渡辺大輔・新刊『さよならデパート』全国書店にて発売中

山形県山形市で、料理店と出版業を営んでいます。 著作『キャバレーに花束を』『この街は彼…

渡辺大輔・新刊『さよならデパート』全国書店にて発売中

山形県山形市で、料理店と出版業を営んでいます。 著作『キャバレーに花束を』『この街は彼が燃やした』 新刊は、2020年1月に自己破産した大沼デパートの盛衰を追うノンフィクション『さよならデパート』です。 全国書店・ネット書店にて販売中(流通:トランスビュー)。

最近の記事

昨日、人に言わなかったこと(3)

・牡蠣の殻って、身を食べて40分くらい経ったら勝手に粉々になってくれたら楽なんだけどな。 ・郡山の「真子餃子」は頻繁に思い出すくらいおいしかった。 ・インタビューの録音を聴き直してると、結構涙が出てくる。会って話してる最中は、時間とか段取りとかに邪魔されて気付けていない大事なところがあるみたいだ。 ・飲み会で出された料理を平気で残して帰るような人に、礼儀とか語られたくないよな。 ・とある争いの真っ最中で、ラジオの編集ができない。 ・Twitterで物を撮る時に、わざ

    • 昨日、人に言わなかったこと(2)

      ・いちご大福のさわり心地を再現したおもちゃがあったら欲しい ・インドのケンタッキーのビリヤニ食べたい。 ・日曜日に鰻が10kgも届く。 ・キャッチの人って、離れた所から見てると応援したくなる。 ・Twitterの人たちに踊らされてるラーメン屋さんを見ると、ぐぐってなる。 ・できれば毎日赤湯に通って書きたいけど、そうもいかない。 ・朝一で予約キャンセルの連絡があったけど、その方の友人が代わりに来てくれることになった。こういう対応をしてくださる方は本当にありがたい。

      • 昨日、人に言わなかったこと(1)

        ・ふとTwitter開いてしまう癖はなくしたい。 ・「カレーは飲み物」って表現に飽きて5年くらい経つ。 ・コンビニのコーヒーを買えるようになった。 ・からしをたくさん付けてくれるトンカツ屋さんはいい。 ・学ぶことは、慣れ親しんだものと別れることでもあるのかもしれない。 ・やりたいことは全部やってみるけど、それぞれに専門分野を作った方がいいみたいだ。 ・こういう形ならコツコツ続けられるかもしれないので。

        • 「さよなら」——『さよならデパート』ができるまで(最終回)

          父は、私が25歳の時に突然亡くなった。 実家から離れて、とはいえ車で15分かからないくらいの所にある借家に住んでいた頃だ。工業団地の木工会社に勤め、キッチン用の吊り戸などを組み立ていた。毎日握る電動ドリルやゴムハンマーのおかげで、腱鞘炎になるわ指が太くなるわで、「生活のために健康を支払っているのだ」なんてことを考えたものだ。 その日は休みだった。 友人の結婚式が開かれ、盛り上がりは3次会まで続いていた。 ふと携帯電話が鳴る。珍しく弟からだった。 祝いの場だし、いつもなら翌

          「日曜日」——『さよならデパート』ができるまで(25)

          本作りの仕上げが「校正・校閲」だ。 誤字脱字を見つけたり、事実関係に間違いがないか確かめたりする作業なのだけど、これが「地獄」と呼ぶにふさわしい。 いや、他の人が書いたものなら割と楽しいのかもしれない。 新しい情報に接することができるし、 「あっ、『証明』が『照明』になってるよ」 とか言って、間違いを見つけるたびに純米せんべいでもバリバリやっておけばいいのだから。 まあ、ミスを見逃したら著者に対して責任が発生するのだから、気楽なはずはないのだけども。 ともかく、自作の見直

          「日曜日」——『さよならデパート』ができるまで(25)

          「さよならデパート」——『さよならデパート』ができるまで(24)

          ずいぶんと間が空いてしまった。 理由は明らかで、新作を書いていたのだ。 ビールと一緒に日本酒を飲む、とかだと難なくこなせるのだけど、文章に関しては同時に進めることがあまりできない。一方の世界に夢中になってしまうからだろう。とはいえ、そうも言っていられない原稿依頼を頂戴したりもしたので、同時進行にも挑戦していきたいと思う。 今書いているものについて少し触れると、次作は「戦後のとある温泉町」を舞台にしたノンフィクションだ。 置屋がひしめき、芸者たちが旅館をにぎわし、遊郭が男た

          「さよならデパート」——『さよならデパート』ができるまで(24)

          「家族」——『さよならデパート』ができるまで(23)

          本文の完成は間近だ。 考えなきゃいけないのは装丁だけじゃない。 いずれ仕上がる本を「どこで売るか」についても検討しなければならなかった。 『キャバレーに花束を』『この街は彼が燃やした』の過去2作は、主に山形市内の書店さんに直接交渉し、委託販売をしていた。 「委託販売」とはつまり、実際にお客さんが買ってくれた分だけの売り上げを受け取る、という仕組みだ。 例えば◯◯書店さんに30冊を委託したとする。 しばらく売り場に並べてもらって、3ヶ月後に20冊が売れていたとしたら、その分

          「家族」——『さよならデパート』ができるまで(23)

          「脱落」——『さよならデパート』ができるまで(22)

          平成編の始まりだ。 章題が示す通り、昭和期に大沼と斬り合ったライバルたちが、新しい時代になぎ払われて次々と脱落してゆく。 ミキさんという協力者を得たのに加え、ここまで来ると資料調査が格段に楽になる。平成以降のことはネット上でさまざまな情報が手に入るし(もちろん精査は必要だけど)、何より図書館に行けばキーワード検索で目当ての記事を探し出すことができるのだ。 例えば山形新聞のデータベースを使用したとしよう。 検索窓に「大沼」と入力すれば、大沼について書かれた記事が画面にずらっ

          「脱落」——『さよならデパート』ができるまで(22)

          「炎は消える」——『さよならデパート』ができるまで(21)

          長かった昭和が、この章で終わる。 山形中心街の戦後を牽引してきた人間たちが、次々とその寿命を燃やし尽くす、書いていても悲しいパートだった。 さて以前書いたのだけど、次章の平成からはやや語りの視点を変えようと考えていた。第三者としての俯瞰では新聞のつなぎ合わせと似てしまう。それならすでに出ている記事で事足りるわけで、本にする理由がない。何より読まれる方が飽きてしまうかもしれないと考えたからだ。 もっと生々しく、大沼の中に居た人の目で終焉までを描きたい。 『さよならデパート』

          「炎は消える」——『さよならデパート』ができるまで(21)

          「灰から灰へ」——『さよならデパート』ができるまで(20)

          ある事情により、この章については書くのをしばらく保留していた。 そうしているうちに配慮すべき理由も薄くなってきたものだから、先に進みたいと思う。 今年の4月に『さよならデパート』を発表してから、ありがたいことにさまざまなメディアが取材を申し込んでくださった。 「渡辺さんが、一番印象に残っている場面はどこですか」 こういった質問をされることが多い。 たいてい私は「酒田の話です」と答えてきた。 この本の主題は「山形本店の創業から破綻に至る物語」なわけで、記者さんもそれにまつわ

          「灰から灰へ」——『さよならデパート』ができるまで(20)

          「事件」——『さよならデパート』ができるまで(19)

          この辺りから、長かった昭和編の終わりがかすかに見えてきた。 実は、明治・大正編が割とさくさく進んだので「発売日は2022年1月26日にしようかな」などと考えていたのだ。大沼デパートが営業を終了した、ちょうど2年後に当たる。 見積もりは甘かった。 この前、庄内出張へ行った際に、ホテル近くのスーパーで「モンブラン大福」なるものを見つけて買った。いちご大福のように、大福の中身がマロンクリームというわけじゃない。大福の上に、モンブランがどっかり腰を下ろしているという凶悪な品だ。 酔

          「事件」——『さよならデパート』ができるまで(19)

          「激突」——『さよならデパート』ができるまで(18)

          「そうじゃない方も多いはず」と前置きをした上で告白するけども、私にとって文章を書くこと自体は楽しい作業ではない。はっきり言って苦痛ですらある。 それでも本を作るのは、出来上がって、読んでもらって、面白かったと感想をもらうという一連が非常に刺激的だからだ。 飲み会の前に水分補給をがまんしているようなものだろうか。体じゅうがしびれるような1杯のために、ひたすら苦しみに耐えているのに似ているかもしれない。 音楽ライブみたいに、1行書くごとにお客さんの歓声でも上がればもっとモチベー

          「激突」——『さよならデパート』ができるまで(18)

          「新興」——『さよならデパート』ができるまで(17)

          長編ものを書くときは、設計図を作るのが一般的だ。 例えば推理小説だったら「最初にどんな事件が起こって」「誰が登場して」「どういった手順で捜査をして」「いつ犯人を暴いて」「どのシーンで終わる」といったことを決めていく。いわゆる「起承転結」を組み立てるわけだ。 じゃあ、その設計図はどこまで細かく作るべきなのだろう。 どうやら、人によってかなり違うらしい。 ある方に話を聞いたら、それはもう緻密に仕上げるという。 会話の内容や情景描写まで含めるものだから、そのまま書籍にしてもおか

          「新興」——『さよならデパート』ができるまで(17)

          「摩擦」——『さよならデパート』ができるまで(16)

          「圧倒的な規模のデパート」vs.「小さな商店」 この対立の激化を描いた章だ。 ふと「元エレベーターガールの話が欲しい」と頭に浮かんだ。 短絡的な思い付きかもしれない。でも、デパートの本にはやっぱりエレベーターガールが必要だと考えた。「駄菓子詰め合わせ」と言われて、キャベツ太郎が入ってなかったら拍子抜けだろう。そんな感じだ。 とはいえ当てがない。 例えばふらりと入ったバーで、奥のカウンター席に座った婦人が、きれいに後ろでまとめた髪に少しだけ白いものを忍ばせながら 「あたしも

          「摩擦」——『さよならデパート』ができるまで(16)

          【番外編2】腹がへる。——『さよならデパート』事件簿

          舟に乗ってみることにした。 『さよならデパート』を読んでくださった方ならご存知だと思うけども、序盤は「最上川」を中心に物語が展開する。内陸各地の産物を舟に積み、河口まで下して交易をしたというやつだ。 それで栄えた山形が、明治維新をきっかけに暗転するところに序盤の盛り上がりが、と言っては昔の人に悪いけども、興味深いポイントがあり、私個人としても最上川に惹かれていった。 「大石田」という町の、船着場跡に立って川の流れを見つめたこともある。天気の悪い日だった。傘を持参しておら

          【番外編2】腹がへる。——『さよならデパート』事件簿

          「旅せよ日本」——『さよならデパート』ができるまで(15)

          クラスのみんなが何の話をしているのか分からなかった。 うわさが飛び交う「とんねるず」の番組は知らないし、「ドラゴンボール」の新展開にも付いていけない。一斉に「それが大事」って歌を口ずさんでいるけど、私は聞いたことがあるふりをして両肩を揺らすだけしていた。 ある日の移動中、私も鼻歌交じりで歩いてみた。 後ろから誰かが近づいてくる。気配を察しながらも声は落とさなかった。僕も歌えるんだぞと示したかったからだろう。 「大ちゃん、その曲って」 背後に立ったのは、転校生の中村君だった。

          「旅せよ日本」——『さよならデパート』ができるまで(15)