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Vol.19 「ディズニーランドは誰にでも作れるが、ディズニーにしか作れない」 パート2

Vol.5で「ディズニーランドは誰にでも作れるが、ディズニーにしか作れない」という話を書きました。

今回は、これの具体的な例を書きます。
ディズニーファンの方々は知っていることばかりですが、これらができているということが、ディズニーを特別な企業にしています。

特許があるわけではないので、他のテーマパークが真似をすることはできます。実際、真似しようとしているテーマパークもあります。
でもやはり、徹底ぶりには歴然とした差があります。
そして、それらが言葉にできないマジックを生み出しているのです。

では以下に列挙します。いずれも、誰でもできるが普通はできない、という形で表します。


テーマパークに地下都市を作るのは誰でもできるが、収支計算を考えるととてもできない

ディズニーランドやシーなど、テーマパークに地下都市があることは有名です。この地下都市は、魔法の世界を守るために大きな役割を果たしています。

キャストやキャラクターの移動、着替え、食事などは全て地下で行われます。だから、休憩に行くキャストを見ることはありません。キャラクターが控室から出てきたり、帰ったりする姿を見ることもありません。

地上から捨てられたゴミは地下で集められます。だから地上でゴミ収集をする姿を見ることはありません。

このように、魔法の世界に必要ないことは全て地下で行い、ゲストが魔法から覚めるリスクを完全に排除しています。

当然、構築や維持には膨大な費用がかかります。
しかも、地下都市を作ったからと言って、収益が上がる保証はどこにもありません。下手したら大赤字です。

もしあなたがテーマパークを作るとなった時に、この収支計算はできますか?地下都市を作る決断ができますか?

今はディズニー以外にもこのシステムを導入しているテーマパークはありますが、非常に限られています。そもそも、このようなことをいち早く始められるところがスゴイのです。

エリアを隔離するのは簡単だが、空間効率を考えるともったいなくてできない

これも有名な話です。
ディズニーランドやシーからは、外の世界から完全に隔離されています。ひとたび中に入ると、高速道路やホテルなど、周辺の施設が全く視界に入らないよう設計されているのです。

これは大変なことです。高速道路は最初から走っています。
USJでは、パーク内から高速道路が普通に見えます。周辺のホテルも視界に入ります。
これはポシリーの違いといえばそれまでですが、ディズニーはこれを貫くために、大変な設計費用をかけたはずです。
実現するために使えない空間もかなりあるでしょう。

また、中にあるエリア間にも秘密があります。
あるエリアにいる間は、隣のエリアの景色や音楽が絶対に混ざらないよう、各々が隔離されているのです。
そのために、エリア間に移動のためのルートを設けて、視界を分離しています。それだけでなく、水の音などで2つのエリアの音が混じることがないよう、綿密に空間設計されているのです。
ここまで徹底して設計されたテーマパークはディズニー以外にありません。

真似をすることは簡単です。
でも、そのためには広大な空間が必要です。
なのにこの空間は、直接お金を生まないエリアです。
あなたがテーマパークの作る時に、この空間を確保する勇気が持てるでしょうか。

地震の際にぬいぐるみを配ることはできるが、それを判断できるキャストは簡単には育たない

以前も書いた内容ですが、これも有名です。
東日本大震災の時、ディズニーランドやシーには多くの人が訪れていました。そして、地震の際、テーマパーク内のあちこちで避難をしていました。

その時に、現場のキャストが、自分の判断で、売り物のぬいぐるみを配り始めたのです。これで頭を守ってくださいと。

普通には信じがたいことです。
もちろんそのようなマニュアルはありません。なのに、上司の許可を得ることなく、現場のキャストがその判断を下すことが許されているのです。そしてその行為が称賛されるのです。

同じく地震の際、ゲストに安全な場所まで移動してもらうために、禁断の地下都市を通ったという話も有名です。これも現場キャストの判断です。

これらをマニュアルに書くことは簡単です。
でも、ありとあらゆるケースで対応方法を網羅することは不可能です。「地震が起こったらぬいぐるみを配ってください」「地震の際はゲストが地下都市を通っても問題ありません」というレベル感で書いていたらきりがありません。覚えることもできません。

でも、これができる人材育成をディズニーはできているのです。

あなたが経営者なら、どうやってそのような人材を育てますか。

実はディズニーはその秘訣も全て公開しています。
そして、それを世界中の経営者が学んでいます。
でも不思議なぐらい、実践できている企業は少ないのです。

人形の作り方に拘ることはできるが、隅々まで拘ることは難しい

ディズニーには様々なエリアがあります。
中にはウェスタンランドのように、アメリカ開拓時代の古い街並みをイメージしてつくられたエリアもあります。

そして、エリア内には当時の衣装を着た人形がたくさん置かれていますが、
衣装は全て当時の伝統的な手法で作られているのです。
作り方にまで拘らず、似た感じに作っても十分だと思ってしまいますが、それをしないところがディズニーです。

また、ディズニーには、動く人形もたくさんありますが、その動きを見ることが好きで通うゲストもたくさんいます。一日中見ても飽きないそうです。これも、衣装と同じで、動きに拘り抜いている結果と言えます。

これらは非常にコストがかかることです。
「拘り」というのは発揮の仕方が難しく、コストがかかりすぎてコケるというのは、商品開発でもよくあります。
エンジニアは、もっとユーザの声を聞け、拘り過ぎるなと言われます。

でも徹底した拘りこそが感性に直接訴えかける手段となり、何だかわからないけど魔法にかかっている、という状態に人を引きずり込むことができるのだと思います。
こればかりは感覚的なことなので、「思う」と言うしかないのですが。

あなたがテーマパークの作るなら、コストを横目にどこまで拘り抜くことができるでしょうか。

パーク内のベンチを毎日磨くのは誰でもできるが、パークを隅々まで綺麗にすることは難しい

これも同じような話です。
ディズニーの清掃は異常なぐらい徹底されています。

ベンチはゲストが日常的に使うものなので、キレイにするのは当たり前かもしれません。
でもディズニーは、清掃のレベルではなく、磨くというレベルで清掃しています。さらに建物の二階など、ゲストから見えないところまでも、徹底的に清掃していると聞きます。

見えないところにこそ魂が宿るという考え方なのでしょう。
「分かる」ではなく「感じる」領域なのだと思います。

あなたは、見えないところに魂を宿らせる自信はありますか。

まとめ

「ディズニーランドは誰にでも作れるが、ディズニーにしか作れない」事例をいくつか挙げました。
他にもたくさんあります。いくらでもあります。

そして、ディズニーはその秘訣を全て公開しています。
世界中の経営者が学ぶことができます。
できないことはひとつもありません。
でも簡単じゃないんです。できそうでできないのです。

だから、いつまでたってもディズニーは特別な企業なのです。

それがなぜなのかは以前書いたので、よければ読んでみてください。


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