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つやちゃん『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』批評①

まずもって純粋に音楽としてすら十分に言及されていない

つやちゃん『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』

 『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』という書籍が今年刊行された。ラップミュージックを中心に執筆活動を行うつやちゃんの手により書かれた本書は、私のnoteの執筆動機と大きく重なる箇所が多く存在する。それが本書の冒頭に記された引用した箇所である(引用箇所を含む冒頭は以下noteで公開されている)。

 現在のポピュラー音楽批評・評論の一番の問題点は、「語る者」の少なさと偏り・ジャンル間連携の少なさである。このうち3つめは多少仕方ないにしても、前2つは改善が比較的容易であろう。このことは私の最初の記事でも紹介したとおりだ。この視点に立っているところで、私は批評をやめてただ賛辞を述べたくなってしまった(本章前であるのに)。

 本書では、フィメールラッパーを取り上げ、インタビューやリリックを取り上げて分析する手法を取っているものの、「紹介」という観点が大きいことが感じられる。それは本書の1/4ほどを占めているディスクガイドについても明らかだろう。「フィメールラッパー」として1章丸々紙幅が割かれているちゃんみななどの作品が挙げられているのは当然のこと、文章に少し登場しただけのポップ・ラップグループ、さらには「ラップ的なもの」として冷笑されがちなアイドルラップ、曲に高速で文字を詰め込む形式もラップとみなし取り上げているのは先鋭的。

 ただ、「フィメールラッパー」という視点をラップミュージックの中に置く際、『男性ラッパー楽曲に客演参加する女性シンガー楽曲』『女性シンガー楽曲に客演参加する男性ラッパー』といったジャンルを越えるコラボレーション曲もポップナンバーには多く存在したことは確かで、これらが接続の働きを果たしたことはある。「フィメールラッパー」として女性がラップをする、という点にフォーカスした書籍のためここまで踏み込むことは論がずれることにはなるが、この辺りも併せて考えていきたいところだ(本書のコラムで少し言及があったがここを膨らませるのも面白い)。またメジャーシーンにおいては小室哲哉、伊秩弘将辺りも避けては通れないが、ここについての言及が少なかったのが少し残念だった。R&B、レゲエ、ダンスミュージックなどのジャンルについての考察も面白いだろう。

 具体的な曲名を挙げると、このような楽曲についても考えたいというところだ。

童子-T「もう一度… feat. BENI」
フックを女性が担当し、ラップパートを男性ラッパーが担当する『定式』の模範解答

SPEED「Long Way Home」
伊秩弘将のラップミュージック(メンバー全員によるラップ、語り)

globe「still growin' up」
小室哲哉のラップミュージック(男女メンバーの掛け合いラップ)


 次回はラッパーをフィーチャーした各章についてもう少し掘り下げて論じていきたい。

参考・引用リスト(2022年3月11日更新)

・つやちゃん『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』DU BOOKS、2022年

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