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カレンダーストーリーズ

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『カレンダーストーリーズ』…丘本さちをと毎月のゲストが文章やイラスト、音楽などで月々のストーリーを綴っていく連載企画。
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2016年4月の記事一覧

『カレンダーストーリーズ』ウラ4月 「人木(花→葉)」         【イラスト】作:ヒフミ ヨイ



ウラ4月「人木(花→葉)」作:ヒフミ ヨイ

cover design・仲井希代子(ケシュ ハモニウム × ケシュ#203)

*『カレンダーストーリーズ』とは…"丘本さちを"と"毎月のゲスト"が文章やイラスト、音楽などで月々のストーリーを綴っていく連載企画です。第一月曜日は「オモテ○月」として丘本の短編小説が、第三月曜日は「ウラ○月」としてゲストの物語が更新されます。

※2016年 10月

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『カレンダーストーリーズ』オモテ4月「猫に乗る」            【掌編小説】作:丘本さちを

『カレンダーストーリーズ』オモテ4月「猫に乗る」            【掌編小説】作:丘本さちを

 大きく吸い込んだ息をゆっくりと吐き出すと、私の体はだんだんと小さくなっていく。風船が萎んでいくみたいに。部屋の天井がゆっくりと高くなり、テーブルの脚が視界に入ってくる。緑色のカーペットの毛並みは草原のようにどこまでも続いているし、開けっ放しの掃き出し窓から春の砂まじりの風が吹き込んでくる。

 四月の空はどこかマゼンタの差す柔らかな青空だ。

 リオネルの白い毛に包まれた前脚が目の前に現れる。こ

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『カレンダーストーリーズ』ウラ3月 「彼岸問答」            【掌編小説】作:小泉清美

『カレンダーストーリーズ』ウラ3月 「彼岸問答」            【掌編小説】作:小泉清美

 むせ返るような若葉の香に、時折混じるきな臭さは、まるで頚木のようだ。
 徐々に強さを増すそれは、この身から歩む気力を奪うようで、私はついに立ち止まった。

 強く閉ざした双眸の力を緩めると、眼前の暗闇はまぶたの向こうより差す春の陽に一掃される。
 まぶたの中の白き世界にしばらく佇んだあと、私は意を決し、そろりと目を開いた。

 すると再び、私の視界は黒で埋まる。

 我が前に広がるのは、うららか

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『カレンダーストーリーズ』オモテ3月「三月の神隠し」          【掌編小説】作:丘本さちを

『カレンダーストーリーズ』オモテ3月「三月の神隠し」          【掌編小説】作:丘本さちを

 三月になると私は神隠しに遇う。季節の変わり目は空気が入り交じるから、冬のシベリア気団と春の揚子江気団の間に挟まれて、私の体は世界の裏側へと滑り込んでしまうのだ。

 季節の間の世界はとても静かだ。あまり風も吹かないし、音も響かない。空には小動物のようにうずくまった雲がぽつりぽつりと浮かんでいるだけ。口笛を鳴らせばどこまでも響いていく。半日もすれば地球を一周して頭の後ろから聞こえてくるくらいだ。

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