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【コラム】長生きをすることはリスクなのか?~「人生100年時代に関する意識調査」より~

 18日は、「敬老の日」でした。その日に合わせ、100歳近くになっても化粧品の販売店を続ける人や、90歳近くになっても波乗りを続ける世界最高齢サーファーなどのニュースを拝見しました。一方で近年、「公的年金だけでは老後生活に2000万円足りない」などの議論も拝見します。人生100年時代。長生きをすることは、リスクなのでしょうか?


2000万円問題とは?

 「老後2000万円問題」は、2019年6月に金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理」に端を発します。

 この調査は、少額からの投資を行う方のための非課税制度「NISA」や、掛金を拠出し、ご自分で運用方法を選んで掛金を運用する私的年金制度「iDeCo」などへの関心を高め、「生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識する」の目的で公開されたものと思われます。

 一方、この資料で注目されたのは、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯」の実収入と実支出のモデルケース。月20万9198円の実収入見込みに対し、生活費などの実支出は「26万3718円」と試算。つまり、毎月約5万5千円ほどの赤字が発生する、との試算が出されているのです。高齢者の雇用は進むと思われる一方、退職金制度のない企業も増えているなどから、

収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300 万円、30 年で約2,000 万円の取崩しが必要になる。

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

との指摘がされたのです。これが、「老後は2000万円ないとだめだ!」と、「長生きすることがリスク」というマイナスイメージにつながったと思われます。

人生100年時代に向けた各国の意識調査

 今回、敬老の日に合わせた報道などの中で、「百歳高齢者表彰に合わせ、5か国で実施した人生100年時代に関する意識調査を比較」(株式会社Hakuhodo DY Matrix)という記事が目に留まりました。つまり、米国・中国・フィンランド・タイと日本を比較し、「あなたは100歳まで生きたいと思いますか?」などと尋ねた調査です。

 この調査によると、

【5か国比較調査】結果詳細
Q1. 人生100年時代において、あなたは100歳まで生きたいと思いますか?
―「100歳まで生きたい」と感じている人の割合は日本が最も低い
 100歳まで生きたいかを聞いたところ、「とてもそう思う」もしくは「そう思う」と答えた割合は、日本が26.6%で対象5か国の中で最も低く、2番目に低いタイ(53.2%)と比較しても半数以下でした。最も高かったのは中国の69.6%で、次いでアメリカ(62.3%)、フィンランド(54.5%)と続きました。
■Q2. あなたは全体として、どの程度幸せですか。「とても不幸せ」を0点、「とても幸せ」を10点とすると、何点くらいになると思いますか
―2-1 日本の幸福度は対象5か国で最も低い5.8点だった
 10点満点で幸福度を質問したところ、日本の平均点は5.8点で対象5か国の中で最も低い結果となりました。一方、最も高かったのは中国の8.4点で、タイ(7.3点)、アメリカとフィンランド(どちらも6.9点)と続きました。

「100年生活者研究所」

 日本は100歳まで生きたいと考えている人が少ない―。なかなか衝撃的な調査でした。米中央情報局のTHE WORLD FACTBOOKによると、平均寿命は、日本85歳、フィンランド81.96歳、米国80.75歳、中国78.23歳、タイ77.91歳。日本は世界屈指の長寿国にもかかわらず、100歳まで生きることを希望する人が5か国で最低で、さらには、幸福度も5か国で最低という結果でした。

 この調査では、結果を踏まえ、以下のような指摘をしています。

「100歳まで生きたいとは思わない」人が多いことの背景に、「長生きして迷惑をかけたくない」という日本人の意識がありそうです。

 その一方、集団主義的傾向の裏返しとして、8割強の人が「みんなの役に立ちたいという気持ちを感じる」と回答。もし高齢者の世話を「人と社会に役立つこと」として当たり前に認識できる社会になれば、「長生きは迷惑」と感じることなく「100歳まで生きたい」と考える人が増えるのかもしれません。

「100年生活者研究所」

海外移住という選択肢

 日本では、長寿をすることへの希望が持てない。そんな方には、海外移住をおススメしたい。中でもタイへの移住! 

 先日のタイの出張でも、その可能性を含めた視察を行ってきました。まだ、詳細を明かすことはできませんが、まだまだ物価の安い東南アジアでは、生活費を安く住むことができますし、タイならば、ゴルフを楽しんだり、エステやタイマッサージを楽しんだりなどの娯楽もあります。

 日本からタイは、飛行機で片道5時間程度。十分に日本との行き来も可能です。在留日本人数も、世界4位(2022年10月現在、7万8431人、海外在留邦人数調査統計)と多く、一人当たりGDPも7,651ドル(2022年)と、日本(4万590ドル)より5分の1以下。経済発展しているとはいえ、まだまだ日本人には暮らしやすい国だと思います。

日本で働いた外国人の”出口”

 そして何より、日本からの移住者が増えれば、日本で就労した外国人の活躍の場が増えるのでは、と期待するのです。例えば、日本の介護施設で働いたタイ人が、タイに戻ってから、移住者向けの介護サービスを立ち上げる。日本の技術を持つとともに、さらには日本語もできるタイ人が身の回りを世話もしてくれる。高齢者の世話を「人と社会に役立つこと=外国人が活躍の場につながること」という考える人が増える―。そんな”出口戦略”ができれば、と考えるのです。

 医療の発達により、100歳を迎えられる可能性はどんどん増えています。それを「リスク」と考えるのではなく、「楽しい老後を、より長く楽しめる」と考えられる人が、もっと増えたら。そんな事業も提案していければと思います。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会に入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月に地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。

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