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しあわせ。

「いや!すごいだろ!」
「あははは!なにそれ!」
今日も他愛もない話で盛り上がる。あなたの隣で笑っていられるだけで幸せだった。
「あれ?次の授業なんだっけ?」
「…」
「ん?ねぇ、聞いてる?」
返事が返ってこなかったから、ふとあなたの方に目を向けた。

そこには、教室の端で女の子と笑い合う“あの子”を見つめる君がいた。

あぁ。そうか。
本当は分かってた。あなたがどれだけ“あの子”が好きなのかも。


君が隣にいてほしいと願うのは、私じゃないってことも。

「あ、ごめんごめん。なんて?」
「もう!聞いててよー!」
何事も無かったかのようにいつも通り笑いかける。君が恋に落ちていくそのすぐ隣で、私が恋に落ちているなんてバレないように。


                                   ***


放課後。今日も君と一緒に帰りに下駄箱に向かう。下駄箱には誰かを探しているふうな君がいた。
「あ、私を探してる?やば、待たせたかな」
君が私を待っている。少し浮かれる気持ちを抑えて心の中で呟いて、君に呼びかける。
「おーい!一緒にかえ…」
私の声は君には届かなかった。

君が探していたのは私じゃなかった。
あの子を見つけて表情が明るくなる君の顔なんて見ていられなかった。すぐに踵を返して戻ろうとした。

「あ、おーい!」
君が私に気づいた。最悪のタイミング。君が駆け寄ってくる。
「なんか俺に言いかけなかったか?」
「なにもないよ!」
「なんだよ、気になるじゃないか」
私なんていいから。なんでこんな時だけ。

「…あの、私先に行くね?」
“あの子”が遠慮がちな目で私たちを見ている。
「あ、あのさ!私用事思い出したから、こいつと一緒に帰ってくれない?」
「え!?う、うん、わかった」
突然の出来事に君はなにやらもごもご言っている。そんな君の横を通り過ぎる。その瞬間に私は君の肩をぽんと叩く。
「頑張ってね?」
君は一瞬不思議そうな顔をして、私の大好きな優しい笑顔を私に向けた。
「おう。ありがとな。」


これでいい。だって私が願うのは、君の隣にいるのが私であることじゃなくて―


私が願うのは、君の幸せだから。

                                     ***


次の日私は君を帰りに誘い、いつもように君と並んで帰った。今日もまたばか話に花を咲かせようなんて思っていた。

でも今君は嬉しそうに私の隣で“あの子”と帰った昨日の話をしている。そんな話聞きたくないのに。気づけよ、ばか。


話すこと他にもたくさんあるでしょ?私髪切ったの。君が好きな肩くらいの長さに。一緒に帰る時に褒めてもらえるように。「似合ってるよ」のたった一言を言ってもらえるように。君のために切ったの。

なのになんで。なんで君はそんなに楽しそうに、私の隣で笑ってるの。


「じゃあまた明日ねー!」
「う、うん!またね!」
そう言って君と別れて1人になった時、涙がこぼれた。自分でも驚いた。それだけ君のことが好きだったことに。


こんなに好きになる前に、どこかで止まるところはなかったのかな。もう手遅れなのに、そんな思いが頭をよぎる。

こんなに好きにさせたんだからね。それでも私と同じくらい、君も“あの子”が好きなら仕方ないね。でも私が1番に願うのはあなたの幸せだから。


ありがとう。隣で笑っていてくれて。
ありがとう。幸せな時間をくれて。
ありがとう。こんな気持ちを教えてくれて。


でも最後にひとつだけ。


“あの子”を誰よりも幸せにしてあげて。

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