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【本との出会い】高校生~大学生編

※このnoteは、【本との出会い】小学生〜高校生編の続きです。


高校生になり、周囲の環境も相まって、僕は小説から離れた日が続いた。
そんな時、僕が再び本の世界に飛びこむきっかけになったのは、ブックオフでの立ち読みだった。

僕は本も好きだが、本屋さんも大好きだ。
色んな本が何万冊と本棚に並べられている光景、紙やインクのなんともいえない古書の香り、サラリーマンや中高生、老若男女が立ち読みをしているあの空気感がすごく好きだ。
だからこそ、実家の近くにあったブックオフには幾度となく通っていた。
はじめは漫画の立ち読みや、映画コーナー、ゲームコーナーを見て回ることが多かったが、気づくと僕は文庫本の100円均一コーナーにいた。

本は意外と高い。
実際、価値に対するコスパはかなりいいと思うけど、高校生のお財布的には1冊1500円は高いという話だ。
何冊も買えるものではない。
そんななかで、ブックオフの100円コーナーは天国のような場所だった。

本は、基本的には時間とともに価値が変わるようなものではない。
10年前だろうが、去年だろうが、今だろうが書いてある内容は変わらないからだ。だからこそ何十年も前のベストセラーは今でも本屋に売られている。
だが紙に印刷している以上、物としての劣化は当然起こる。
日焼けして色が変わったり、破いてしまったり、お茶をこぼしてしまったり。
それによって、古本というものがこの世には生まれる。
書いてあることは同じなのに、媒体が劣化するせいで、実質転売されているようなものだ。作家にとってはたまったものではないだろう。
しかし、古本にもポジティブな役割はあると思う。
安い古本をきっかけに、新書を買うことだってあるだろう。
漫画アプリで最初の数話を無料で読めるのと同じだ。
きっかけさえ与えれば、潜在ニーズを引き出し、新たな読者を生み出すこともある。
僕自身、古本があったからこそ、ここまで本が好きになったと思う。


「きみが見つける物語シリーズ」

話が逸れてしまったが、僕はそんな100円で売られてしまっている本に魅了されてしまった。
これなら、1000円で10冊も買えるぞ!
そう思った僕は、タイトルと表紙の雰囲気、裏の簡単な紹介文だけを見て、直感だよりで小説を買うことにした。
そんなときに出会ったのが、角川出版の「きみが見つける物語シリーズ」だ。

この本は、角川文庫が出している10代のための短編集で、スクール編や恋愛編、こわ〜い話編などのようにテーマごと複数の作家の短編が収録されている。
なんといっても「きみが見つける物語」というタイトルがその時の自分自身にピタリとはまっていた。宮尾和孝が手がけるカバーイラストもシンプルだが手に取ってみたいと好奇心をくすぐられた。
1冊あたり5~7人ほどの作家による短編が詰まった本が100円で売られているのだ。
これだからブックオフはやめられない。

10代の時に出会えてよかった本ランキング1位に決めた、今。
10代の多感な時期に読んだ本は、今の僕を作ったとても大事な根幹になっていると思う。今でも僕の心の中にいるけびん少年はこの頃に生まれたのかもしれない。
また、この短編集のおかげで僕はいろいろな作家の小説を読むことができた。これまでは気に入った作家の本を読み漁るタイプだった僕にとっては大きな進歩だった。
好きな文体や表現の幅広さ、空想しやすい文章、なかなか頭に入ってこない文章、小説の奥深さに気づくことができたのはこの本のおかげだ。


「変身」著:東野圭吾

僕の大好きな小説家の一人でもある東野圭吾の作品で、初めて読んだのが「変身」だ。
東野圭吾の名前はもちろんよく知っていたが、当時の僕にはガリレオのイメージが強く、推理系ミステリの人だと思っていて、特に著書を調べたりしたことが無かった。そんな状態で1冊読んでみようと、ブックオフで買ったのが「変身」という本だった。
読み始めてすぐに分かった。これめっちゃ好きなやつだ、と。

東野圭吾は様々なジャンルの小説を書いているが、その中でも特に僕が好きなのが、脳科学を題材にした作品だ。例えば「パラレルワールドラブストーリー」や「プラチナデータ」などがそうだ。
現実ではありえない設定、しかし、それがありえたら、それ以外はとてもリアル、というラインが僕の好きなジャンルだ。
特にこの「変身」は最初から最後まで、何が起こっているんだろう、という疑念や不気味な空気が漂うサスペンス感があり、とにかくこの登場人物たちの結末が知りたいと一気読みしてしまった記憶がある。
ハッピーな物語が好きな人にはあまりお勧めしないが、サスペンス映画が好きな人にはお勧めしたい一冊だ。

「月の裏側」著:恩田陸

「変身」に続いて、またも結末にモヤモヤ感が残る作品だ。
皆さんは読み終わった後にスッキリするタイプの物語と、なんとなくモヤモヤした感覚が残る物語、どちらが好きだろうか。
多くの人は前者だろう。
推理小説であれば数々の謎を全て解き明かす、恋愛小説であれば紆余曲折を経て二人が結ばれる、ミステリ小説であれば、すべての伏線を回収しきってそういうことだったのかと気づかせてくれる。
しかし、世の中の物語は必ずしもそうではない。
読み終わったのに、つまりどういうこと?と疑問が残ったり、単純にバッドエンドだったり、読み終わった後に思考をやめさせてくれないパターンがある。
僕はそんな物語は嫌いだ、と言いたいところだが、たぶんかなり好きだ。
読了直後は、え?これで終わり?と文句を言いたくなる。というか独り言で言ってるまである。
しかしながら、読み終わった後もその世界の余韻を残してくれているという意味では嬉しい気持ちもある。
自分なりの捉え方ができる終わり方は、ある意味読者を読者で終わらせない良さがある。
例えば、”考察者”という人たちがいる。
あのセリフは何かを暗示している、あのシーンは伏線だ、と作者のビジョンを予想する人たちだ。そういう人はきっとモヤモヤするのが好きなのだ。作者がはっきりしてくれないからこそ、いろいろな意味を勝手に作り出し、本来作者のものであるはずの世界に、自分の世界を溶け込ませようとする。創作が好きな人はどこまで行っても創作者なのだ。
僕は考察が好きだし、モヤモヤさせられたせいで、読み終わった後も四六時中その作品のことばかり考えてしまう時間が嫌いではない。そういう意味では創作者寄りなのかもしれない。

本の内容に触れなさ過ぎたが、この本はジャンル分けしずらい。
ホラーともいえるし、SFでもあり、ミステリーともいえる。しいていうならやはりホラーかな。不気味な空気が常にまとわりついてきて、読み終わった後も、なんとなく恐怖感が残る。まあ、読んでくれ。
ちなみに、僕は好きな小説家を聞かれたら、恩田陸と答えている。

「六番目の小夜子」恩田陸

紹介したい小説がたくさんある中、恩田陸作品をもう一つ選んでしまった。つまり、超好き、超オススメということで勘弁してほしい。
「六番目の小夜子」は恩田陸の処女作であり、最高傑作とも思っている。
ジャンルは学園ホラー。
またホラー?ただのホラー好きかよ、と思わないで聞いてほしい。
ちなみに僕はジャンルとしてのホラーはそんなに好きじゃない。
恩田陸作品は最近だと、「蜜蜂と遠雷」がヒットしたので青春、音楽小説というイメージが強いかもしれないが、ホラーもめちゃくちゃすごい。
読んでいる間は、心がずっと落ち着かなくて、目隠しをされたまま歩かされている感じ。手探りでなにか掴めるものはないかと、どんどんページを進めて、一気に読みきってしまった覚えがある。
また、複数人の視点が移り変わっていく手法もデビュー作とは思えないほど巧みで、文字だけでここまで世界を想像させ、手に汗握る臨場感を与えられることが凄すぎる。
まるで映画を観ているんじゃないかと錯覚させられるほどの迫力があり、登場人物たちの卒業とともにずっとつきまとっていた不安感が消える。謎は謎のまま残り、素晴らしい余韻を味わえる最高の一冊。
特に、学園祭の演劇のシーンはスピード感や臨場感が凄い。文字の力、文章の力を思い知らされた作品だ。

ちなみに、恩田陸作品の一つである「ドミノ」というパニックコメディ小説も、多数の登場人物の視点が次々と移り変わり、それが最後には一つに繋がっていく素晴らしい作品なのでオススメ。
「蜜蜂と遠雷」を読んだ人は、他の作品もぜひ読んでほしい。恩田陸は天才。(何様だよ)

「深夜特急シリーズ」著:沢木耕太郎

ここまで読んでくださった方はもうお気づきかもしれないが、僕はここまで本といっても、小説しか読んだことがなかった。
ここからは、小説以外の本との出会いを少しだけ語る。

僕は大学生になってから、ほどほどに小説を読みながら、カフェ巡りにハマった時期がある。
これは大学生特有の大二病かもしれない。(笑)
カフェ巡りは基本的に1人。それはもちろん本を読みたいからだ。
ある日、1人で大通り駅付近の「WORLD BOOK CAFE」というカフェに行ったときのことだ。
ここは世界をテーマにした本が揃うブックカフェで、旅の写真集やエッセイ、アートブックなどが置いてあり、自由に読むことができた。
そこで僕が出会った本が「深夜特急」だ。

「深夜特急」は沢木耕太郎による紀行小説で、インドのデリーからイギリスのロンドンまでバスだけを使って旅する物語。
これは筆者自身の旅行体験に基づいたものだ。
言ってしまえば、これも小説なのだが、実体験に基づいたものであるため、僕にとっては小説というよりも実話、筆者の旅行日記のような感覚で読み進めることができた。
これが新鮮で、面白かった。
僕の知らない土地で、筆者がどんな景色を見て、何を感じたのか。
初めて、他者の感じていることや考えに興味を持った体験だった。
ちなみに、海外への憧れや自由思想がいっそう強くなったのはこの本を読んでからだ。

「すべての男は消耗品である」著:村上龍

僕がひどく衝撃を受けた問題作。
「深夜特急」をきっかけに小説以外の本も読んでみようというときに、タイトルに惹かれてなんとなく購入したエッセイ。
今の時代じゃ到底受け入れられないだろうな。
男と女の話だが、とにかく暴言がすごい。しかし同時に、名言も多い。名言と言っていいのかわからないが。
村上龍、尖りすぎだろと思った。
賛否両論、好き嫌いは完全に分かれる一冊だ。
内容をシンプルに伝えるのが難しいので、僕が衝撃を受けた言葉をいくつか紹介しておく。

・男は、制度的に父親になるしかない。女が他の動物と同じように、生物学的に母親になれるのとは決定的な違いだ。

・当然だが、アナルセックスをしたくらいで制度から自由になれるわけではない。

・顔やからだの美醜、生まれ、育ち、それらも才能の一部だ。才能はほとんど運命と同義語だと言ってもいい。

・要するに、才能のない連中が戦争をしたがるのである。

・男が本当にだめになる時、それは人類が人類ではなくなる時だ。意味なく腹が立ってきた。もう、止めた。日本は、平和だなあ。

・「美人は三日で飽きる」というのはブスの自殺を救うための嘘である。

このありさまだ。女性蔑視というには軽率だが、少なくとも現代においてまともに受け入れられる思想ではない。
この作品が書かれたのは、バブル時代だ。
必ずしも、鵜呑みにするべきではないし、批判もあって当然、だがどこかに惹かれてしまう感覚があったのはたしかだ。
男と女の本質をあたかも見抜いているような、制度から外れた思想。
"快楽を得ようと思えば、リスクを負って、制度の外へ立つしかないのだ。"(引用)
ちなみに例として挙げた言葉たちは前半80p以内で現れる。この調子が300p弱続く。女性にはお勧めしない。



僕の世界を変えてきたのは常に本だった。
小説に、豊かな感情と想像力を与えてもらった。
漫画に、優しさや正義感を教えてもらった。
エッセイに、他者の思想や価値観の多様性を痛感させられた。
今の自分を形成しているのは、文字と文学だ。

やはり人生において象徴的な本との出会いは、記憶の引き出しから見つけやすい。
その本を手に取った瞬間の映像や、思考が鮮度を持って蘇る感覚は気持ちがいい。
過去回想は漫画やアニメの特権ではない。
あなたにもあるはずだ、忘れたはずの記憶を呼び起こすスイッチが。
僕にとってはそれが本であるように、あなたにとっての大事なものは過去に置いてある。

過去は変えられない。
だが過去を過去のまま置き去りにしてしまえば、今を見失い、未来に待っているはずのチャンスを潰してしまうかもしれない。
過去を振り返り、当時の自分が感じた新鮮な刺激をもう1度味わおう。

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