管理職とは何か。人を使うとはどういうことか、組織を作るとはどういうことか
管理職と、一般社員の給与はかなり違います。
実際、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」では、管理職は非役職者に比べて、報酬の水準が高く設定されています。
令和4年賃金構造基本統計調査
だから、稼ぎたいなら、「人を使う」ことを避けて通れません。
また、もっと稼ぎたいなら、会社組織を作り上げなければなりません。
しかし「人を使う」技術は学校で習う性質の技術ではありません。
対象が千差万別である上、「与えられた問題を、決まった手法に則って解く」というものではないため、「これで万事OK」という事がないからです。
しかも、ほとんどの人は「管理職」になって、突然その技術を身に着けるように言われます。座学などの研修が提供されることもありますが、殆どは「現場で失敗しながら覚えろ」です。
そのため、管理職になってから、マネジメントで苦労する人は非常に多いのです。
そこで本稿では人を使う事と、組織を作ることの両者に焦点を当て、「人格論」に偏りがちなマネジメントの技術を、簡単ないくつかの原則に集約して紹介します。
管理職とは
管理職とはどのような仕事なのでしょう。そしてなぜ、一般社員よりも給料が高く設定されているのでしょう。
いえ、そもそも管理職は必要なのでしょうか?
改めて「管理職」がどのように会社に貢献しているのか考えてみると、これは意外にも自明ではないことがわかります。
例えば、Googleは一度、「管理職は不要」という意思決定をし、実際にマネジャーを廃止したことがあります。
Googleの創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは「とびきり優秀なエンジニアたちの自律」によって、仕事が進むと信じていたため、プロダクト開発チームをマネジャー抜きで運営するという実験をしたのです。*1
しかしこの実験は失敗に終わりました。
ラリーとセルゲイが、現場の何人かのエンジニアに「マネジャーが欲しいか」と尋ねたところ、「何かを学ばせてくれる人や、議論に決着をつけてくれる人が必要だから」と、彼らは管理職の必要性を訴えたのです。
Googleのエンジニアリング部門は1年以上マネジャー不在の状態でしたが、結局マネジャーを配置することにしました。
つまりGoogleほどえり抜きの社員が存在する組織であっても、管理職は必要だという判断を下したのです。
これは、人を組織として機能させるために、本質的な役割として「管理職」が必要であることを示唆しています。
例えば一例として、組織が会社として動くには、次のことが必要です。
マーケットを見てサービス・商品を作る
サービス・商品を売る
人を採用・育成する
評価改善する
お金を回収して、再投資する
創業時には社長や起業メンバーがこれらの業務を担います。
でも、会社が大きくなってくると徐々に分業化が進みます。
業務の量や、質が「個人で抱えきれる量」を超えてしまうからです。
マーケティングをする人。
商品を売る人。
採用をする人。
お金の管理をする人。
それぞれが、専門特化した仕事をします。
でも例えば、マーケティングの専門家が5人ないし10人いたとして、彼らの能力をどのように活用すればよいでしょう。
どうやって目標に沿って仕事をさせたり、問題が起きたときに「改善」をやらせたりすればいいのでしょう。
もっと言えば「新人」をどのように育成すればいいのでしょう。
そのために「管理職」という役割が必要になります。
管理職は、言ってしまえば、バラバラになりがちな「人の動き」を、統括して、意味のある目標に向かわせるための専門職です。
管理職の仕事は、一般的には以下のようなものです。
部門の「業績」に責任を持つ
部門の「方向、正しい仕事のやり方」に責任を持つ
部門の「社員のスキル」に責任を持つ
部門の「不手際」に責任を持つ
これらはGoogleがマネジャーを無くした時に出た、現場からの不満とほぼ重なります。
ただ、当たり前ですが、人はそう簡単に動きません。頼んだことも正確にやりません。
感情的になることもあれば、会社を突然辞めてしまう事もあります。
まだまだ未熟な人が組織に入ってくることもあります。
「人を動かす」仕事は難しいのです。
ですから、社員が一人欠けても組織全体の機能に問題はないですが、管理職がいなければ、組織は殆ど機能しません。
したがって、管理職の責任は重大です。
また、一介の社員であれば、貢献の範囲は「その人のアウトプット」が最大値です。
でも「組織を動かす人」であれば、貢献の範囲は「組織のアウトプット」が最大値になり、個人が出力できる貢献とはケタ違いの貢献になります。
小さい組織、例えば プロスポーツチームなどは、動かす構成員の数が少ないので、監督よりも選手のほうが重要です。
実際、監督よりも選手の方に高額な報酬が設定されています。
しかし、会社組織では、普通の人を効果的に動かすことができる技能を持つ、監督のほうが遥かに重要なのです。
だから、一般的に管理職は給料が高く設定されているのです。
稼ごうと思ったら「人」を動かすことを学ばねばなりません
したがって前項でも触れましたが、稼ぎたいなら「人を使う」ことを避けて通れません。
大半の平凡な能力の人を、企業の目的に沿ってうまく使いこなすことこそ、莫大な富を生み出すのに不可欠なことなのです。
「自分は管理職にはなりたくない」という方がいますが、もしお金が欲しいなら、管理職を目指す以外の選択肢は、そう多くありません。
マネジメント能力がなくても稼げる技能は、芸能人やスポーツ選手など、ごくごく限られた職業に限定されますし、稼げる額の上限も低いのです。
実際、世界の大富豪の多くは、機能的な組織を作り上げた、起業家です。
では「管理職の仕事」に原則はあるのでしょうか。
「マネジメント(=管理)」という言葉を生み出した、ピーター・ドラッカーはその著書で、大変役に立つ知見を披露しています。*2
マネジャーとは、組織の成果に責任を持つ者のこと
専門家には、自らの知識と能力を全体の成果に結びつける、マネジャーが必要である
マネジャーには2つの役割がある、一つは投入した資源の総和より大きなリターンを生み出す組織を作ること。二つ目は短期的な業績と長期的な業績をバランスさせること
マネジャーの仕事は5つある。
1. 目標を設定する
2. 組織する
3. 動機づけとコミュニケーションを図る
4. 評価測定する
5. 人材を開発するマネジャーの資質は千差万別だが、「真摯さ」に欠ける人間をマネジャーにしてはならない
マネジャーの働きを妨げるような間違いは6つ
1. 職務を狭く設計すること
2. 補佐役のようなマネジャーは不要
3. 原則として、マネジメントに100%の時間を使うことはない。プレイングマネジャーとするべき
4. 会議や調整が必要な職務は間違っている
5. マネジャーの仕事の不足をポストで補うことはしてはならない
6. その仕事に就いた人間が、次々に失敗を繰り返すような仕事は、仕事自体が間違っている
個人的には、最も重要な条件だと考えるのが、5.真摯さに欠ける人間をマネジャーにしないということと、6.の中の一つ「原則はプレイングマネジャー」の二つです。
いかに仕事ができたとしても、人を馬鹿にしたり、人を活かすという事を放棄して、できない人間を排除ばかりしている人物にマネジャーを任せてはなりません。
また、現場を忘れてマネジメントのみをやらせるようになると、自分の仕事の重要性を高めるために、細かなどうでもよいことばかりを部下に要求するようになります。
マネジャーは「自分の仕事も持っていることで現場勘を忘れず、適度に忙しいので、細かいことは現場に口を出さない」という程度が、ちょうどいいのです。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1ダイヤモンド社「1兆ドルコーチ エリック・シュミット」
*2ダイヤモンド社「マネジメント ピーター・ドラッカー」
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