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職種によってこんなに見え方が違うんだという話――黒澤明『影武者』の裏話を観て

 少し前になるけど、NHKの番組で黒澤明の映画『影武者』で勝新太郎がなぜ降板に至ったかを検証するドキュメンタリーを観た。そこに出てくる関係者の証言に、職種や立ち位置による視点の違いが如実に表れてて、じつにおもしろかった。ビデオゲームの話ではないが、制作者として共感や理解できる人は多いのではないか。
 
―― 助監督の意見 ――

 当時の助監督は完全に黒澤と同じ視点で、監督のいうことを聞かない俳優が悪いという物言いに終始。これは一番の正論。北野武なども役者として他の監督の映画やドラマに出るときは、絶対に監督に意見しないと話している(自分がやられたら嫌だから)。でも勝新はそんなことおかまいなし。

―― 俳優の意見 ――

 勝新の後輩の俳優は、俳優の側に立ち、勝がいかに自分なりに考えていたかを滔々と話して擁護する。また、俳優としてあの顛末(降板)はもったいなかったな、とも。勝の思いを代弁しつつ、俳優はよい作品に出演できてこそ、という視点。

―― 脚本家の意見 ―― 

 勝と組んだことのある脚本家は、彼の行動の動機を彼の子ども時代のエピソードまでさかのぼって分析するという、まさに脚本家らしい視点で語り、さらに黒澤側に勝を受け入れる度量がなかったことも指摘する。会社や監督の意向で振り回され、うまく丸めることが求められる脚本家らしい感想。
 
―― 評論家の意見 ――

 そして評論家は「こうしていれば傑作が完成していたのに」という理想論。当時金銭トラブルがあって抜けたプロデューサーの話を持ち出し、彼がもどってくればうまくまとまったのではという無茶な意見。現場の人間じゃないからいえる夢想だけど、そこにあるのは傑作に出会いたいという純粋な情念。 

―― アシスタントプロデューサーの意見 ――

 一番現実的なことをいってたのは、ずっと監督の間近にいてアシスタントプロデューサーなどをしていた人物。黒澤と勝の性格をよく理解していて、終始正鵠を射たことを話してた。だがじつに冷めた第三者視点。先の評論家の意見も甘いの一言で切って捨てていて「あの件に関して黒澤を説得するのは無理」と。これはこれで現実的すぎて泣けてくる。
 
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 ぼく自身はゲームディレクターの仕事をしてきた期間が長いので、どちらかといえば、どうしても監督(や助監督)の立場に肩入れしてしまう。監督に決定権があったことは健全だとも思うし。
 
 その一方で、こうしたトラブル時にどうすればよいかは(よい作品作りにつながるかは)、そのときの人間関係や各メンバーの実力などによってケースバイケースでしょうし、上の立場の人間が動いたからといってうまくまとまるとも限らないし、まあ難しいものですよね。 了


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