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ハーバード・アフリカコミュニティのレジェンドが創設した医療系スタートアップとは

アフリカにおいてヘルスケア分野のスタートアップは多く存在していますが、その中でも私立病院の赤字と非効率性という手をつけにくかった問題に取り組むことで、売り上げを伸ばしているスタートアップがあります。

Africa Health Holdings(AHH)は、アフリカの私立病院をまるごと買い上げ徹底的な経営改革を行い、短期間でターンアラウンドさせるビジネスモデルです。現在はすでに23の病院(2020年8月時点)を買収し、運営。毎年の売り上げは倍増しています。AHHとは一体どのような会社なのでしょうか?まずはその前に、ハーバード・アフリカコミュニティのレジェンドとも言われているAHH創業者・Sangu Delle氏の生い立ちを見ていきたいと思います。

AHH創業者、Sangu Delle氏とは

Sanguは、医者の父親の元、ガーナで生まれます。医者の一家でありながらも、Sanguの家族はリベリアやシエラレオネからやってきた難民や近隣住民の生活支援をしていたため、裕福な生活をしていたわけではありませんでした。

しかし、ハーバードという世界一の大学があると偶然耳にしたSanguは、周囲からは無謀と思われながらもハーバードへの進学を目指します。6歳の頃から毎年ハーバードに手紙を書き、15歳の夏には自力で金を集めハーバードのサマースクールへ行きます。高校は奨学金を得てアメリカの高校へ通い、大学は念願叶ってハーバードに進学しました。ハーバードではその後、修士(MBA)と博士(法学)の学位も取得しています。

Sanguは、ハーバードに進学した1年目にGolden Palm Investmentsを創業してVC投資を開始しました。彼がVC投資を始めるきっかけになったのは、地元(ガーナ)の知り合いに「この村に何があったらいいと思う?」と聞いた際に、病院や学校でもなく「仕事がほしい」と言われたからです。

当時(2000年代半ば)は、アフリカにおいて携帯電話とインターネットが普及し始め、アフリカの人々の生活様式が劇的に変化し始めている時でした。Sanguは、テクノロジーを利用したビジネスがアフリカにより良い仕事をもたらすと考えたため、VC投資を始めたのでした。

「TED Talksでアフリカの成長可能性について話すSangu」

Golden Palm Investmentsの投資先は、エンジニア養成のAndelaや、フィンテックのFlutterwave、ヘルスケア系のmPharmaReliance HMOなど名だたるスタートアップばかりで、今ではアフリカでもっとも成功しているVCの一つに数えられています。

様々なセクターに投資したSanguですが、アフリカで最も課題が大きく、また、彼の一家のファミリービジネスであるヘルスケア分野においてより直接的なインパクトをもたらしたいと考え、2017年には自身でAfrica Health Holdings (AHH)を創業、そのCEOに専念することになったのです。

AHHのビジネスモデルとは

アフリカは、人口の割に圧倒的に医療設備が足りておらず、多くの人が適切な医療を受けられません。医者の数を見てみても、10,000人あたりアメリカは28人の医者がいるのに対し、ナイジェリアでは4人、ケニアでは2人しかいません。

このように多くの医療問題を抱える中でも、私立病院の発展がアフリカ医療の発展をする上で鍵となると考えたSangu。なぜなら、アフリカにおいて私立病院は病院市場全体の半分を占めていますが、その小規模・中規模の病院の多くがそれぞれ独立した病院運営をしているため、データ管理、病院経営の部分でも非効率な部分が多くあり、収益を出せていない病院が多くあったからです。

そこでAHHは、アフリカの病院をまるごと買い上げ、徹底的な経営改革を行い、短期間でターンアラウンドさせます。具体的には、現在、23社の病院に投資していますが、投資先のアセットを集約することで①病院運営の集約(Centralization)とコスト削減、②オペレーションの標準化、③ベストプラクティスの共有、④規模の経済、⑤アセット間のシナジー、⑥Healthcare Techの活用を行い、短期集中でターンアラウンドを行い、オペレーションの効率化と利益率の最大化を実現しているのです。

実際、AHHの徹底改革により、TemaにあるRabito Clinicの月次売り上げは、約2,000ドルから22,000ドルにまで驚異的に上昇しています。

現在AHHはガーナ、ナイジェリア、ケニアで計23社の病院を買収しており、最近では、19の医療施設を保有するケニアのMeridian Hospitalも買収しました。2021年には傘下の病院数は40に増え、25万人の患者が通う計画となっており、アフリカ全土への展開を視野に入れています。

しかし、アフリカの病院運営という、専門性が高くオペレーションの重たい分野でありながら、なぜAHHは短期間で経営改善し収益化を出来ているのでしょうか?

イノベーションを効率良く進められる理由

イノベーションを効率良く進められる理由は、Sanguが大学時代に創設したVC、Golden Palm Investmentsの出資先との提携が出来ているからです。ヘルスケアの分野でデジタル化を推進するスタートアップに投資してきたGolden Palm Investmentsは、mPharmaを通じた薬の共同購入と安定供給、e-healthによる医療相談などを組み込んでいます。また、同じくハーバードを卒業したDr. Muriが創業したTalamus社の開発した病院管理システムや電子カルテ等がAHHの病院の基幹システムの一つとして導入されています。

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「Talamus社の開発したアプリ、MyCareMobile

このようにGolden Palm Investmentsの投資先との提携によって、病院のオペレーションを改善し、テクノロジーを融合させ、黒字化させているのです。

徹底的な改革が可能なAHHの投資先の病院ですが、こういった業務の集約化、DXの推進、ベストプラクティスの共有が可能な環境にあるため、実験的な取り組み(イノベーション)も多く行うことができています。

遠隔医療への進出

AHHが新しく取り組んでいるものとして、遠隔医療があります。

アフリカで遠隔医療を単独事業として行うと、拠点の立上げと運営コストがかかり、失敗リスクも高まります。しかし、AHHは既存の病院と医師を利用することができるので、遠隔医療の事業立上げもスムーズ。リモート診断+診断後に薬をデリバリーする仕組みの遠隔医療を導入し、急成長しています。

さらに、前述のTalamusのアプリと連携させ、来院患者も遠隔医療患者も、ひとつのプラットフォーム上で管理。患者自身も来院と遠隔医療を行ったり来たりできる仕組みになっています。

加えて、助産婦との連携により、従来病院に来なかった妊婦の取り込みによる母子保健の強化といった取組みも行っています。

ここからは、実際にAHHに投資を決定し、Sanguとはハーバード時代からの知り合いだった当社ジェネラル・パートナー(GP)の品田に話を聞いていきます。

GP品田の目に映ったSanguは、どのような人物か

品田「Sanguはハーバード・アフリカ人コミュニティでは伝説的な人物でした。彼の活躍に感銘を受けて祖国での起業を志すアフリカ人卒業生も多く、彼がハーバードに戻ってきた時には、カンファレンスに引っ張りだこでした。

私とSanguの最初の出会いも、2017年、ハーバードのアフリカ・ビジネス・カンファレンスにおいてでした。Sanguは、Golden Palmの創業者としてVC投資に関するパネルディスカッションに登壇しており、アフリカでVCの道を志してハーバードで勉強していた私は、彼に駆け寄り、アドバイスをもらいました。

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「ハーバードのアフリカ・ビジネス・カンファレンスにおいて」

その半年後の2018年夏、私はナイジェリアのベンチャーキャピタルで働き始めました。この時も、キャピタリストの大先輩であるSanguに、現地エコシステムのキーパーソンを紹介してもらったり、今後の相談に乗ってもらったりしていました。

そして2019年、Kepple Africa Venturesとしてナイジェリアで投資を開始した私は、Sanguとナイジェリアで再会します。その時SanguはすでにAHHを立上げ、FacebookやSpotifyの初期投資家として有名なBryer Capitalはじめ、錚々たるVCからシード資金の調達を進めていたところでした。」

なぜAHHへの投資を決めたのか

品田「AHHへの投資を決めた一番大きな理由は、彼の覚悟を感じられたからです。すでにキャピタリストとして成功しているSanguが、今度はスタートアップの起業家として、大きなリスクと機会費用を背負って、アフリカで医療改革を行おうとしているのです。

また、彼の生い立ちと経歴をもってして、アフリカで最も深刻な医療の問題に取り組む彼のビジョンを聞いた際、全てが一直線で繋がっているような説得力がありました。彼以外にこれをできる人はいない、そう確信しました。

Kepple Africa Venturesは、「アフリカから新しい産業を作る」をミッションに掲げていますが、彼はまさに新しい産業を作ろうとしていて、投資家として彼の夢を応援せずにはいられませんでした。」

(*2021年3月1日追記)
AHH(Africa Health Holdings)は、エムスリー株式会社と資本提携を行いました。(プレスリリースはこちら
エムスリーの出資は、エムスリーにとってアフリカ進出の第一歩となり、AHHにとって、エムスリーの知見を活かして更なる発展を遂げるチャンスになります。今後の成長に目が離せません。

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最後までご覧頂きありがとうございました。今後ともKepple Afrifa Venturesのnoteでは、下記のようにアフリカスタートアップ紹介やスタートアップトレンドを発信していきます。フォローやいいねをしていただけると幸いです。


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