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言語の持つ音声リズム

言語により、それぞれが持つ音声リズムも変わってくる。

自身の母語である日本語のリズムについて考えたことがあるだろうか?

長母音、短母音は存在するのか、またそれはどんな特徴を持っているのか、アクセントの位置はどうなっているのか、など音声リズムに関する観点は多くある。

※今回の記事をベースにして、音楽と組み合わせた記事も思案中。

1.「音節拍リズム」「強勢拍リズム」「モーラ拍リズム」

数多くある観点の中でも、言語学でよく用いられる区分に、「stress-timed Language(強勢拍リズム)」「syllable-timed language(音節拍リズム)」「mora-timed language(モーラ拍リズム)」という大きく3つの区分がある。
英語、ドイツ語、オランダ語などはstress-timed language。
スペイン語、フランス語、中国語などは、syllable-Timed language。
日本語、古代ギリシャ語などは、mora-timed languageになるようだ。

これは一体どのような区分けなのか?

強勢拍リズムでは、強調される音節の間の長さがほぼ等しくなる。つまり、ある音節は長く、他は短く発音される。そのため、母音の弱化も起きやすい。
音節拍リズムでは、その名の通り、すべての音節がほぼ等しい長さで発音される傾向にある。どこの音節が強く発音されるかはあまり関係ない。すべての音節が等しく発音されるため、母音弱化も次に説明する強勢拍リズムに比べると少ない。
モーラ拍リズムでは、音節よりもモーラ(拍)が数え方の基本になる。モーラはそれぞれほぼ同じ長さになる。音節拍リズムと似ているが微妙に異なる。

音節とモーラ(拍)の違いは、「ラーメン」と「rah・menn」の違いを考えると分かりやすい。「ラーメン」の拍は4拍「rah・menn」は2音節
日本の俳句の五・七・五はモーラ(拍)数を基準にしていることが分かる。
つまり、モーラ拍リズム(日本語)では「っ」「ー(伸ばし)」「ん」も1拍としてカウントされる。どれも音節としてはカウントされないものだ。

2.英語・日本語の音声リズムの違い、具体例

具体例(日本語と英語)でどのように違うのか説明しよう。
以下の図の大きな黒丸(●)の間は等間隔に近くなる。一定のビートで大きな黒丸●が発音されていく。この一定のビートは、「●」の間にいくら「・」が入っても同じことだ。
そうすると、大きな黒丸●の間に入っている中黒(・)は、そのビートに収めるために圧縮される必要がある(速く短く弱く発音される、つまり母音の弱化が起きる)。

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最初と最後の例文を楽譜で表すと、このようなイメージになるだろう。
強調される音節のビート(大きな黒丸●)は一定に近くなる。そして「the」「will be」「ing the」に母音弱化が起きる。母音が、音節によって「伸び縮み」する。

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日本語やスペイン語のような言語だと、以下のように音節あるいはモーラが増えたらその分、発話の時間も長くなる。なぜなら、音節やモーラが増えるとき、それはほとんどの場合、大きな黒丸●が増えることを意味するからだ。そして、母音弱化も起きにくい。

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※「モーラ拍リズム」と「音節拍リズム」が異なるのは承知で、ここでは単純化するために、強勢拍リズムとの対比の例としてまとめて紹介している。

ただ、本当にそのような二分法あるいは3つの区分のみで良いのか、という疑問が当然ながら出てくる。

3.PVIとは?

そこで登場したのが「PVI(Pairwave Variability Index)」だ(PVIにもいくらかの種類がある)。ここでの細かい説明は省略するが、これは母音の長さの変動率のようなもの。これにより、3区分という大雑把な区分では見えないものも見えてくる。
上記のように、強勢拍リズムの言語の方が、母音弱化などにより変動率は高くなる。よって、PVIの値(Vocalic nPVI)も英語などでは高くなる。一方、モーラ拍リズムの日本語や音節拍リズムのスペイン語などでは、相対的に低くなる傾向にある。
以下の表の中では、タイ語の数値が一番高く出ている。そして、スペイン語、中国語の数値は日本語以上に低く出ている。

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引用:『Grabe, E. and Low, E.L. (2002) "Durational Variability in Speech and the Rhythm Class Hypothesis."』

4.まとめ

言語にはそれぞれの音声リズムがある。
英語の発音リズムのロジックで日本語を発音すれば、とても聴き取りにくい。逆もまた然り。それぞれの言語の発音練習をするときは、こういったことを踏まえて練習すると、また一段と違った結果が見えてくることだろう。
特に、英語を学習するとき、英語歌詞の歌の練習をするときは、こういったことを頭入れておきたい。

今回紹介したコンセプトを理解することで、自身の「学習言語の発音練習」や「歌詞とリズムの関係の分析」に新しい側面がもたらされる、かもしれない。

ちなみに、今回の「PVI」という数値は、論文によって音楽のメロディのリズムを分析することにまで用いられている。
別記事では、そういった論文や考え方も紹介していきたい。

参考文献:
https://www.researchgate.net/publication/265103049_48_Stress-timed_vs_Syllable-_timed_Languages

http://www.phon.ox.ac.uk/files/people/grabe/

https://www.rikou.ryukoku.ac.jp/images/journal62/RJ62-01.pdf

・https://www.teachingenglish.org.uk/article/stress-timed 

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