである。

「許せ、次兄、我、我も最早…… くっ! ごめん、なさい……」

漆黒の死んだような顔色でモラクスが答える。

「いいのだ、弟よ! 後はオルクス兄とこのモラクスに任せるが良い、ありがとう…… 皆強くなった…… 嬉しいぞ! さあ、回復に集中するが良い! 我が誇るべき妹弟達よ! おやすみ」

「モ、モラクスッ!」

「おう、兄者! 行くぞっ! あ、『同化同調アフォモイオシィ』」

 オルクスの純白の光りにモラクスの漆黒のオーラが奔流となって重なり合い、その所々にオレンジ、ピンク、緑、紫、黄金色の輝きが煌めきつつ一つの神秘的な力と化してオルクスの持つ大鎌へと流れ込んで行き、黒々とした無骨なサイスが神々しい霊的な存在、『断罪の大鎌コンヴィクトサイズ』へとトランスチェンジを果たしたのであった。

「イクゾォ! キサマ、ノ、ココロヲ、シメセ! シンギノヤイバッ、クラ、エッ! コンヴィクトサイズゥッ!」

 幸福寺の本堂脇にめぐらされた広縁の床から、飛び上がり大鎌を振り被ったオルクスは、境内の中央に居た『弾喰らい』タマちゃんの頭を一刀両断、一切の躊躇無く切り下ろしたのである。

 跳躍距離、目測二十メートルはあったであろう。
 振り下ろした鎌は、巨熊の体を真っ二つに切り裂いたかに見えた……
 しかし、切られた張本人(熊?)はキョトンとした顔を浮かべたまま声に出したのであった。

「ガゥ?」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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