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文学作品から名付けられた企業

人間それぞれに名前があるように、企業にも固有の名前があります。昔から「名は体を表す」なんて言うように、名前にはそのものの性質や実体を表すなど、不思議な力を持っているともされています。企業も同じで、創業者が会社の繁栄を願って名前をつけています。

普段何気なく見ている企業の名前も注視してみると面白かったりします。例として、Googleを見てみましょう。

グーグル (Google)

今やおなじみとなった名前ですが、僕は高校生の頃、この綴りが覚えられなく、よくGoggleやGoogelなどど間違えたり、日本のネットサービスのgooと混同したこともありました。今では英語の動詞になったり、日本でもググるなんて言葉ができてしまうくらい浸透していますね。

その名前はgoogol(グーゴル)の綴りを間違えたことに由来するそうです。このグーゴルは10の100乗を意味しており、無量大数(10の68乗)よりも大きい数字です。僕がかつてこの綴りを間違えていたように、創業者のラリー・ペイジも綴りを間違えてこの唯一無二の名前が完成しました。通常、社名にはわかりやすい名前をつけるのがベストと言われていますが、その法則はあまり関係なかったのかもしれませんね。

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さて、この企業の名前について、文学作品に由来するものがいくつかあることを発見しました。古今東西、さまざまな文学作品がありますが、現代まで語り継がれている作品とは、それだけ内容に深みがあり、人々から愛されているという証拠だと思います。今回はその中から、ドン・キホーテ、スターバックス、ロッテの3つを取り上げて、作品の内容に言及しつつ紹介していこうと思います。

ドン・キホーテ (Don Quijote)

激安の殿堂ドン・キホーテ(ドンキ)は日本生まれのディスカウントショップです。安いだけでなく、圧縮陳列と呼ばれる隙間ない詰め込みによって豊富な商品を揃えています。僕自身、昔からとてもお世話になっており、学祭前にうまい棒を大量に買いに行ったり、旅行前のグッズを買い集めたり、思い出がたくさん詰まっています。

そんなドン・キホーテの由来は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』のドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャにちなんでいます。この小説は、主人公のアロンソ・キハーノが騎士道物語に熱中し、自分は騎士になってしまったと錯覚し、破天荒な言動を繰り返していくというものです。その際、アロンソは自身を「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」(ラ・マンチャの騎士キホーテ卿)と名乗っており、それが小説名にもなっています。アロンソは騎士に憑依し、様々な場所で迷惑をかけ、周囲の人々を困らせていくものの、それらは自分の心の中に空いた穴を塞ぐためのことで、実は常に理性は保っていた上での言動でした。

アロンソのように自由で、既成の常識や権威に屈しない姿が、後に小売業界で飛躍を遂げたドン・キホーテの由来になりました。破天荒とも言えるアロンソの姿は迷惑に映るかもしれないけれど、しがらみのない中で理想を求めたその行動には共感することもできます。今や世界にも広く展開しているドン・キホーテはまさに、業界に新たな風穴を開けた創造主になったと思います。

スターバックス (Starbucks)

世界的なコーヒーチェーン店のスターバックスは、アメリカのシアトルで発祥し、今や世界80か国以上に展開しているそうです。日本でもそのおしゃれな雰囲気から、ちょっと良い気分の時に行くなど、ただの時間潰しではない、良質な時間を過ごすための場所となっています。ただ、倹約家の僕にとっては今でも敷居の高いお店で、一年に一度くらいしか行けずにいます。

そんなスターバックスの由来は、アメリカの作家ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』の登場人物であるスターバック一等航海士にちなんでいるそうです。この小説は、捕鯨船のピークォド号に乗った主人公のイシュメイルを含む船員たちが、伝説の白鯨「モビィ・ディック」を捕獲するという浪漫を求め、危険な航海をしていくという物語で、スターバックはその船の副船長でした。船長のエイハブははちゃめちゃで理想主義な人間で、それを宥める役目を果たしていたのがスターバックでした。最終的に船はモビィ・ディックを捉えるも、その威力から船は大破され、イシュメイル以外の全員が亡くなってしまうという悲しい結末でもあります。

この本の主人公のイシュメイルでも、船長のエイハブでもなく、副船長だったスターバックが名前の候補となったというのが、とても興味深いと思いました。スターバック自身はとても責任感の強い良い役ではありますが、決して目立つ方でもなく、最初は本当にこれが由来だと気づかなかったくらいです。でも、もしかしたらそういった謙虚な姿勢もふくめた上でのネーミングなのかもしれません。

ロッテ (Lotte)

日本ではお菓子とプロ野球のイメージが強いものの、韓国では百貨店から食品、流通、アミューズメントまで幅広い事業を手掛ける財閥企業のロッテ。「お口の恋人」というスローガンが印象的で、コアラのマーチやアイス爽など、日本のお菓子業界を牽引しています。僕自身、プロ野球は長年ロッテを応援しており、とても親近感のある企業です。

そんなロッテの由来は、ドイツの作家ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』のヒロインであるシャルロッテにちなんでいるそうです。この小説は、主人公のウェルテルが舞踏会で知り合ったシャルロッテに恋をするも、シャルロッテには既にアルベルトという婚約者がおり、ウェルテルはシャルロッテやアルベルトと仲良くしつつも苦悩を抱えていくという物語で、ほぼ全編がウェルテルが出した手紙による回想となっています。ウェルテルはシャルロッテへの恋が捨てられず、最後はその葛藤が捨てきれずに自害してしまいます。

それほどまでに人を魅了したシャルロッテからロッテの名前が名付けられました。創業者の重光武雄氏がこの小説にのめり込んでいた、という逸話もあります。最終的には悲しい結末となってしまうものの、その少年の淡い恋心を丁寧に描いているストーリーは当時、全ヨーロッパで広まったそうです。誰からも愛される企業になってほしい、という思いを込めるにはこれ以上ないネーミングだったと思うし、実際今その思いは実現していると思います。

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以上、3つの社名を取り上げてみました。ただ物語の登場人物から名前をつけるのではなく、その思いも反映されていることから、その企業に対する愛のようなものを感じ取れます。名前の付け方にルールはないものの、そういった奥深い意味が込められているることを知ると、少し違った視点から見ることができるのではないでしょうか。

日常の中に文学要素を入れ、少しでも感傷に浸りながら過ごしていくのもまた楽しいかもしれませんね。

出典:
http://graphics.stanford.edu/~dk/google_name_origin.html
https://www.tasteofhome.com/article/how-did-starbucks-get-its-name-the-real-story-might-surprise-you/
https://ppih.co.jp/ir/faq/detail.php?faqid=2520
https://www.lotte.co.jp/corporate/about/philosophy/

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