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おいしいを増やす


1. 前書き


おいしいって何だ?


子供の頃に日が暮れるまで外で遊びまわって家に帰ると用意されていた、お母さんが作る野菜たっぷりのあのカレー。

テニスコートを往復して疲れきった時に飲んだあのアクエリアス。その後シャワーも浴びずに部活帰りにみんなで寄り道して食べた、ちょっとしょっぱいあのラーメン。

お正月に親戚のおじちゃんが注いでくれた、一本数十万円するあのワイン。エチオピアの農園で生産者の方々のこだわりを聞いた後に飲んだあの一杯のコーヒー。

旅先でお金がなくて困ってる時に、同じ部屋に泊まっていたおばちゃんが握ってくれたあのおにぎりとお惣菜たち。

極限までご飯を食べずにお腹を空かせ、久しぶりに口に物を入れた時のあの卵かけご飯。



お袋の味のように小さい頃から何度も食べている味をおいしいと感じたり、
疲れた時の塩味のように本能的に必要な栄養素をおいしいと感じたり、
生産ストーリーや希少性などの情報があることでおいしいと感じたり、
あったかいなあ〜といった様々な感情が相俟っておいしいと感じたり、
腹が減ってる時なら何を食べてもおいしいと感じたり。


人がおいしいと感じる瞬間って、いろんなパターンがあると思う。上に挙げた以外にもたくさんあるでしょう。

だからこそおいしいを考えるのってとっても面白いんだけど、この問いを深掘りしたら到底一記事では収まりそうにない。


そこで今回は経験によって作られる”おいしい”について。


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2. おいしいを増やす


①過去の経験との掛け算でおいしいを増やす

小さい頃からビールがおいしいという人はいないように、
最初からパクチーが大好物という人が少ないように、
おいしいはかなりの部分、経験によって作られている。

僕だって、昔はレバーとか白子とか、内臓系なんて気持ち悪い!ゲテモノ無理!と思って一切食べていなかった。だけど今では大好物の一つだ。

覚えている範囲でしかないが、僕がレバーや白子を食べられるようになったきっかけはたしか唐揚げだ。
昔から鶏の唐揚げ大好き人間だった僕が、何かのタイミングでレバーの唐揚げを食べた際、今までの価値観がひっくり返ったのをなんとなく覚えている。
そしていつのまにか、唐揚げに限らず、塩焼きでも刺身でも、いろんなタイプのレバーをおいしいと感じるようになっていった。

このように、もともと好きな食べ物に新しい味を加えていくことで、少しずつおいしいの範囲が広がっていくのではないか。

人は、その食べ物や料理が好ましい記憶と結びついていたりすると、おいしいと感じやすくなると思う。それまでの食体験が、人の好みに大きな影響を与えるのだ。

同様に、小さい頃は甘みをおいしいと感じ苦味酸味は嫌いだったが、どこかのタイミングで甘み+苦味、あるいは甘み+酸味を経験し、次第に苦味酸味をおいしいと感じるようになる。そしていつのまにかコーヒーをブラックで美味しく飲めるようになったのではないだろうか。

全く新しい食材に出会った際にも、普段親しんでいるもの(例えば醤油など)と一緒に食べればおいしいと感じやすい。一度おいしい体験をしてしまえば次は違った食べ方でもおいしいと感じやすいし、そうしていろんな食材に挑戦していくうちに、おいしいの選択肢は増えていくのだ。


②未知のおいしいを経験してみる

あとは単純に全く新しい食材をそのまま食べて、それが案外おいしい!ってことで、おいしいの選択肢が増えることも個人的にはよくある。なので皆さんには、自分の固定観念(あなたの過去の経験から作られてる相対的なものでしかないよ)を徹底的に疑ってもらいたい。

僕も常々固定観念をぶっ壊すことを意識していて、ここ最近だけでも、コオロギ、セミ、トンボ、バッタ、クモ、ゲジゲジ、ミルワーム、ヤギ、ワニ、ウサギ、カエル、ネズミ、アオダイショウ、ウミヘビ、カミツキガメとその生き血、ライチョウ、クジャク、アナグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、毒キノコ、ヒヨコ、ナマズ、ブラックバス、ザリガニ、諸々の雑草、などの初めての味を経験し、おいしいの選択肢が増えた。

ヤギとかライチョウはもちろん、コオロギとかセミとかめちゃくちゃおいしいからね。「虫なのに案外食べられる!」ではなく、普通の食材としてフラットに見ても「おいしい!」だからね。
食べないなんてもったいないよ〜


③おいしいを増やして地球を救う


ここでちょっと真剣な話になるけれど、

世界の畜産業(主に牛肉や豚肉)の破壊的な環境インパクトが明らかになったり、日本の水産資源の危機が問題になっている現代において、おいしいの選択肢が増えればこういった問題をちょっとだけでも改善することができるのではないだろうか。

牛肉や豚肉だけでなくネズミや虫もおいしいと多くの人が感じれば、ネズミや虫に新しい価値が付加され、食材の多様性も生まれる。そうすれば牛肉や豚肉の消費量を少しでも抑えることができ、畜産業による環境への悪影響も軽減できるかもしれない。

下北沢にある僕の大好きなサーモン&トラウトというお店でも、シグネチャーディッシュ(看板メニュー)としてブラックバスを提供している。それが「え!おいしい!」とお客さんの心を掴めば、マグロなどの水産資源の負担を軽くすることに繋げられるし、消費者が上記の問題を考えるきっかけにもなるかもしれない。
http://hapticdesign.org/designer/file009_morieda/

「すでにある高いものをより高く売ることも素晴らしいと思います。でも僕は、無いものに価値をつける方が、カッコいいし面白いと思っている。捨てられてきたものも売り物にしたいんです。」by 森枝シェフ


この言葉がカッコよすぎるし面白いし共感できるし最高だと思ってる。


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3. 君たちはどう生きるか


ここまで言ってきたように、おいしいと感じる対象は、徐々にであれ、たった一口によってであれ、経験によってどんどん選択肢が増えていく。

であれば、いろんな食べ物に積極的に挑戦した方が良くないだろうか。
昆虫なんて気持ち悪い!といった自分の当たり前なんて投げ捨てて、おいしいの選択肢を増やした方が良くないだろうか。

これからの人生、食糧難になったり、海外転勤で食生活を変えざるを得なくなったり、無人島で生活しなければならなくなったり、金銭的に牛肉やマグロばっかり食べられなくなったり、そもそも自分の食事のレパートリーに飽きてきたり、持続可能な食を気にし始めたり、様々な状況が訪れる可能性があるでしょう。そんな時に、おいしいの選択肢が多い方が、少ないよりはたぶん幸せに暮らせるのではないか、と僕は思う。


てかそんな状況とか関係なしにしても、おいしい!と思えるものが10食材よりも100食材の方が絶対に毎回の食事の時間が楽しくなるし、豊かな人生を過ごせるじゃん、と僕は思う。


この記事を読んで、少しでもおいしいの選択肢を増やしたくなった方。

是非家の外に出て、近くの公園に行き、木に止まっているセミを捕まえてみてください。そして家に持ち帰って、素揚げでもして、塩をパパッと振って食べてみてください。価値観揺らぎます。本当です。

もし何か分からないことがあったらなんでも聞いてください。全力で答えるので。


それでは、
また今度、違った角度からおいしいについて考えていきたいと思います。




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