見出し画像

【学歴は不要?🤔】教育のシグナリングモデルから導かれる労働市場の最適均衡解について:労働経済学 No.9 2023/07/29📚

学校教育の有する経済学的意義💫

今回の投稿では、学校教育を経済学的な視点
より考察していくことにしましょう

人的資本というのは、今後の労働生産性向上において非常に大切とされていますから
議論の余地はたくさんあるのです

以下では、教育投資モデルについて解説します
学校教育は⼈的資本(Human capital) への投資を考えます

教育によって、その個人の限界生産性が
上昇したことになれば、それは賃金が上昇することに繋がる
と考えます

本日の投稿では、教育のシグナリングモデルによる労働市場の均衡について解説したいと思います
なお、参考文献は以下の通りです📚

教育のシグナリングモデル🌟

まずは、教育のシグナリングモデルを説明する上でいくつかの仮定をまとめておくことにしましょう

①教育は、個⼈の能⼒や労働⽣産性に影響しないこと

②⼈々は、異なる能⼒(High,Low)を持っていること

③⽣まれつき能⼒が⾼い⼈(H)は、能⼒が低い⼈(L)より労働⽣産性が⾼いこと

④個⼈の能⼒は本⼈にはわかるが、潜在的な雇い主にはわからないという情報の非対称性が存在していること

⑤能⼒が⾼い⼈(H)は、能⼒が低い⼈(L)より教育費⽤が低くて済むこと
これらの仮定を念頭に置いた上で、教育のシグナリングモデルを考察していくことにしましょう
なお、説明に使用する記号は以下の通りです

$$
Signaling  Model  of   Education\\         \\H:High   Ability \\
L: Low  Ability \\      \\w^i : Wage   lavel\\※w^H > w^L\\s^i: Education  Years\\    \\p:Share   of   Type  H\\(0< p < 1)\\   \\Education   Cost   Function\\
C(s)_H=c_H\times{s}\\
C(s)_L=c_L\times{s}\\
※c_H < c_L\\      \\
l^i=DPV  of  Lifetime  Income
$$

Iiは、毎年wi の賃金支払いの現在価値の総和(生涯賃金のDPV)を示します
それでは、教育のシグナリングモデルから導くことができる①一括均衡と②分離均衡について解説を進めて参ります

⼀括均衡 (pooling equilibrium)

タイプHの労働者の人口シェアをp(ただし 0 < p < 1)タイプLの労働者の人口シェアを1-pとしましょう

企業はタイプHの労働者には、その生産性に等しい年間賃金wHを、タイプLの労働者には、その生産性に等しい年間賃金wLを支払う意志があると考えられます
したがって、wH > wL という関係性が成立しています

しかし、企業サイドは、労働者の能力に関する「情報の非対称性」があり、能力に関するその他の情報はありません

企業は労働者を⼀括して、⽣産性の期待値に応じた賃⾦を等しく⽀払うため次式が成⽴します

$$
\bar{w}=pw^H+(1-p)w^L…①
$$

よって、一括均衡では、タイプLの労働者は、能力を上回る賃金を、タイプHの労働者は
自分の能力を下回る賃金を得ることになるのです💦


裏を返せば、自分の能力が高いと認識しているタイプHの労働者には、⾃⾝の能⼒に関する信頼性の⾼いシグナルを企業に送るインセンティブが存在するということです

なので、就職活動の面接でエピソードをしたり、威勢の良いことを話したりしようとするインセンティブがあるのも事実なのです

自分の人生がかかった就活のなので、決して
否定はしませんが「後悔の無い」ように面接での発言を選んでいただけたら良いのではないかと思います

分離均衡 (separating equilibrium)

企業の賃⾦スケジュールは、以下のように想定します
企業は、労働者の教育年数が s*以上であれば、タイプHと見なして、年間賃金wHを支払うことにします
それ以外の場合は、タイプLと見なして年間賃金wLを支払うと考えます

なお、Iiは、毎年wi の賃金支払いの現在価値の総和(生涯賃金のDPV)と表記されることを確認しておきましょう

労働者の教育費⽤

労働者の教育費⽤はタイプ別に異なっていることを、この教育のシグナリングモデルでは想定していました

単純化のため 2 つのタイプ の労働者の教育費⽤を以下のように定義することにしましょう

$$
Type  H :C(s)_H = c_H \times{s}\\    \\Type  L : C(s)_L = c_L \times{s}\\      \\※c_H < c_L
$$

ただし、能力が低い労働者(タイプL)は、能力が高い労働者(タイプH)より、教育(塾、単位取得など)の限界費用が高いとします

労働者は、企業の賃⾦決定スケジュールを所与として、⽣涯賃⾦
の DPV から教育費⽤を差し引いたものが最⼤化されるように最
適教育年数を決めるとしましょう
なぜならば、生涯効用の最大化が実現される可能性が高くなるからです

以下では、それぞれのタイプの労働者が自分の最適な教育水準を選ぶ条件を提示したいと思います
まず、タイプHの労働者が s* の教育を選ぶ条件②式は、以下の通りです

$$
Type  H\\
I_H-c_H\times{s^*}> I_L-c_L\cdot0…②
$$

その一方で、タイプLの労働者が、0年の教育を選ぶ条件③式は以下の通りになります

$$
Type  L \\
I_H - c_L\times{s^*} < I_L - c_L\cdot0…③
$$

このようなタイプ別労働者による最適教育水準の決定条件が導出されたことで、最適な教育年数 s* の範囲は以下の関係式内に存在することになります

$$
Optimal   Education  Range:s^*\\     \\    \frac{I_H-I_L}{c_L}< s^* < \frac{I_H - I_L}{c_H} …④
$$

タイプHの労働者には、それなりに
教育費用がかかりますから、企業はタイプHの労働者を獲得するためになるべく小さい s* を選ぶ必要があるのです

このインセンティブを持つ企業が労働市場で
人財獲得競争を行った結果
最適な教育年数 s* は以下の式になるのです

$$
Optimal   Education  Years\\    \\
s^* = \frac{I_H-I_L}{c_L} + ε …⑤
$$

図解:シグナルとしての教育年数

ただし⑤式において、εは非常に小さな正の数とします
すなわち、ちょっとだけ誤差や許容範囲があるということですね

一括均衡と分離均衡ではこのような状態であることを今一度確認しておくことにしましょう

教育の社会的コスト✨

以下では、引き続き教育のシグナリングモデルを考察するうえで大切な「教育の社会的費用」を考えることにします

以下のようなパラメーターを設定して
シグナリングの社会的費用を考察します📝

ここで新たな記号として
生産性を表すγ(ガンマ)を導入します

そして、タイプLの人口シェアをqとして考えていきましょう
なおタイプHの人口シェアは1-qとなります

$$
Social  Cost   of   Singanling \\
Type  of  Labor:H,L\\    \\Productivity : γ\\
Population  Share: q \in0,1\\Education  Cost: s \\          \\Type  L : \gamma=1 ,          q ,         s \\
Type  H : \gamma = 2,   1-q,  s/2
$$

このようなモデルセットアップをベースに
企業の賃金スケジュールや労働者の最適化行動について考察していくことにします

まずは、企業サイドの賃金スケジュールです

$$
Wage   schedule\\
w(s) = 1 + I[s≥v]…(1)\\      \\ w=2\begin{cases}
s≥v  &\text{if } I=1 \\
s< v  &\text{if } I=0
\end{cases}      \\※I[\cdot] \equiv indicator  function\\
$$

I[・]はインジケーター関数とします
s ≥ v の労働者(I=1)には、2の賃金が支払われ、それ以外(I=0)には、1の賃金が払われることを示唆しています

次は、労働者の最適化行動を考えます
労働者は以下の式(2)を最大化しようとします

$$
Labor  Optimization\\    \\
Max_s:w(s)-c(s)…(2)
$$

ここで、タイプHの労働者がv年の教育年数を選択する条件は次のようになります

$$
Type  H \\
2-\frac{v}{2}> 1 \Leftrightarrow{v<2} …(3)
$$

その一方で、タイプLの労働者がv年の教育を選択しない条件は、次のようになるのです

$$
Type  L\\
2-v-1 \Leftrightarrow v>1 …(4)
$$

したがって、企業が「v = 1+ ε」を選べば、分離均衡が成立し
タイプHの労働者は「s = v」の教育を選択し、タイプLの労働者は「s = 0」の教育を
選択するようになるのです

また、このとき経済全体の平均賃金は
以下のようになるのです😊

$$
\bar{w} = q\cdot1 +(1-q)\cdot2 =2-q…(5)
$$

これはは、学歴や教育水準といったシグナルが存在せず、誰も学歴を獲得しないときの⼀括均衡における平均賃⾦に等しい、ということになりますね

総じて、学歴は社会全体の⽣産性には影響を与えず、教育の社会的限界収益率(social  rate  of  return  to schooling)はゼロとなります

しかも、シグナルに基づく分離均衡では
タイプHの労働者はvの教育を選択するために「c(v) = v/2」の教育費用を支出しており
死荷重(deadweight loss)が生じます

総じて、私たちは「シグナリングは私的には有益だが、社会的には無駄遣いである」という
インプリケーションを得ることになるのです😅

まとめ:教育のシグナリングモデルからわかること🎊

より理解を深めるために、教育投資モデルとの対⽐で考えてみることにしましょう

教育のシグナリングモデルが有する
インプリケーションは以下の通りです

①追加的に進学する労働者ほど、生産性が
高い、
ということは教育投資モデルと同じ結論になりました

②追加的に進学する労働者ほど、より高い賃金を受け取ることができる
という観点も、教育投資モデルと同じです

③教育の限界収益率は、およその利子率に等しくなる、という教育投資モデルから導かれた

インプリケーションは、教育のシグナリングモデルでの予測がないため差異となります📝

④働き始める前(若いうち)は、教育投資として学校に通う、というインプリケーションも
2つのモデルの共通点であると考察できます👍

教育投資モデルについてのお復習い🔖

ぜひこちらからの記事もご覧ください💛

教育投資モデルの検証可能命題

教育投資モデルから得られる
インプリケーションは以下の通りでした📝

①追加的に進学する労働者ほど、⽣産性が高くなること

②追加的に進学する労働者ほど、生涯的にわたってより⾼い賃⾦を受け取ること

③教育の限界収益率は、およそ市場利⼦率に等しくなること

④学校教育の費⽤はどの年齢でも同じであるが、そこから得られるリターンは卒業して

初めて得られるため、働き始める前(若いうち)に教育投資を⾏うことが現実社会と整合的であること

これらのインプリケーションを踏まえて
学校に通う時間を大切にしたいなと思います📝

人生の中で、どれだけ教育が大事なのか
ということをご理解いただけたのではないでしょうか?
親御さんの経済力は、子供の学力水準に大きく依存するということも想起できるはずです

だからこそ、勉強だけではなく何事においてもより主体的に行動し、成長できるように
この学生の期間を過ごすことが、望ましいと
いうマインドセットに至るのではないでしょうか?🎊

本日の解説は、以上とします
今後も経済学理論集ならびに
社会課題に対する経済学的視点による説明など
有意義な内容を発信できるように努めてまいりますので、今後とも宜しくお願いします🥺

おすすめマガジンのご紹介🔔

こちらのマガジンにて
卒業論文執筆への軌跡
エッセンシャル経済学理論集、ならびに
国際経済学🌏の基礎理論をまとめています

今後、さらにコンテンツを拡充できるように努めて参りますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます📚

また、こちらに24卒としての私の就職活動体験記をまとめたマガジンをご紹介させていただきます👍
様々な観点から就職活動について考察していますので、ご一読いただけますと幸いです

改めて、就職活動は
本当に「ご縁」だと感じました
🍀

だからこそ、ご縁を大切
そして、選んだ道を正解にできるよう
これからも努力していきたいなと思います🔥

最後までご愛読いただき誠に有難うございました!

あくまで、私の見解や思ったことを
まとめさせていただいてますが
その点に関しまして、ご了承ください🙏

この投稿をみてくださった方が
ほんの小さな事でも学びがあった!
考え方の引き出しが増えた!
読書から学べることが多い!
などなど、プラスの収穫があったのであれば

大変嬉しく思いますし、投稿作成の冥利に尽きます!!
お気軽にコメント、いいね「スキ」💖
そして、お差し支えなければ
フォロー&シェアをお願いしたいです👍
今後とも何卒よろしくお願いいたします!


この記事が参加している募集

新書が好き

歴史小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?