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恐るべき近未来予測ドラマ「2034 今そこにある未来」

優れた物語は時に未来を言い当てる。そんな傑作がまた新たに誕生した。BBCとHBO共同製作のイギリスドラマ「2034 今そこにある未来」(原題:Years and Years)(2019年)である。

あらすじ

2019年、ライオンズ家では、末妹でシングルマザーのロージーが第2子を出産。彼女の兄ダニエルは「こんな世の中に生まれてくるなんて」と生後間もない甥の将来を危惧する。2020年、トランプ大統領が再選したニュースが流れていた。それから4年経った2024年の冬、祖母の誕生日祝いに集合した一家のスマホとテレビとサイレンから同時に緊急アラートが鳴り響く。中国が南シナ海に建設した人工島を2期目の大統領任期を終える間際にトランプ大統領が核攻撃したのだ......。そして、世界はカオスに陥る。

見どころ

イギリスのEU離脱後の未来社会を辛口予測する超過激作。「トランプ大統領二期目に再選」「IQスコアの低い国民から選挙権を剥奪する法案」「習近平とプーチンがそれぞれ中国とロシアの終身国家主席に就任」など、英国流ブラックジョークが満載。イギリス人の頭の良さと底意地の悪さがこれでもかと出ている。

米ワシントンポスト紙には「2019年最高傑作の1つ」と絶賛された一方、中国では放送禁止になった(物語の中で習近平が終身国家主席となり、南シナ海に人工島を作り上げることや独裁国家を風刺しているためだろう)。それだけでこの作品の持っている毒が強いという証拠である。「中国政府が禁じた」ということは、そこに何らかの不都合な真実が含まれているということなのだから。

明らかにトランプ前大統領をモデルにした政治家をエマ・トンプソンがコミカルに演じている(「ドント・ルック・アップ」のメリル・ストリープといい、トランプを風刺する時には赤いネクタイの代わりに赤い服を着た女性政治家にするというのがテンプレ化してきた。フランスのルペンや日本の高市早苗が大統領や首相になったイメージですな)。高市を応援している人は彼女が権力を持ったら、こんな感じになるということを想像しながら映画やドラマを見るといい。

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移民・難民問題、地球温暖化、疫病の流行、超管理社会、大量失業による貧困と超ギグワーク社会(Uber eatsのような仕事を10個かけもちして何とか生きているみたいな)。今人類が抱えている問題が改善せず、すべて悪い方向に向かったらどうなるかという、シミュレーションドラマなのである。制作が2019年とコロナ前だったが、作中では疫病も流行している。ただし、今みるとだいぶ緩く見えてしまう。なぜなら現実のコロナはもっと酷かったから。現実はドラマよりもっともっと酷かった。ということは? もし他の問題もドラマで描かれるより酷くなるとしたら...? 考えたくもない。

このドラマはジャンルとしてはディストピアSFになる。ディストピアSFとは、近未来は何らかの要因で今より荒廃しているという前提で、その中での人類の営みを描くジャンルである。人類は進化していくのだが、その描写が興味深い。明らかに「攻殻機動隊」をモデルにしたと思われる方向で、身体の義体化(肉体のロボット化)とネットとの融合が描かれるのだ。

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登場人物の一人は自分が肉体を持つことに違和感を持つ「トランスヒューマン」であることを告白し、肉体を捨て去り、ネットの世界に自分の情報と意識を転送することを夢見る。この設定は攻殻機動隊の主人公・草薙素子が辿る道と同じだ。草薙素子は機械の肉体さえ捨て去り、最後は純粋な情報体となって、ネットの海を自在に駆け回る存在となる。

ドラマの中では、まず自分の手が電話になるといった可愛らしいところから始まるが、次第に目がカメラになり、手を触れずにパソコンなどのデバイスを操作したり、あらゆるネットに接続できるようになったりと、「トランスヒューマン化」は着実に進んでいく。そして、ある人物が死に直面した時、遂に自らの情報と意識をネットにアップロードすることを決意する。人間は情報身体だけで生きていけるのか。その結末は......。

政治、宗教、文化、テクノロジー。あらゆる方面から楽しめるドラマであり、現代人への警告である。このドラマを苦笑いしながら楽しめていた頃が幸せだったという未来にしてはならない。

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