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花束と刹那【映画「花束みたいな恋をした」感想】


花は「いま」を楽しむもので枯れる前が一番美しい。
そんなことを伝えてくれる映画だった。

以下ネタバレを含みます。

「花束みたいな恋をした」は菅田将暉と有村架純がW主演の映画。1月29日公開。
かなりTwitterなどで話題になっていたので気になって映画館へ。

あらすじ

麦と絹の二人は、終電後の明大前駅で出会う。
サブカルという共通の趣味を持つ二人はすぐに意気投合し、3回のデートを重ね、付き合うことに。
二人の楽しい生活が続き、大学を卒業した後も、互いに趣味に生きていた。
しかし、麦が夢を諦め、就職したことで二人の歯車が狂い始める。麦の就職先はブラックで生活習慣や考え方ですれ違うようになり、とうとう共通の趣味のサブカルからも離れていってしまった。
二人はすれ違いに我慢することができず、結婚した未来を見ることができなくなり別れを決意する。

この映画は、とあるカップルが付き合い、別れるまでを描いた映画で、特に何か試練があるわけでも、ドロドロした浮気の話でもない。
別れたのはただただ、二人の価値観が合わなくなっただけである。

ドラマティックアイロニー

この映画の始まりは、別れて1年後ほどの世界から語られる。二人はイヤホンを半分こしてるカップルに話しかけようとするところで再会する。しかし、顔を合わせるだけで言葉を交わすことはない。よそよそしい雰囲気の二人が描かれる。

映画の始まりに終わったあとのシーンを描くことで、視聴者は、「いずれ別れて恋は終わる」という結末ありきで、この映画を見ることになる。
視聴者は結末がどう転ぶか分からない不安を感じることなく、「こんなに幸せそうなのに、なんで別れるんだ」とか、「こんなすれ違うなら別れて当然かも」とか、シーンを「別れる」という前提で解釈するようになる。

「いま」を生きるということ

そこで大事になるのは「いま」という瞬間。
この映画のポスターのキャッチコピーには「いまを生きる全ての人へ」とある。
結局別れるとはいえ、一緒に過ごした時間や、楽しかった時間はなかったことになるわけではない。この先の未来がどうであろうと、当事者にとって「いま」を楽しむより他はない。

「はじまりは終わりのはじまり」
映画内でのブログ『恋愛生存率』の中でのワンフレーズである。
始まるということは終わりがあることで、終わりがないものはない。終わりがあるからという理由で始めない人はいない。往々にして、当事者は「この幸せが一生続く」「目標は現状維持」と、いつまでも終わらないことを信じてやまない。
でも、終わるからこそこの「いま」を真剣に楽しもうと思えるものである。

絹ちゃんは途中で
「男の子に花の名前を教えると、その花を見るたびその人のことを思い出すんだよ」と言う。
その花の名前を教えてしまったら、終わりへのフラグが立つ。だから彼女は「マーガレット」とは言わなかった。ただ、麦くんは、別れた後もマーガレットを見るたび、多摩川を通るたび、使い捨てカメラを見るたび、絹ちゃんのことを思い出すのだろう。

花束の刹那性と過去の想起

花束を「どうせ枯れるから」、と受け取らない人はいない。
花束はもらうと嬉しいし、綺麗だ。
花は枯れると分かっていても、「いま」を彩るものであり、その刹那の儚さを楽しむものである。

花束は記録として残るものではないが、記憶には残るものである。あの記念日にもらった花、誕生日にもらった花、花束は楽しい記憶とリンクしている。
花束は「いま」という刹那を楽しむものであると言ったが、「過去」を想起させるものでもある。

ふとした時に過去を想起させるのは、映像ではなく香りや音楽であることが多い。
花屋さんの前を通って、花の香りを嗅ぐとあの時一緒に選んだ花束や、彼のために選んだ花束など、過去の思い出が蘇る。
イヤホンから流れる音楽からは、終電後に一緒に熱唱したカラオケボックスや、二人で音楽を聴きながら帰った駅からの帰り道などを思い出すのだろう。

記憶の中の花束は色褪せない。
いつまでも心の中で咲き続けている。
そんな過去を背負って、そんな花束を心の中に抱えて。生きていくっていうのはそんな花束を集めていくようなものなんだろうと思う。
楽しい瞬間は一瞬で過ぎ去るが、記憶に大切に保管される。

「花は散り際が美しい」
そんなフレーズをよく聞くが、やはりそうだと思う。
散ると分かっていても、最後まで咲こうと頑張る花。この刹那を生きようと健気で明るく吹っ切れたように見える。
二人も別れを決めた後も3ヶ月同棲を続けていた。その時の二人は楽しそうだった。別れが決まっているからこそ、最後まで笑顔でいれたのだと思う。

未来のことを考えて一喜一憂するのではなく、「いま」を大切に生きていきたいと思える一本でした。

P.S
個人的な価値観として、映画・舞台など、同じ時間を共有するタイプの趣味は同じである方がよく、音楽や本漫画など二人が個々人の時間を使う趣味は違っていた方が相手を気にしないでいいし、紹介できて楽しいと思う。
麦くんと絹ちゃんは、真逆だったような気がする。

そういえば前にも同じような花の映画の感想を書いていたのでついでにどうぞ

https://note.com/kenjyo/n/nf4dcc622d710

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