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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
581.粥座

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 一瞬で姿を掻き消したコユキは、来た時同様、わずか十数秒で幸福寺に帰り着き、外水道の近くで朝の清掃準備に取り掛かっていたイラ、グラ、アセディア、イーチ、ハミルカルの男性陣五人組に声を掛けた。

「ねえアンタ達、この汚れた神様洗ってやってくんないかな? 男同士だったら大丈夫でしょ? 駄目ぇ?」

 アセディアが代表して答えた。

「ここでですか? まだ肌寒い季節ですよコユキ様…… お風呂とか沸かしますよ、見た所高齢な感じの方ですし……」

 コユキは事も無げな様子で言う。

「良いのよ、こう見えても神様なんだから風邪とか引かないだろうし、第一、風呂なんて使わせたりしたらエライ事になるわよ、恐らく未知の病原菌とか撒き散らされる事になると思うわ! 水道の水と洗濯石鹸でもぶっ掛けて、そこにあるデッキブラシで洗ってあげて頂戴! ああ、その後歯磨きとマウスウォッシュも忘れずにさせてね! 使った歯ブラシは確実に棄てておくのよ、必ずね」

 早口で言いながら、自分の手指を猛烈な勢いで洗い捲るコユキの姿を目にした五人は無言で頷きを返すのであった。

 除菌アルコールを手に馴染ませながらコユキは言う。

「頼んだわ」

 そうしていつに無く真剣な顔つきで庫裏くりに向かって歩き出すのであった。

 居間に戻ったコユキが途中退席して中断されていた朝食の回鍋肉ホイコーロー丼の捕食を再開していると、丁度十五杯目を食べ終えたタイミングで、イーチに導かれたロット神がスッキリした表情で入って来た。

 コユキの横に座ってテレビに映し出されていたプロレスを観ていた運命神三柱がいち早く気が付いて声を掛ける。

「おお、久しぶりだなロットよ、少しイメチェンしたか?」

「痩せたな…… やはり今回の改変は大変だったな…… 任せて良かった……」

「んなトコで立ってねーで座れって! ちょっ、そこじゃねーし! 南側に座れってぇー」

 なるほど、一見適当に座っているように見えるが、言われてみるとフェイトは北、フューチャーは西、デスティニーは東に座っている様である。

 このトライアングルフォーメーションに向き合うように、ピッタリ南に位置する場所にロット神が座るとフェイトが困惑した様に言った。

「あーそこだと私からテレビが見えないよー、ちょっとズレてくれないかなー」

 ロットは素直に体をわずかに移動させてフェイトとテレビ間の射線を確保した。

 少しずれる位は大丈夫な様である。

 先着の運命神三柱は揃ってプロレスに夢中な様子で無言である。

 独りだけ仲間達に向き合って座っていたロットは不慣れな場所という事も相まって非常に居心地が悪そうにしている。

「お、奇麗になったのでござるな、重畳ちょうじょう重畳、さあ、簡単ではござるが朝食を準備したのでござる、ささ、お食べあれぇー、お代わりあるからねー」

 笑顔で登場した善悪は、ロットの前に丸膳に乗った朝食を配膳すると、満腹で自分のデカい腹を擦っているコユキの前から食器を集めて持ち上げ、そそくさと台所に戻って行った。

 ロットは周りを見渡したが誰とも視線が合わなかった為、目の前のお膳に目を落としてから小声で呟いた。

「えっと、い、頂きます」

 お膳の内容はシンプルな物で構成されていた。

 鉢に盛られたのは五分粥、そこに添えられていたのは焼き塩と大根葉の塩漬けのみである。

 いわゆる雲水の朝食、粥座しゅくざと同様であった。

 質素な膳では有ったが、今朝までのロットの食生活に比べれば言うまでも無くご馳走であったのだろう。

 あっと言う間に食べ終えたロットが鉢、応量器おうりょうきの内側の粥汁を舐め取ろうとしていると、再び姿を現した善悪が優しげな声を掛けた。

「お代わりを持ってくるでござるよ、万年漬けも追加する? どうでござる?」

「あ、はい、頂き、ます…… すまぬ」

「はいはい、構わぬでござるよ、待っててね」

 まあ予想通り飢えていたロットは都合四回お代わりを重ねてようやく人心地着いたのである。

「ふぅー、ご馳走様でしたー」

「なんのなんの、あまり食べていなかったらしいと聞いたゆえ、胃腸に優しい物にしたのでござるが、この分なら昼は斎座さいざで無く普通の食事でも大丈夫そうでござるな、良かったのでござるよ」

 そう言いながらロットの前に緑茶を置いた善悪は丸膳を持って台所へ向うのであった。

 置かれた湯飲みを手に取り一口啜ったロットは緑茶の旨さに驚いた風であった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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