赤字の保険会社を救う救世主スタートアップ、Antara Healthに迫る
1、 ケニアにおける保険の課題
日本における生命保険の加入の割合は80%を超えていますが、サブサハラアフリカにおける保険加入の割合は1.76%、ケニア人では2.8%であり(参照)、サブサハラアフリカ地域において民間の生命保険はほとんど普及していない状況にあります。さらに、国による医療費の補償も充実していません。(実際、医療費の40%〜80%は国の補償がない、自己負担になっています。)
結果、多くの人は病気が大幅に悪化してから病院へ行くことが大半になっています。それゆえ、早期発見できていたら医療費や死亡率を抑えることができるにもかかわらず、現状は高い死亡率と膨大な医療費に苛まれているのです。
加えて、現在ケニア人の最大50%が、糖尿病や肥満などの慢性疾患を患っているか、そのリスクがあると言われており、アフリカでは、慢性疾患が死因の第1位になっています。これらの疾患の多くは、兆候を早期に捉えれば予防可能ですが、多くの人が悪化してから病院に行くため医療費増加の大きな要因になっています。また、慢性疾患はアフリカでは広く認知されていないため、保険会社にとっても想定外の治療費がかかり、大きな損失になる可能性を抱えているのです。
実際、ケニアの大手保険会社であるSanlam社の場合、保険単体の損害率は79%にも上っており、販管費等を差し引くと保険収入単体ではほぼ赤字のような状態に陥っています。
(参照:Sanlam Kenya PLC 2019 Annual Report )
このように、顧客が不健康な状態は保険会社にとっても膨大なコストがかかるので、保険会社は顧客が健康になり、できるだけ病院の世話にならない状態を願っています。
そして、そのためには、「病気の早期発見」が鍵になっているのです。
2、 病気を早期発見するAntara Healthの仕組み
そこでAntara Healthは、健康保険の付加サービスとして、アプリベースでの健康相談・指導を行います。これによって保険会社の医療コストを大幅に削減しているのです。まずは、Antara Healthの使い方を説明します。
Antara Healthのアプリを導入すると、病気の有無に関わらず全員に個別の健康管理プランが構築されます。そして、すこし体調が悪くなった場合でも、電話、SMS、Whatsapp、またはアプリ上でAntara Healthの臨床医にアクセスができます。
例えば、朝起きて気分が悪いときは、
① ヘルスナビゲーターにすぐに症状を電話で相談
② テキスト、音声、ビデオで、Antara Healthの医師にバーチャルコンサルテーションを依頼
③ 必要に応じて、救急医療の手配
④ 一日中、病気の経過を監視
が可能になるのです。病院へ直接訪問する必要がある場合も、ヘルスナビゲーター経由で医療機関の予約ができるので、病院で長時間待つ必要もありません。
バーチャル医師は、顧客の病気がすぐに解決できるのか、病院での治療が必要なのかを判断し、薬の処方、画像診断、ラボでのテスト、施設や専門家への紹介、症状の写真や動画のアップロード等はアプリ上でも対応可能になっています。
このように、顧客は、病院に行かなくてもAntara Healthのアプリ上で診察を受けることができ、ヘルスナビゲーターは豊富な経験とトレーニングを積んで過去の健康状態も把握できているので、満足の出来る医療を受けることができるのです。
3、 Antara Healthは、なぜすごいのか
Antara Healthを用いると、最初の診療をデジタルで担うことでユーザーが健康になり、通院回数も減るので、保険会社のコストを削減できます。
実際、Antara Healthのバーチャルヘルスナビゲーションサービスを利用した保険プランは、通常のプランと比較して、保険損害率が8%~20%改善したというデータも存在しています。
上記のコスト削減に加え、顧客の病気を未然に発見することもできています。Antara Healthのサービスを受けたことで、これまで見落とされた基礎疾患ないしはそのリスクが発見された人は50%以上おり、現在、彼らはAntara Health上で作成されたプランにのっとって、これらの疾患を治療または予防しています。
顧客のAntara Healthのアプリへの満足度も高く、顧客とのエンゲージメントタッチポイントは通常時の10倍になり、通常プランと比較して3倍の患者満足度も報告されています。Antara Healthのアプリ上で、最初の診療を低いハードルで受けられることによって、顧客にとっても使い続けたくなるアプリになっているのです。
さらに、Antara HealthはAIを活用しているため、効率が良く運用が可能です。すでにヘルスナビゲーター1人で300人の患者の対応ができており、今後顧客が増えるにつれ、さらに自動化が進み、より効率的になっていくことが予想されます。
4、 今後の可能性
Antara Healthは当初チャットベースのTele medicineの失敗からピボットし、保険ベース且つAIの活用という点に着地にしました。その過程で、経営陣にはAIスタートアップVidadoですでにシリーズCまで持っていったKuang Chen氏や、アフリカ医療の専門家Kebba Jobarteh氏を招き入れています。
そして、アメリカでは、Antara Healthと類似したサービスを提供するVirtaは、既にユニコーンになっており、市場としても大きな可能性を持っているのです。
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