Vol.2 行動基準を見れば経営理念の本音度が分かる
経営未経験者が好き勝手に語る「妄想経営学」です。
前回は「◯◯のため(経営理念)」と「収益」を、「建前」と「本音」ではなく、「本音」と「本音」で捉えて経営しないと勿体ないという話を書きました。
今回は、この「経営理念」に深くかかわる「行動基準」について考えてみます。
経営理念と行動基準
だいたいの企業には、経営理念と行動基準があると思います。
経営理念は企業が目指す姿で、行動基準はそれを具現化するために従業員がとるべき行動を示す指針です。
つまり、行動基準は経営理念を映す鏡といえます。
なので、行動基準を見れば、経営理念が「建前」か「本音」のどちら寄りになっているのかが、ある程度分かると考えています。
このことを、実際の例を見ながら考えてみたいと思います。
※行動基準には、行動指針、行動規範など、近い概念の言葉がいくつかありますが、妄想経営学では行動基準でひとまとめにして扱います。
※経営理念にも、企業理念、ミッション、ビジョン、パーパスなど、近い概念の言葉がありますが、妄想経営学では経営理念でひとまとめにして扱います。
行動基準の例
まず、比較のために2つの例を挙げます。
一つ目は、A社(私の会社)の行動基準です。
まだ自分の会社をオープンにする勇気がないので表現を変えますが、だいたい以下の通りです。大事なことが並んでいますが、よくある一般的な内容だと思います。
「お客様を知ろう」「知恵を集めよう」「共に創ろう」「常に変革しよう」「結果にこだわろう」
二つ目は、私が理想的だと感じているB社の行動基準です。
1.Safety(安全)
2.Courtesy(礼儀正しさ)
3.Inclusion(インクルージョン)
4.Show(ショー)
5.Efficiency(効率)
どちらが良いでしょうか。それほど差はないでしょうか。
では以降で、その違いを見ていきましょう。
経営理念との関係
ここで質問です。A社とB社の業種を当てみててください。
A社はどんな業種にも当てはまりそうで、分からないですよね。
B社はどうでしょうか。なんとなくエンタメ系だと分かるのではないでしょうか。
この違いは、行動基準が経営理念をブレークダウンしたものかどうかを表している、と見ることができます。
A社の行動基準は、その上の経営理念がどんな内容であっても当てはまりそうで、これだけではどこに向かっていくのか理解できません。
対してB社の行動基準は、少なくともエンタメに関して目指す経営理念があり、それを実践するための項目が挙げられていると考えられます。
ここで明かしますと、B社はディズニーです。超有名な行動基準なので知っている人も多いと思います。
ディズニーの経営理念は少し硬い言葉が並んでいてスッと入ってこないのですが、要はウォルト・ディズニーさんの「あらゆる世代の人々が一緒になって楽しむことができるファミリー・エンターテイメント」を目指しています。
そしてその理念を実践するための項目が、行動基準としてリストアップされています。
さらに各項目には、シンプルでありながら行動に移しやすい、非常に分かりやすいワードがチョイスされています。
優先順位
2つの行動基準には、それ以上に大きな違いがあります。
それはディズニーの行動基準には明確に優先順位が付けられているということです。1~5はただの番号ではなく、優先順位なのです。
※3のインクルージョンについては、全ての中心ということで最近追加されたもので、行動の優先順位という意味では今でも他の4つと考えられます。個人的には、インクルージョンはディズニーにとっては今更追加することでもないし、間に入れることで説明がややこしくなり、行動基準がぼやけてしまって残念な気がしています。(生意気なことを言ってゴメンナサイ。)
そしてこの優先順位が、とても大切な働きをしています。
特に「安全」を何よりも優先するということは、すべての従業員に徹底されています。
これも有名なことで、様々な書籍やサイトで解説されているので詳しくは書きませんが、例えばカストーディアル(園内の清掃員)が床を拭く際、かがまずに立ったまま作業をするのは、礼儀正しさよりも安全を優先するために生まれたスタイルです。
また、東日本大震災の時、ゲストの安全を守るために、ショーの観点から絶対に見せてはいけない禁断の地下通路を使ったというのも有名な話です。
優先順位の真の意味
私はこの優先順位には、もっと深い意味が隠されていると考えています。
経営理念が収益に優先するという思想です。
これも有名な逸話ですが、地震の際、キャストが自分の判断でゲストに頭を守るためのぬいぐるみを配ったという神対応が話題になりました。
これはとても注目すべき内容です。
ぬいぐるみを無断で配るのは、短絡的な収益を考えた場合には、会社に損失をもたらす行為です。
普通の会社だと、勝手にこのようなことをするのはギャンブルです。
結果的に称賛されるかもしれませんが、社内で論議が巻き起こり、おとがめを受けるリスクもあります。
なので、いざこのような現場に直面すると、まず上司の許可を取ろうとします。ところが上司も判断できません。ではその上に確認を・・・、とやっている間に何もできずに終わってしまいます。
ところがディズニーでは、迷わずこれを実践できます。そして、世間からだけでなく、社内でも無条件に称賛されます。
「安全」を何よりも優先するというのは、このレベルでの最優先なのです。
実はこのことは行動基準にも表れています。
「効率」が最後にあるという点です。この「効率」はチームワークだという説明もありますが、文字通り効率的な運用という意味もあると言われ、そうであれば行動基準の5項目の中で、唯一収益を直接プラスにする要素です。
「安全」「礼儀正しさ」「ショー」は、間接的に収益に影響する要素で、収益にプラスに働くかマイナスに働くかは、長い目で見ないと分からない項目です。
人が行動をとる時に悩むのは、この違いです。通常はどうしても収益性を意識するので、優先順位がないと「礼儀正しさ」や「ショー」よりも「効率」を優先しがちです。時には「安全」すら犠牲にしてしまい、大事故を起こすこともあります。
なので、優先順位を明確に示すことは、非常に重要なのです。これがあるからこそ、キャストは安心して行動を起こすことができるのです。
判断基準
以上のことから、ディズニーの行動基準は、優先順位を明確にすることで、迷った時の行動を決める判断基準として機能していることが分かります。
そうです。行動基準というのは、困った時に導いてくれる判断基準でもあって欲しいのです。
悩んだ時に照らし合わせてどうするかを決める基準です。
意見が分かれた時に、合意するための基準です。
多様性の時代には、いろんな考え方を持つ人が集まります。
多様な考え方を取り入れることは重要です。
ところが多様性は発散力です。
違う考え方がぶつかり合うので、収集が困難です。
これをまとめるのが判断基準です。判断基準は収束力です。
様々な考え方を集めつつ、最後は同じ方向にベクトルを合わせないといけません。それを実現するのが判断基準なのです。
以上の観点で、改めてA社の行動基準を見てみましょう。
「お客様を知ろう」「知恵を集めよう」「共に創ろう」「常に変革しよう」「結果にこだわろう」
それぞれ大事なことが書かれていますし、困った時のヒントを与えてくれてはいますが、判断をする基準にはなっていません。
まとめ
今回は、行動基準をベースに、経営理念の本音度を考えてみました。
ただ、A社の経営が本音ではないと言っているわけではありません。A社も経営理念を浸透させたいと真剣に考えています。
でも本音度が伝わる経営理念になっていないために、建前から抜け出せなくなっているのではないか、と思うのです。
私が考える行動基準は以下の通りです。
・経営理念がイメージできる内容にする
・判断基準になるよう明確な優先順位をつける
・経営理念を収益より優先する意思を込める
ディズニーの行動基準はこれらを満たし、経営理念を実践することにダイレクトにつながり、経営理念も収益も重要視する、「本音と本音の経営」の基盤になっています。
ここで、経営理念を収益より優先してよいのか、両方本音だから同列ではないのか、と思われるかもしれません。
そうではなく、同等にするために経営理念を上位に置くことが重要なのです。次回は、この点について書こうと思います。
あ、それと、今回、かなり偉そうなことを書いたなと自分でも分かっていますし、おそらく今後も書きます。
そんな行動基準を作るのも、浸透させるのもとても難しいです。収益を後回しにして良いと公言することはかなりの勇気が必要です。経営者の苦しみは容易に想像できます。
だからこその妄想経営学だとご理解ください。