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再生 13話

公判が終わった。

良子は叔母や叔父と共に法廷で小山内勉と顔を合わせた。眼光の鋭さもすっかり消え失せている小山内は良子らには目もくれず終始俯いていた。
懲役二十年。
被告が殺意を否認していたことが認められ、薬が切れたことによる禁断症状から幻覚や精神薄弱状態にあったことも認められての量刑だった。

良子は法廷での、遺族の席から漏れ出る憎悪の空気があまりに希薄なことに少し苛立ちを覚えた。
良子自身も生前の父親に対しては死を望むことさえ日常的にあったが、父親の国枝敏弘の死んだ顔を見たら今までの恨みも許してしまった。
(誰もあんたのこと、好きじゃなかったんだね……)
(わかってたけどさ。私も大嫌いだったけどさ…… だけど…… 今はもう、私だけはあんたの味方になってあげる)
それは愛情と呼ぶにはあまりに屈折していて、同情と呼ぶにはあまりに複雑な感情だったが、良子は自分の唯一の父親に対するその感情から、国枝敏弘が殺されたことへの憎悪のない遺族たちとの決別を望んだ。
(卒業したら、バイバイ。あんたらなんか二度と顔も見たくない)

***

草介は夜のニュースで小山内勉が懲役二十年の判決を受けたことを知った。

(これで事件は終わった……)
この冤罪に安堵の色を浮かべたら、俺は正義ともっとも遠い品性下劣な畜生になり下がる。
そう自分に言い聞かせてみたが、その言葉とは裏腹にホッとして喜ぼうとする心を抑えることはできなかった。
(結局俺がやったことと言えば……)
殺さなくてもいい取るに足らない悪人一人を、傲慢にも大義を成すだなんて思い込んで正義の鉄槌を下すヒーローを気取って殺害して、挙句無関係な人間が誤認逮捕されたらホッと胸を撫で下ろして自らがやったと名乗り出ることもしない。罪のない人間が二十年もの間刑務所に入れられるというのにそれが自分じゃないことを喜んで、大義のつもりの殺人も自分可愛さからもう二度とするもんかと固く誓っている。
これが品性下劣な畜生の仕業でなければなんだというのか。

(死にたい…… いや、死ななければいけない……)
(国枝良子…… あいつはどうなる?)
せめて、せめて良子を幸せにしなければいけないと草介は思った。悪名高い父親の国枝敏弘から一人娘の国枝良子を助けるためにした殺人が何一つ良子を幸せにするものではなかったとしたら、自分は死ぬことさえも許されないと草介は思った。
国枝良子が幸せに生きていけることを見届けてから、誰にも見られずにひっそりと死のうと草介は決意した。
万死に値する悪行の中の一握りの良心を掬い上げるために、動機の一つである良子を救うということだけは絶対にしなくてはいけないと思った。
自分を神かなにかと勘違いした傲慢な畜生の最期の良心。それだけは肯定させてくれ。
その後は煮るなり焼くなり好きにしろ。それまでは死神にだってこの首は獲らせてやるものか。あの不幸体質な、闇が深い瞳の色をした痩せっぽちのブスだけは幸せにしてやらないと、俺は地獄にさえも行くことができないんだ。

俺が影ながら出来ることはなんだろう。
破壊は創造よりもはるかに易しい。何かを与えたあげるというのは、人の気持ちを満たしてやれるってことは、人を殺すことなんかよりもよっぽど大変なことだったんだ。
(そんな簡単なことを、俺はわからなかったのか…… )
草介は激しい自己嫌悪の泥の中に、頭の先までズブズブと埋もれていた。
草介の最後の生きる理由は、泥の中に咲く一輪の花のように唯一の希望となって存在していた。

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