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23歳の「上京前夜」

あしたの朝、兵庫の実家から東京へ引っ越しをする。

別にいまどき、上京なんて珍しいことではないし、ぼくも23歳でそこそこいい歳なので、そこまで深く「家を出ていくこと」の意味を考えてなかったんだけど、前日の夜にもなると、さすがに少しだけ「ああ、人生であと何回親に会うんだろう」みたいなことを思う。


実家の前には、母方の両親が住んでいる。

ぼくから見た、おばあちゃんとおじいちゃん。

自分で言うと、自意識過剰も甚だしいんだけど、おばあちゃんはぼくのことが大好きだ。

いま実家で一緒に住んでいる姉と妹に内緒で、ぼくにだけ毎月1万円のお小遣いをコッソリ渡してくれていた。

さっき、おばあちゃんとおじいちゃんの家へ行って「明日の朝出発するね」と伝えに行ったら、目が合うたびにおばちゃんの瞳が潤んでいる映像が飛び込んでくるから、あんまり直視できなかった。

おばあちゃんとおじいちゃんと、10分くらい話してたんだけど、その短い時間で7回くらい、おばあちゃんから「身体には気をつけるんやで」って言われたから、東京に行っても身体には気をつけようと思う。

「次に帰ってくるんはGWかなー」って聞かれて、ちょっと言葉を濁していたら、「まあ、お盆には帰ってくるやろ?」と下方修正された(してもらった)。

「そうやねー、お盆には帰ってこれるかなー」って答えたら、「まあ、お盆が無理でもお正月には絶対に帰っておいでね」と、またもう一段下方修正をくらった(させてしまった)。

GWは難しいかもしれないけど、お盆は絶対に帰ります。

だからその代わり、「けんちゃん、元気に頑張るんやで。おばあちゃんとおじいちゃんも、元気におるから」って言葉、絶対に守ってね。


自分のおとんには、「明日の朝から、東京へ行ってくるわ!」とだけ伝えた。

おとんは、テレビの画面を見てぼくに背中を向けたまま、「おう」とだけ返事をした。

たぶん、ぼくがなんていう名前の会社に就職するとか、どんな仕事をするかとか、全然知らない。

というか、いまだにLINEアカウントすら持たないアナログ人間なので、仮に「webライター」って職業を説明しても、あんまり分からないと思う。

ぼくが台湾へ半年留学に行くときも、1年休学して東京へ行くときも、たしか返事は「おう」だけだった気がするから、まあおとんらしいと言えばおとんらしい。

「おれは何も口出ししないから、自分のやりたいことをやれ」っていう無言のエールだと、ぼくは勝手に受け取っている。


姉と妹は「食糧がいるでしょ!」と、せっせと各自ダンボールに、レトルトカレーやインスタントラーメンを詰め込んでくれている。

明日の朝、ぼくが家を出るタイミングと同じくらいに発送して、明後日ぼくの東京の部屋に、届くようにしてくれるらしい。

さっきおばあちゃんから「コンビニのご飯ばっかり食べてたらあかんで」って釘を刺されて、コンビニのご飯より添加物が多そうなものばっかりダンボールへ投入されてるんだけど、まあ賞味期限は長いから、少しずついただくことにしよう。


心配性のおかんは、あしたぼくと一緒に東京へ来る。

当初は、東京で一泊しようとしてたんけど、たぶんさすがにすることがなさすぎるだろうから、日帰りでいいよと言った。

「必要だったら東京で買うからいいよ」と、それ2泊3日の国内旅行ですか?くらいの荷物量で引っ越ししようとしているぼくの準備状況に耐えきれなくなり、気づけばおかんが買ってきた荷物で、あふれかえるぼくのスーツーケース。

あふれかえるどころか、持っていくスーツケースの数が1個増えていた。

まあ、台湾へ留学したときも、東京で休学して1年住んだときも「必要なものは現地で調達すればいいや」方式で2回ともとんでもない初期費用がかかってしまったから、3度目の正直ということで、今回こそはそんなにお金がかからなそうだ。

人は、学習することによって進歩する。


別にこれが一生の別れってわけじゃないけど、仮にこれからお盆と正月にしか実家へ帰らなかったら、ぼくは年に2回しか、おかんやおとん、おばあちゃんやおじいちゃんと会わないことになる。

これまで1ヶ月に30回会っていたみんなと、30年で60回しか会わなくなる。

そういう意味で、やっぱり「家を出る」っていうのは、「親子関係」「血縁関係」において、一つの大きな区切りなのだなと、いまさらになって少し実感する。


「別にこれが最後じゃないけど、ひとまずここまで大切に育ててくれて、ありがとうございました」って親に言おうと思ったけど、それ言ったらたぶん、おとんもおかんも、あとおれも涙腺が壊れてた可能性が高かったから、(ひとまず)実家暮らし最後の晩餐は、いつものようなくだらない話だけで終わった。

だから代わりに、ここで言っとこ。


別にこれが最後じゃないけど、ひとまずここまで大切に育ててくれて、ありがとうございました。

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