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世に氾濫する地方移住キラキラ事例集への憂いとその脱却のすヽめ

近年の移住情報誌、総務省JOINの地域おこし協力隊紹介サイト、あるいは地域おこし協力隊や移住者募集フェアなどで紹介されている移住事例がやたらと「キラキラ」していて食傷気味になっているのは僕だけじゃあ無いでしょう。

僕は現役の地域おこし協力隊ですが、業務では移住定住などを推進する側ではないので、移住定住の相談会や移住紹介イベントなどに出ることはありません。ただ何かと周囲の情報は多く入ってきます。そんな中で、どこも移住のいい面が9割以上を占める話をしていて、こりゃあだいぶ偏ってるなぁと思っていましたし、こういったキラキラした事例ばかりが移住検討者に向かって雪崩れ込んでいくことに疑問を感じていました。

そんな矢先、先日開催された「地域おこし協力隊ミニサミット」なるイベントに行った時に、移住検討中の参加者さんから登壇者さん達へ向けて、

「移住の話はポジティブな話とか成功した話が多いからもう少し苦労話やこんな人だと合わないかも、という話を聞かせてほしい」

という質問をしていました。これぞまさに我が意を得たり。いや、まぁ会場の人たちもおそらく心の中では「それそれ!それが聞きたかったんだよ!」と思っていたことでしょう。

で、そこから登壇者の方達からポツリポツリと辛かった経験や、移住先の生活に区切りをつけて戻っていった人の話が出てきたのです。内容はそこまで踏み込んだものではなかったですが、まぁ事例はいくらでもあるんだなという語り口でした。そもそも地域おこし協力隊の募集に繋げる総務省主催のイベント会場であまりマイナスの移住話をするわけにもいかなかったのは当然でしょうが・・・。

そんなことがあり、地方移住検討者にはもっと移住の苦労話が必要だ!と思ってこの投稿をしました。ちなみに誤解が無いように先に書きますが、この記事では地方で活躍している方々の事例を批判的に書くものではありませんことをご理解ください。

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さて、移住を検討中の方あるいは移住直後の方が「これから地方でどうしよう?」と思って情報収集するとします。地方移住やローカルビジネスに関する雑誌やサイトを開くと、そこではにこやかな笑顔と共にオープンしたカフェでお客様を迎える写真や地元のコミュニティで楽しそうにしている写真が。そして田舎暮らしの素晴らしさ、温かさ、都会で得られなかった経験、成功談などがふんだんに盛り込まれた記事が並んでいるわけです。

どれも素晴らしいですし、背景には並々ならぬ努力があったのは間違いないでしょう。実際に田舎暮らしをしている僕としても素晴らしいなぁと思います。

でも、ですよ。まだ移住を考え始めた人たち、しかもその多くは会社員としてお堅い仕事についている人が多い中で、いきなりそんなサクセスストーリーばかりを見せられて果たして自身の移住をイメージできるのでしょうか。

移住をイメージできないならまだしも、なんの根拠もなく「自分にもできそう!田舎に移住すれば今の荒んだ都会の暮らしから解放されて上手くいくんじゃないか!?」そう思ってしまったらちょっと危ないです。まぁぶっちゃけ僕もそういうタイプなんですけど。笑

いい話に流されて勢い任せに移住して、それで生活が厳しくなってじゃあ誰かが助けてくれるのか?そんなことは無いです。お金に困っても、「田舎暮らしならきっと上手くいくよ!」と言っていた人たちがお金をくれるわけじゃありません。結局自自分でなんとかするだけです。

では移住希望者は「キラキラ事例」以外の情報をどうやって集めるのか。また、情報収集以外に何をするのがよいのか。いまの僕が書けること紹介します。

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まずひとつは、良し悪し合わせた移住の情報を取得することです。もちろんローカル雑誌の記事や移住希望者向けのイベントが悪いと言う気はありません。ただそれらの背後にある資本関係は当然意識しておくべきです。

例えば「地域おこし協力隊希望者に向けたイベント」であれば主催は制度を推進する総務省、関係するのは移住者を増やしたい自治体あるいは移住を進める出版社等々。当然そこで「移住でこんな失敗した!」「こんな辛いことがあった!」「こんな人は辞めておけ!」なんて言えるはずがありません。仮に「辛いこと」などを書くとしても、そこは上手く均して「結果、今のように成功しました!」と論を進めるはずです。移住を推進する側から利益を得ている以上、情報提供者は、移住のポジショントークをしなければいけないのです、当然の帰結です。

なので、こういった情報を得て移住に夢を膨らます一方で、それを堅実に進めるために「現実的」な情報を集める必要があります。

ではどこから情報を集めるのか。

先ほどの話からいうと、利害関係を持たない「個人」が出している情報がバランスを取れていると思います。その中でも特に、

成功体験や充実した暮らしを語る一方、苦労話について自身および周囲の人の状況を客観的にみてバランス良く語れる人の情報が参考になると思います。

マイナス情報が必要なら悪いことばかり語る人の話も有益じゃないの?と思われるかもしれませんが、僕個人としてはそいういった方は愚痴ばかりで改善の手を打たないあるいは打てない人が多いと思っているので、あまりおすすめしません。(まぁいい話だけを聞き続けるよりはいいかもしれません)

なので、第一段としては地方移住者個人が発信しているブログ、noteあるいはtwitterなどを見てみましょう。ちなみにfacebookは実名で個人間の繋がりが強いのと、最近は特にビジネス要素が強過ぎてトリミングされた発言が集まったキラキラ要素強めの印象ですw

バランスの取れた情報収集をしたら、第二段で直接移住者に会って話してみましょう。移住を検討している場所に旅してみて、少しずつ個人の繋がりを見つけてみてください。リアルな移住経験を聞くだけなら移住希望地域以外でも参考になることもありますし、新たな候補地が見つかるかもしれません。

今は地域のイベント情報が回って来やすいですし、移住に興味があるというえば多くの移住者と知り合う機会があります。何回か話しているうちに、よりリアルな話をしてくれるはずです。

加えて、その辺で地元の人を捕まえてさりげなく「最近移住してきた人って多いんですか?」と聞いてみましょう。地元の人たちが移住者に対してどんな思いを持っているのかを読み取れるはずです。

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情報収集と平行して行わなければならないのが、現実的に自分は地方に移住してからどうやって経済的に生活していくのか、今後どういうキャリアを積んでいくのかを考えることです。

お金に寄らない豊かな生活」と多くのメディアは言いますが、どうでしょうか?お金に寄らない豊かな生活のためには最低限のお金が必要であり、最低限の額はそんなに低くないよ、というのが僕の考えです。移住後僕の年収は半分以下になりました。生活はできていますが、仮にいま使っている中古車が突然壊れたら?怪我をして車に乗れなくなったら?生活コストを削れば当座の生活は成り立ちますが、これは急な出費に対してすごく弱いのです。協力隊の任期が終わった後の生活は?実際にどれくらいの生活費が必要なのか、計算してみることと、将来的に収入を増やしていく方法を考えてみましょう。

* 僕の年収が半分になった話はこちらか本記事最下部のリンクをどうぞ。

併せて考えておくのは、ダメなら撤退してもいい、ということです。いざ地方移住をして生活してみて色々と試したけど自分には合わない、やっぱり東京に帰ろう。別にこれは失敗と言わなくてもいいと思います。自分に何があっているか、改めて確認できた、それを自分で選択できたのであれば将来の成功に向けての経験をひとつ増やしただけです。

地方移住の本当の失敗は、移住が合わなくて都会に戻ることではありません。もし本当に失敗があるとしたら、勢いに任せて手に負えない物件に高額の投資をしてお金が回らなくなる、あるいは周りに流されて自分の生活を見失いながら田舎に留まり続けることだと思っています。

移住の準備と同時に、撤退戦略も多少なりともイメージしておきましょう。最初から移住先に骨を埋めるなんていう覚悟は不要です。

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最後にもうひとつお伝えしたいのは、地域活性化のカタチは別に決まっていない、ということです。

移住を希望する大多数の方々は、言い方は悪いですが僕のように「普通の人」なのです。「普通の人」というのは別に能力が無いとかそんなことが言いたいのではなくて、現時点でスター的な特徴を持っていない人のこと。もちろん多くの人にはそれまでに培って来た様々な能力があるのは間違いないのです。

田舎に移住した結果、シンプルに農業を日々コツコツと行って少しずつ収益をあげていく、地元の企業について東京時代に培ったITスキルでも営業スキルでもなんでも貢献する、元教師なら移住先で教員の仕事をそのまま続けるなど、別になんでもいいのです。

別に今までのキャリアを大きく変えてカフェだとか宿だとか新商品だとかやるのはもちろんいいし、別にそっちではなくて就職して地元の企業で働くだって全然いいし、どっちもしっかり地域に貢献できる訳です。

だから本当に移住をしたい人はキラキラした情報の波に飲まれることなく、誰のものでも無い自分の移住を成し遂げて欲しいのです。いずれにしても何らかの苦労はするでしょうが、事前に想定内の苦労を増やすことは移住後の精神衛生を健全に保つこと間違いなしです。

その代わり決めたらあとは結局自己責任ってやつです。ダメなら撤退しましょう。僕ももしこれからどうにもならなくなったら当然撤退します。笑

これを読んだ方が移住するしない関わらず、自分自身の選択ができることいいなぁと思います。というか僕の話ももっと書こうと思っていたのですが、思いのほか長くなってしまったのでまたの機会にしようと思います。

以上、「世に氾濫する地方移住キラキラ事例集への憂いとその脱却のすヽめ」でした。


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年収が半分になった話はこちら。


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