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経済学アメリカ博士留学(1)受験編

本記事は、私(鈴木健介)のホームページに2018年夏に掲載した「アメリカ留学(経済学PhD)について」を加筆・修正したものです。2016年冬の出願から、既に3年半が経過していることをご承知おきください。ここに掲載されている情報の多くは、これまでの先輩方が既にインターネット上で共有してくださっているものと重複するかと思いますが、特に、首都圏・関西圏以外の大学からの出願の一例としてご参考いただければと思います。私のように地方大学からアメリカで経済学PhDを目指す場合、「縦のつながり」が少なく、右も左も分からない状態の中、出願することになる方も少なくないと思います。そうした人たちに、ひとつの事例として私の経験を共有したいと考えました。ただし、私は「受験成功組」ではありませんし、合格へのセオリーを示す意図もありません。留学を目指す本質は勉強したい研究したいという情熱だと思うので、小手先の受験対策に終始することなく夢に挑戦してください。

受験までの経緯

留学までの経緯について簡単に紹介します。私は、2009年4月に名古屋大学経済学部に入学、学部4年の2012年冬から2013年春にかけて半年間の交換留学(ドイツ・フライブルク大学)を経て、2013年3月に卒業(学士)、同年4月に大学院経済学研究科博士前期課程に進学しました。2015年3月に前期課程を修了後(修士)、同年4月より博士後期課程に進級しました。大学院では、名古屋大学のリーディング大学院プログラム(PhDプロフェッショナル登龍門)に参加し、後期課程からは日本学術振興会特別研究員(DC1)として研究を進めてきました。

名古屋大学では、北米大学院への学位留学(博士)について、少なくとも経済学の分野では殆ど実績がありませんでした。私の在学中では、中国からの留学生で一人北米の大学院へ進学したケースを聞いたことがあるだけです。そうした背景もあり、北米への学位留学について具体的に検討をすることはありませんでした。

転機は、2015年6月にリーディング大学院の研修の一環で渡米した際に訪れました。1ヶ月の米国滞在のうち2週間を自由に使うことが許され、修士論文の主要参考文献の著者であったPeter Schott先生(Yale)とEd Leamer先生(UCLA)と面会するチャンスを得ました。お二人は、突然のメールでの面会依頼を快諾していただき、これまでに味わったことのないような、たいへん刺激的なディスカッションを経験しました。その時に初めて、北米への学位留学という選択肢を、現実的に捉えるようになりました。

出願から留学までのスケジュール

先生方からの後押しもあり、2,015年の冬シーズンに1回目の出願に試みるも惨敗、2016年の冬に再度挑戦することになりました。再挑戦を決めた2016年春から渡米までの大まかなタイムラインについては、下図をご覧ください。

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以下で詳述しますが、私は奨学金の申請をしないまま、受験に臨んでいました。結果的にPenn Stateから奨学支援(ファンド、授業料免除と奨励金・スタイペンド)なしのオファーしか頂けず、2月以降に慌てて奨学金に応募することになりました。幸いにも、金澤磐夫記念奨学財団本庄国際奨学財団からご支援をいただけることになり、留学を諦めずにすみましたが、紙一重で諦めなければならない状況でした。北米への博士学位留学を支援してくださる主要な奨学財団では、大学への出願の前(4月から9月)に応募をするのが一般的です。アメリカへの留学を希望される方は、奨学金への応募を強く勧めます。なお奨学金の合否が、大学への出願締め切り(12月中旬)と、合格発表(1月から4月)の間にされることもあるようです。奨学金に合格した場合には、「追加情報」として大学側に通知することで、オファーが出るケースもあると聞きます(例えば大学からのファンドはつけられないが、外から奨学金を持ってきてくれるなら受け入れられるといった場合)。ポジティブな情報は、出願後にも伝えるといいかもしれません。

受験校選び

推薦書を書いて頂くことになった先生(以下に詳述)にご相談し、出願する大学を決めました。基本的には、ランキング上位から順に受けていきました。出願したのは、以下の16校です:Columbia、Colorado、Michigan、Penn State、Princeton、Purdue、Stanford、Toronto、UBC、UC Berkeley、UC Davis、UCLA、UCSD、Vanderbilt、Wisconsin、Yale。

受験に必要なもの

出願書類は、基本的に全て電子的に送付します。各大学が、オンライン出願のポータルサイトを開設しており、ステップを踏みながら関連書類をアップロードしていく形です。

成績証明書・学位証明書:各種証明書をスキャンしてPDF化し、アップロードします。ハードコピーが必要な大学もあり、出願時点で必要なケース、合格発表後に必要となるケース(Penn Stateは後者)があります。大学によって「日・英両方」「英語のみ」「課程ごとに学位(在学)証明書と成績証明書を同封」など指定が違うこともあります。英文証明書の発行には日数を要する場合もあります。従って、あらかじめ各課程の学位証明書・成績証明書の日本語・英語を20部ずつほど取り寄せておいて、必要に応じて事務に厳封してもらうことをおすすめします。また大学によっては、出願先のアドミッションオフィスに対して、証明書類を大学事務から直接送付することが必要な場合もありました。EMSの送り状と、送料(2000円切手)も手元に用意して、必要になったらすぐに動けるようにしておくと安心です。成績証明書の中で、専門科目や特定の科目の成績をハイライトしたら、どのような教科書を使った授業かを説明する添付書類を求められるケースもありました。

GRE:アメリカの大学院の出願に必要な標準テストで、Verbal reasoning、Quantitative reasoning、Analytical writingの3パートです。経済の場合、Verbalへのウェイトはそれほど高くないと言われており、Quantで「ほぼ」満点を取ることが必要と言われています。問題一つ一つは決して難しくないのですが、かなり長時間にわたる試験で、集中力を途切れさせることなく問題を解いていくのに苦戦しました。また、地方から受験する場合は、東京か大阪まで行く必要があるのは、費用的にも体力的にも負担となりました。午前・午後に2回開催されることが多いのですが、受験シーズンになると午後のいい時間の席が埋まってしまうこともあるため、受験回数や受験感覚の制約を踏まえつつ、計画的に早めに予約することをおすすめします。参考書(問題集)のうち良かったと思うのは以下の2冊です。
5 lb. Book of GRE Practice Problems (Manhattan Prep 5 lb Series)
Barron's GRE
Quantについては、まず基本的な数学用語(直径、半径、順列など)を覚えておく必要があり、そのあとは、ただ問題になれるよう数をこなすことでなんとかなりました。Verbalの方は、頻出単語がまとめられてある本で多少は勉強しました。しかし例えば「この単語の類語を次の選択肢から選びなさい」という問題の、「この単語」の意味も、「選択肢」の単語の意味も分からない、というくらい歯が立たなかった記憶があり、テストスコアにどれくらい影響があったのかは正直分かりません。
余談になりますが、当時日本ではやっていたTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で平匡さんのリビングの本棚には、Princeton ReviewのPrep Bookがおいてありました。このシリーズもやりましたが、問題の量と解説については上記2冊がおすすめです。

TOEFL:トップスクールでは、各パートごとに最低点が設けられていることもありますが、「100点」が一つの基準点になるかと思います。私は、基本的に単語帳で語彙を覚えることを中心に対策をしました。書店にはたくさんの単語帳がありますが、私は下記の単語帳に出てくる単語を全て覚えるつもりで取り組みました。単語を覚えることで、リーディングとリスニングに関してはかなり点数が上がった印象です。こちらに来て、授業中や論文など読んでるときに「TOEFL・GREで勉強した単語」に遭遇することが多々ありました。スコアを抜きにしても、語彙を鍛えることはその後も役に立つと思います。
TOEFL TEST対策iBT英単語―100点獲得のためのRole Playing 
ライティングは、大学院で英文で論文を書くことが日常的にあったため、それ自体がライティング対策になったように思います。

推薦書:私は名古屋大学の指導教員と、上に挙げたYaleのSchott先生とUCLAのLeamer先生に書いていただきました。後者二人の先生には、直接会って当時進めていた研究の報告をし、SoP(後述)に書く研究関心・計画についてもお話ししました。推薦書の提出もオンラインです。出願のポータルサイトで、推薦者を入力すると、自動的に推薦者の先生にメールと案内が送られる仕組みになっています。
先生方も私一人だけの推薦書を書いているわけではないので余裕を持って依頼して、締め切り1週間ほど前にリマインダーを送りました。

Statement of Purpose(志願書):Letter判2枚ほどで、自身の学術上の成果や能力・技能、さらには、出願先大学を何故志望し、そこで何を学びたいのかをまとめます。基本的には、全大学で「使い回し」ができますが、出願先大学を志望する理由のところは、各大学において希望する指導教員を挙げるなどして変える必要があります。
研究計画については、名古屋大学で行ってきた研究内容を前提に、Schott先生、Leamer先生とのディスカッションを踏まえて今後どんなことを研究したいか書きました。所属していた学会の地域部会でSoPに書く内容を前提にしたリサーチプロポーザルの報告する機会を得たことも、SoPの筋立てを明確にし、論理的に文章を組み立てる上で、非常に有益だったと振り返ります。英語面では、名古屋大学で教鞭を執られるアメリカ人の先生に校閲をしていただきました。
また、ノースカロライナ州立大学で研修を受けた際に、英語には「Action Verbs」というパンチの効いた強い動詞があるということを学びました。Resume等でこうした単語を効果的に使うことが大事とのことで、英文校閲をしてもらった後の文章には、随所にこうした単語が使われていました。
NCSU Career Guide

Writing Sample:SoPはLetter2枚と紙幅に制限があります。大学によって枚数制限はありますが、Writing sampleは、研究論文を全てアップロードすることができ、具体的な研究遂行能力を示すマテリアルの一つになります。私は修論のフォローアップ論文を出しました。大学によってページ数の制限が違うので、各大学の要件を事前にチェックしておくと良いと思います。英語面では、英文校閲業者に出して校閲してもらいました。

奨学金について

私のPhD受験の最大の失敗は、奨学金に応募しなかったことです。アメリカの大学院の場合は、授業料免除とStipend(TAやRAの対価としての奨励金)が付くのが通常という言説を信じて、「大丈夫だろう」と高をくくっていました。近年、州立大学などは財政も厳しいようで、Penn Stateでは私の年からファンドなしオファーを出すようになりました。
合格後に慌てて探した奨学金ですが、幸いにも2つの財団からオファーをいただくことができました。しかし約4万ドルの授業料は自弁しなければなりませんでした。両親からの援助がもらえない状況だったので、1年目の経済状況は非常に深刻でした。修士の時からリーディング大学院と学振DCで奨励金をもらっていて、かつ授業料も免除されていたので、ぎりぎりで1年目の学費を賄うことができましたが、2年目を自弁することはできない状況でした。学期中は常に「来年ファンドが付かなかったら辞めなくてはならない」という不安がありましたし、自分が払った4万ドルが、隣の席の同級生のStipendになっていることを思うと複雑な気持ちでした。結果的にはその苦しさがあってこそ踏ん張ることができたし、その成果として、2年目からファンドが付くことも決まったので、結果論として「人生の経験としては悪いものではなかった」といえるかも知れません。しかし、PhDの1年目は非常にストレスフルな日々ですので、経済的な不安がない状態で勉学に集中するに越したことはありません。多くの奨学金は、大学への出願前が締め切りなので、大学への出願準備に並行して奨学金への応募も勧めることをおすすめします。

参考動画(YouTubeチャネル・イワツキ大学

Penn State Altoona校の運動学・助教の岩月先生が主宰されているYouTubeチャネルで、経済学分野を含むアメリカPhD留学についてお話をした際の動画を掲載します。出演は、全員Penn Stateの博士課程の大学院生で、分野による違いも含め、様々な視点から議論されているので、よろしければご覧ください。

(1)大学院の選び方

(2)出願書類

(3)出願までのスケジュール

(4)奨学金

次回は、合格後から渡米までの体験談をお伝えします。お読みいただきありがとうございました。ご質問などがあればkxs974 [a] psu.eduまで。



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