羅針と紅葉
紅葉の紅を眺め見て
心に浮かぶあの夏は
陽炎みたく内揺れる
透ける景色は君の顔
何故と問うたら恋しきや
儚き恋の夢のあと
鐘の音響く寺の庭
紅葉は影に隠れたり
庭の水面にカワセミが
青の翼をはためかせ
飛んできたりて水浴びや
石の上にも一時間
坊主は柿をもぎ取りて
渋柿甘く変わらせる
南無阿弥陀仏つぶやきて
仏の前に甘い柿
お客が来てはもてなして
学びを深め教えのぶ
法悦の日は輝きて
涙を流し懺悔する
幾千毛穴汗を噴き
合わせた手と手シワになり
念仏の声澄み渡り
やがて収まる感激は
衆生輪廻の定めかな
願兼於業覚知して
いざ人々を助けよう
足を伸ばして行脚する
旅する僧侶徳を積み
やがて帰る日来たるとき
明けの明星降り落ちて
我が身に入りその光
照らし尽くして燃え盛る
紅燃ゆる白の陽よ
流れる血潮脈々と
波を作りて廻り終え
肺から空気吸い込んで
新陳代謝一日の
昼と夜とを作りては
花火が上がり夜はふける
やがて太陽登りだし
熾火の消えるときあらば
新たな星を創り出す
心の中に星一つ
輝き出して目が眩む
世界の白に紅を足し
もみじ葉の色見つめては
故郷の香り沸き立って
ああ懐かしき紅葉の木
君は変わらずそこに居た
頬を寄せては笑み一つ
植物の笑み喜びや
風たち木々を撫でてゆく
木肌の色は若々し
隣に植わるイチョウの木
黄色と紅で石の上
染め上げてこそ秋の色
季節の絵画そこにあり
ひらりはらりと葉は落ちて
君と僕との間へと
降り注ぐから仰ぎ見て
青の空色雲の白
間に映る紅と黄よ
僕の心も染め上げて
心の中に自然あり
自然の中に私あり
融通無碍の時流れ
雲の流れに身を任せ
揺蕩う空は何色か
きっと宇宙はここにある
行きたいときに行けるのが
心の機能本質さ
仏眼開く時あらば
その心うち宇宙あり
ミヲヤの光照らすのは
たった一つの真理かも
三昧のとき来たるれば
心は久遠時を越え
中今に座す刹那には
すべてが詰まり宝箱
蔵の財とは心なり
虚空の蔵の心から
色とりどりの色をとり
絵筆を持って地図を描く
人生航路書き出して
こうありたいと願うけど
産まれてきたら手の中に
地図は見えないゆえに旅
旅路の果てに辿り着く
魂の中羅針あり
航路は自由目的地
変わらぬそこは行けるとこ
辿り着いたら喜んで
産まれた意味を思い出す
約束の地に紅葉あり
羅針と紅葉相結ぶ
心の機能その一つ
やがて終点旅を終え
見たいと思う景色見て
やがては次の旅をする
器を変えて旅に出る
水は色々取り込んで
やがて出来るはガラス玉
スノードームの雪の色
雪はみぞれに成りだして
閉じ込められた人の世に
雨が降り出し傘をさす。
心うち もみじに雪は 降り積もり
長い冬の音終わるとき来る。
二〇二二・九・二三 記す。
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