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「スパニッシュ・アパートメント」レビュー

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スパニッシュ・アパートメント - Wikipedia

公開

2002年

監督

セドリック・クラピッシュ

キャスト

グザヴィエ ロマン・デュリス

マルティーヌ オドレイ・トトゥ

アレッサンドロ フェデリコ・ダナ

トビアス バーナビー・メッチュラート

ラース クリスチャン・パグ

ウェンディ ケリー・ライリー

ソレダ クリスティナ・ブロンド

ジャン・ミシェル

イザベル セシル・ドゥ・フランス

アンヌ・ソフィ ジュディット・ゴドレーシュ

ウィリアム ケヴィン・ビショップ

感想

フランス人のグザヴィエは、スペイン語を習得すればいい仕事をやると言われ、EUの交換留学生プログラム「エラスムス計画」を利用し、スペインのバルセロナに1年間留学することになる。
導入の部分でめんどくさいシーンを早送りにする演出がちょっとアニメ的でクラピッシュらしい。
空港で出会ったムサいおっさんの家に居候しながら部屋探しに奔走し、やっとみつけたところは多国籍な人種が共同生活をするアパートだった。
ちなみにこれはシェアハウスではなくルームシェアリング。
欧米では家賃を下げるために他人同士が同じアパート(日本で言うマンション)に住むのが当たり前。
とくに学生はほぼ100%そうする。

そんな多国籍なアパートで共同生活を送ることとなったグザヴィエは、勉強や慣れないスペイン語の習得に戸惑いながらも仲間たちとの楽しい日々を送る。
個人的にもアメリカやオランダで多国籍なルームメイトとの生活をした経験があり、日々の異文化交流やわちゃわちゃ感が懐かしく感じられた。
その辺はわりとリアルだと思う。
冒頭、いかにも非リア充のようだったグザヴィエが、ルームメイトの手ほどきで女性の扱いを知り、人妻との情事にのめり込んでいき、だんだん雰囲気イケメンっぽくなっていくのが面白い。
ただグザヴィエはかなりのダメ男で、ルームメイトの性的嗜好や、彼氏のアメリカ人を小馬鹿にしたり、情事がバレてお世話になった医者の男からも絶縁され、フランスに残してきた可愛い彼女(「アメリ」のオドレイ・トトウ)に何かと理由をつけて構ってあげず、最後には愛想を尽かされてしまう。
ルームメイトからも「悲劇の主人公気取り」と呆れられる始末。
この辺の堕落ぶりもどこかリアルな感じがした。
そういえばクラピッシュ監督が描く男性主人公は毎度こんな感じ。
「パリの確立」の主人公もダメ男だし。
といっても他のルームメイトもなかなかのダメっぷりで、「尼僧」というあだ名を付けられるほどしっかり者のイギリス人ウェンディも後半の堕落ぶりはひどいし、中には恋人との間に<ネタバレ>してた男も。
女性が観ると『男って…』とため息ばかりつきそうな作品。

個人的に好きなシーン。
マドリードまで会いに来た恋人のマルティーヌをグザヴィエが空港に送り出すシーンで、彼女がエスカレーターに乗った瞬間すぐに帰ろうとするグザヴィエ、マルティーヌは振り返って彼を追いかけようとするが、すぐに諦めてまたエスカレーターの進行方向を向く、その直後二度振り返ってマルティーヌを確認するがずっと背中を向けていることにがっかりするグザヴィエ。
こういう繊細な心理描写がフランス映画だなーとしみじみした。
このまどろっこしさが嫌いな人も多いだろうが。

1年経ってフランスに帰国したグザヴィエだが、心はマドリードに置いてきたまま。
恋人との関係性も微妙になっていて(別れたのかどうかもイマイチ分からない)、自分のアイデンティティも崩壊しかけ、泣きながら街を彷徨う。
と、突然ラストで「これは実はアイデンティティの物語でした!」と主題が登場し、猛スピードでそれを回収しはじめ『え?え?』と取り残されている間に終了。
まあその匂いはあったけど、どう考えても最初からそのつもりでは作ってなかったよね?
そういえば初見ではこのラストにがっかりし、以後クラピッシュ作品は敬遠していたのを思い出した。
本作も1回しか観ていなかった。
改めて観るとクラピッシュらしさもしっかりあり、独特の荒さも味に思えたし、笑えるシーンも多くて楽しい作品だと認識を改められた。
ここから「ロシアン・ドールズ」「NYの巴里夫」と3部作が続く。

八幡謙介の小説

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