見出し画像

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
313.ペナンガラン

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「はあぁ~」

 溜め息を吐いたコユキはその場にでっぷりと、そしてどっしりと腰を降ろすとツナギのポッケからスマホを取り出して善悪に連絡を取るのであった。

 程無くして電話に応対した善悪に今目の前で起こった出来事を伝えたコユキは、驚きの声を上げる善悪に向けて言葉を続けるのであった。

「んで、頑固そうだったからプスッとやっちゃたんだけどね、ウチの子達で誰か知らないかな? ペナンガランってマルミセ露出狂(完成形)なヤツだったんだけどね?」

 善悪がチット待つのでござる、とか言っているんだろう、コユキは大人しく待っている、目の前の割れた蜂の巣からウネウネしている幼虫、所謂いわゆるハチノコを引っ張り出しては美味しそうに食べながらである……
 んもう! 救いって言っちゃったじゃんっ!

「え、ああそうなんだ、アスモデウスちゃんのぉ、そっかそっか、うん、大丈夫だよ! 魔核も確保したから、うんうん、帰ってからモデちゃんに渡すよ、うん? ああ、大丈夫だってば、じゃあね、切るよ? はーい、はいはい   ふぅ」

 コユキのセリフじゃ何にも分かんないな、って事で親切な私、観察者がお爺ちゃんサイドの情報も合わせた上で掻い摘んでしまうのである。

 コユキの質問に答える為に幸福寺内の悪魔や怨霊、トシ子にまで聞き捲った善悪に対して申し訳なさそうに告白したのはアスモデウスであった。
 現在アンラ・マンユ、善悪が首に掛け続けている白と黒の二振りの念珠、その黒い方で魔力回復中の元七大徳、現十四大徳の『純潔』を司る魔王種の一柱であった。

 以前はなんちゃってミカエルを名乗っていたアスモデウス、コユキ的に言うとモデちゃんが告げた内容とは、シンプルそのものであった。

 ペナンガランは元々、マレー半島辺りで頑張って生きていた人間の助産婦さんだったらしい。
 どういう心境の変化か魔女的な力を欲してしまい、私財を投げ打って手に入れた知識で悪魔召還の儀式を実行してしまい、丁度暇を持て余していたアスモデウスが気まぐれで召還されてやったという話だった。

 彼女の望みは悪魔になる事、それだけだったそうだ。

 永遠の命を手に入れ、魔法の力でいつまでも赤子の誕生という感動を享受し続けたかった、そんな純粋さに折れて、方法を伝授してあげたんだそうだ。

 毎日決まった時間の間、酢を満たした浴槽に浸かる事、そして二十一の儀式と呪文、これを四十日間休まずに続けなければいけない事、そして、この間、決して肉を口にしないこと! これらの事を何度も何度も言い含めたそうだ。

 しかし、彼女は約束を守れなかった。

 四十日目の日没直前、彼女と親しかった漁師の男が、痩せこけていく彼女の体を心配していわしの塩漬けを混ぜ込んだ餅を、野菜しか入っていないと言って食べさせてしまったのである。
 笑顔で見つめていた彼の前で、ペナンガランの肉体は首から上だけを残して強酸に溶かされた様に流れ落ち、背には女王バチの如き美しい羽が生え、人外の物へと姿を変えたのであった。
 腰を抜かして這い逃げた男に目もくれず、願いが叶えられなかった彼女、ペナンガランの慟哭どうこくは広大なマレー半島中に鳴り響いたらしい。

 彼女は望みの半分、永遠の命だけは手に入れる事に成功した、しかし、残りの半分、新たに生まれる命を祝福したいという願いは、最も残酷な形で失う事となったのだ。

 首から上と剥き出しの内臓だけに蜂の羽だけ、異形の悪魔と化した彼女が口に出来る物は、身篭った女性の血液と、胎児の体液それだけになっていたのである。
 絶望した彼女は、代替えを求めるように森の中を彷徨い続け、やがてその背に負った物と似た羽を持ち、多産な昆虫、蜂、オオスズメバチの守護者として彼らを見守る悪魔、いや精霊と化したのだそうだ。

 横から口を出したアスタロトとオルクス曰く、悪魔、デーモンではなく、最早イーブル、邪霊の類に落ちぶれた存在、だそうだ……

 善悪に事情を話したアスモデウスの声は、酷く不明瞭で恐らく泣いていたのではないかと思えた。
 反して、連れて帰って欲しいと、自分がもう一度教育して導いてみせる、と誓った声は初めて聞く力強さが感じられたのであった。

***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

スキしてみて

励みになります (*๓´╰╯`๓)♡