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[すこし詩的なものとして]0039 ため息のエチュード

僕には目的の場所がなかった。
孤独とはいったい何のためにあるのか考えてみた。

一方、彼女はため息をつき、空を見上げていた。

ある日のこと、僕は街の花屋で、意味もなく花束を買った。
渡す相手なんていないのに。

一方、彼女はまた、空を見ながらため息をついた。

僕の足に繋がれた枷は、徐々に重りを増やしながらカラダを地に縛ろうとしている。
孤独とは、そんなことの延長線上なのだと思った。

一方、空を見た彼女は、ため息をつき、また天を仰いだ。

僕は落胆していた。
孤独の意味を半分だけ理解してしまったから。
そして、重い枷を引きづりながら、学校の屋上へと無心に向かった。

一方、ため息が口から漏れた彼女は、また流れる雲を目で追っていた。

僕はどこかの建物の屋上までなんとか駆け上がり、乱れた息を整えながら、その視線の先を捉えた。

「はぁ」
彼女は、少し微笑んでまた空の雲を見た。

進み出す足は止まることを知らない。
僕は一歩一歩、確実に前へ進んだ。
そして彼女の傍をすり抜けた。
空は本当に広くて自由だ。そこには彼女のため息も乗っていた。

柵を越え、僕はカラダを枷に委ねる。
そしてまた、いつもの孤独の場所へ戻ることに同意した。

「はぁ」
耳のかすかな残響が、いくぶんか幸せな気持ちを持たせてくれた。

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思考を具現化するために言葉はあるのでしょう。
それは、とても容易なようで難しくもある。
でも僕らは言葉を日々使い生きている。
そこにある矛盾は、時に足をとめる作用を及ぼす。
だから、僕らは考える。
生きるってなんだろうと。
雨の降る東京、空はどんより霧に覆われている。

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