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スープカレーは魔法の薬だった

「野菜足りないですねえ」
行きつけの整体師からそんなことを言われて私は憤慨した。
失礼な!
毎日欠かさず野菜を食べているわ!
なんで野菜が足りないとか言われるのか。
これがわからない。
昔から好き嫌いなくなんでも食べてきたから、野菜を食べないなんて選択肢は私の中になかった。
むしろそのセリフ、野菜嫌いのあの人たちに言ってやってくれ!
心の中でそんな愚痴を呟きながらも、整体師の施術を受ける。
痛い。

最近、夜遅くまで仕事をするせいか、体がみょうにだるい。
まさに、鉛のように重たい体を毎日引きずっているようだ。
目が重い。
足が棒になっている。
首と肩が凝っている。
寝起きが悪い。
知らないうちに猫背になっている。
流石にしんどいので整体のお世話になった。
施術を何度もしても一向によくならない。
なんで治らないんですかね?
つい、そんな言葉を発してしまった。
それがことの発端だった。

「野菜、偏ってませんか?」
「腸が栄養素を吸収するんで、バランス良く色んなものを食べないと腸はうまく吸収してくれませんよ」
ほう?
言われてみれば食事のレパートリーが最近同じになっている。
健康に良いからと、ごぼうとか、ひじきとか、もずくとか、バナナとか、納豆とか、同じ食べ物を食べている気がする。
なるほど色んな野菜を取ればいいのか。
うん。
めんどくさい。

私はそんなに料理のレパートリーがないのである。
惣菜を買おうにもどうしても同じ商品を買ってしまう。
美味しいから。
はて、どうしたものか。
せめてカレーなら色んな食材を入れてもカレーのおかげでなんとかなるのに。
カレーか。

ピンと閃いた私はスマホで検索してみる。

「スープカレー おすすめ」

おお、出る出る。
どうやらスープカレーは野菜がたっぷりらしい。
おまけに野菜の種類も豊富だ。
健康にいいと書いてあるぞ。
これだ、これに決めた。
早速、美味しそうなスープカレー店を検索し、スマホの地図を頼りに向かう私。

スープカレー店っておしゃれだな。
店舗に入って思ったのがこれ。
「いらっしゃいませ」
元気な挨拶が聞こえてくる。
いい店だなここは。
これなら料理も期待できそうだ。
別に料理の美味しさと店員さんの挨拶に相関性はないのだけれども、挨拶がよくてトイレが綺麗なお店はハズレがない、と私のゴーストがそう囁いている。
結構種類が多いんだな。
おまけに辛さまで選べる。
なんて親切なんだ。
ちなみに私は辛いのが苦手。
じゃあ、なぜスープカレーを食べるんだ、とツッコミはなしにしてもらいたい。
野菜たっぷりのスープカレーを頼む私。
完全に整体師の言葉が頭から離れない。
とにかく野菜が足りない。
その言葉しか脳内で再生されないのだ。

スープカレーが届く。
キタキタ。
あら、フォークとスプーンで食べるのね。
というか、野菜大きくね?
とてもじゃないけど一口で食べきれない大きさの野菜がゴロゴロ入っている。
にんじん、ジャガイモならわかる。
ん?
オクラがいる?
なんでもありじゃないか。
よくよくメニューを見てみると野菜のトッピングが何種類もある。
これは飽きない。
辛さもちょうどいいしこれはいい。
と、何度も野菜を口に運んでふと気がつく。
肉、なくね?
そう、私が頼んだ野菜スープカレーは実は肉が入ってなかったのだ。
店員さんの間違いでは決してなく、単純に肉がないスープカレーを肉があると思って頼んでしまった。
なんか不完全燃焼なのだが、まあ美味しいからいいや。
フォークとスプーンを使って大きな野菜をなんとか一口サイズに切って食べようとする姿は、なんか見苦しい。
なんなら上手く小さく分けることができなくて、大きな塊ごとにんじんを食べたりしたものだ。
上品さのかけらもないけれど、美味しいのだから仕方がない。

スープカレーを食べ終えてた私は、バランスよく野菜を食べることができたことに満足していた。
今度はまた別のお店に行こう。
食べ比べするのも面白い。

今度は別のお店に行ってみた。
にんじん、ジャガイモ、なす、かぼちゃ、オクラ。
どうやらお店によって野菜の種類が若干違うみたいだ。
バランスよく野菜を取れるし、店によって違う野菜を食べられるし、一石二鳥じゃないか。
まるで魔法の薬じゃないか。

整体師さん、次に会う時は「野菜不足ですね」なんて言わせない。
そう心に決めるものの、結局食べるものはスープカレーに偏るのであった。

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