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三重大学 北川眞也さんインタビュー (後編)

EU以後のヨーロッパ

 
杉本 北川さんが研究されている*サンドロ・メッザードラさんなどはEUなどに対する考えかたはどうなんでしょう?このかたは割と研究者ぽい感じがしますが。

 
北川 メッザードラは活動家でもあると同時に、ボローニャ大学の教員なんですね。相当しっかりした研究者としての文章を書きます。メッザードラもヨーロッパという空間を重視していますね。 


杉本 やはりそうなんですか。 


北川 彼も国民国家という空間に照準をしぼる闘争の不可能性を強調しています。ただEUというのは変わった権力で、国家よりも大きな頭の上にあるだけの権力というわけでもないし、ぼくらが知ってる国家のような形態をとってきたわけでもないんですね。まあ数年前のギリシャに対する対応などをみてると、ただの資本と一体化した頭の上にある権力にしかみえませんけど。とはいえ、EUは単純に国民国家に対立するやり方でつくられてきたわけではないと議論されてきました。国民国家の空間が、EUの規範やルールが交わる場所となっているし、国家がEUの権力の網目の中に時に進んで捕獲されるなかで、国家自体もいろいろ変容してきたわけです。そもそもEUの網目自体、国家が積極的につくってきたものでもある。その意味では固定的、閉鎖的な感じというより、可変的で、ある意味でオープンなんですよね。確かに高圧的な権力なのですが、同時に、「国家」をはじめとして、一定権力をもつ既存の様ざまな制度や集団と交わらざるを得ないし、それを経由してしかEUという空間は実体化されない。ですから、それこそ社会運動も、特にトランスナショナルかつヨーロッパ規模の連携を築いた社会運動であれば、そこに介入し、確かな場所を占めることができる。EUと言うと狭い気もしますが、このような制度のレベルでも強い影響力を持てたり、さらにはそれを変革できたり、作り出したりできるのはないか。メッザードラのイメージはこんな感じだったと思います。 


杉本 社会運動的にもEUの可能性をみたわけですね。

 
北川 こうした議論が数々噴出していたのがたぶん90年代から。さきほどお話しした欧州憲法条約あたりのころですかね。話としては戦略レベルの話かもしれませんが、それこそ南米諸国で行われたような運動と左派政権との関係をみて、国家を超えたトランスナショナルなヨーロッパの文脈の中で実現するようなイメージだったかもしれません。ただ繰り返しなんですけど、たぶんメッザードラ本人も言ってたと思うんですけど、こうしたヨーロッパへの展望は、ギリシャ危機とか、場合によっては2015年の難民危機でかなり厳しいものとなりました。すでにマーストリヒト条約の頃から徐々にそうだったと言えばそうなんですけど、この傾向が誰の目にもはっきりとしたのは、2007~8年のヨーロッパの債務危機からでしょう。まあいずれにしても、ギリシャの左派政権、*シリザがEUと資本にぶっ潰されたことにおいてそうなんですけど、国家を中心に置いた闘いでは厳しいということでしょうね。
 ただ正確を期すと、メッザードラは、代表制も含めて国家のスケールを捨てることも難しいとは言っています。もはやそれだけを取り出すことはできないわけですけど。たぶん国家にせよ、都市にせよ、地域にせよ、ヨーロッパの現実が、EUとのこうした交わり抜きでは考えられない。それほどEUの権力が浸透しているからです。だから左翼や運動は、国家だけで現状の変革は不可能だけれども、選挙などの代表制、あるいは国家制度の一部は状況いかんでは利用することもできるとのことです。 


杉本 なるほど。 


北川 それでもね、こんな感じで難しいことがいっぱいあるわけですが、「ヨーロッパ」と言われたときのヨーロッパは、EUのような制度的な意味とは違って、“国家の外部の場所”という意味を強く内包しているものだと思うんです。そのように理解されなければいけないと思います。だからこそ90年代からしばらくは、ヨーロッパという地平が政治的に意味をもっていた。まさに「地平」として。それは今後もそうなんだと考えているとは思いますよ。ネグリもメッザードラも、おそらく。そこは一貫しているはずです。
 メッザードラにとって、このヨーロッパが90年代から意味を持った大きな理由のもうひとつが、移民の存在なんですよね。彼はずっと、これからはヨーロッパという場で運動の連携を築いていかねばならないと言ってますが、何よりその特徴は、「移民の存在、移民の移動、移民の闘争」を通じて考えられているところです。数年前にメッザードラにインタビューする機会があったんですけど、その時にも言っていました。90年代当時にはEUというか、ヨーロッパという枠組みが実体的というか、運動の想像力のレベルでも、極めて重要になってきたんやと。それはやはり国民国家に限らない政治空間をつかみとるという意味でだったと思います。「ポストナショナル」って言うと、なんだかふわふわしてしまいますけど、もっと物質的というか、手触りのあるものとして。そんな風に「ヨーロッパ市民権」が構想され、物質化されたとき、国境管理、市民権の管理を弱め、そこから離脱しながら、人々は平等というものを担保できると。もちろんそれはそのような闘争がないと無理なわけですが。でもそういうイメージが、一部の移民たちの闘争の間でさえも何かしら共有されていて、「ヨーロッパ市民権」が新たな「地平」として、さまざまな運動、特にヨーロッパに長年住んでいるけど、地位が非正規なままであったりした移民たちにとっては大事なものになってきた。だから闘争の舞台は、まったく国家ではないんです。

 
杉本 国家ではなくて、国境や市民権の管理に対する闘争ですか。

 
北川 そうですねえ…。ただ「市民権」という概念や制度は、あまりそれを解決策として前提にしすぎるのも、また注意がいるんですね。市民権は闘争の舞台でもありますが、同時にまた、植民地主義とか、人種主義などとともに形成されてきたものなんですね。それに、そもそものところ、ヨーロッパ中心主義をどこまで逃れうるのかという問題もあります。それはヨーロッパ市民権にも常に取りついているでしょう。
 とはいえ、それぞれの移民やその家族の状況次第ですが、それがいますぐにも必要な人からすれば、市民権を得るというのは、当然ながら極めて重要なものです。

グローバリズムの台頭と、反動としての右派政党 


杉本 さきほど(前編)でも紹介したこの本(『資本の専制・奴隷の叛逆』:廣瀬純編・航思社)にもサンドロ・メッザードラさんのインタビューが載ってますけど、国民国家ではいまのグローバリズムには到底対抗できない。南米でも左翼政権が続けて出来たけれど、南米も今では対抗できない形になっていると言ってますね。

 
北川 そうですね。 


杉本 いまのグローバリズム社会になっちゃうと、一国主義じゃ到底無理だと。それは確かにそうだろうなと。日本だって大変なのは、アメリカに相当振り回されている現実があるからですよね。

 
北川 そうですね。どこに権力があるか、といったらね。

 
杉本 正直次元が低い言い方だけど、沢山の国が集まって、アメリカなどに対抗したほうが強いという感じ…。

 
北川 そうですね。資本とある種の同盟を意味したイラク戦争のときの提案は、きっとそうしたイメージだったと思いますよ。

 
杉本 ドイツがどうこうというよりも、なお世界ぜんたいを考えたとき、アメリカと対抗する中国やロシア、まあアメリカの属国、日本も右に旋回していく。そしてヨーロッパ自体も全体には……(苦笑)

 
北川 ヤバい状況ですよね。

 
杉本 右傾政治家ばかりが出てきて、とうとうイタリアも同盟と*五つ星運動が連立政権を組んでしまっている(2019年3月現在)。果たしてどうなるのか。

 
北川 かなり厳しいようですよ。いま。

 
杉本 山口二郎さんなんかが「オリーブの木」なんて持ち上げちゃったけど(笑)。どこへ行っちゃったんだろうと思いますね。

 
北川 もう基本、政党政治のレベルで言えば、現状の左派ってずっとアイデアがないように思えます。

 
杉本 どうなんでしょうね?理想主義的だから負けるのか、アイデアがないのか。

 
北川 現状では、ひとつの限界は国家主義にとどまる所ですね。「移民」というテーマからすれば特にそれは明らかです。右翼と左翼、どっちが政権についても、大局的にはそんなに変わってきた印象はないです。移民政策をみればわりとよくわかるかなと思います。やはりどちらも「国家」という空間を前提としているんですよ。「移民」というテーマって、どうしても社会の中では二次的な扱いをされるでしょう?国民中心だから。労働者の運動のなかでも、ここがずっと乗り越えられなかった。「市民権の境界」ですね。先ほどの話ではないですけど。だからホンマは社会の二次的な話や特殊な話ではなく、実は社会の根幹にある中心的な問いとして政治的に設定せんとアカンちゃうかな、と思います。結局、反動的なやり方でそれを先行してやっているのが、イタリアの「同盟」とか、ドイツの「ドイツのための選択肢」とか、要は極右や右翼なわけです。ブレグジットもそうですよね。
 あとビフォがいつも言ってますけど、左翼政党は、新自由主義をすすめてきたわけですからね。やっぱりそれはありえない。中道左派とかいって。新自由主義なんて、民衆というか、人民のことなんて何にも考えないものですよ。チリの民主主義を否定して、アメリカが支援する軍事クーデター下で導入されたものですから。そもそも。それは権力側からの、人民の拒否なんですよ。国家と国民、政府と人民との間のある種の同盟が終わりました。まあ拒否というより、収奪の対象、内戦の対象として設定した、と言うべきかと。だからいまある国家はもう「国民国家」でなくなりつつあるのかもしれません。
 こうしたこと含めて、国家は難しい。左翼というなら、ぼくは是が非でもインターナショリズムというか、トランスナショナルであるべきだと思います。ヨーロッパでは「左派ポピュリズム」というのが最近ありますよね?スペインの*ポデモスという政党がそんな感じでしたかね。なんと言うか、先ほどお話させてもらったオペライズモのような政治とは出発点がだいぶ異なります。最初からどうしても政治の言葉、あるいは、よく知られてきた政治の姿がイメージされすぎている気がします。政治が労働や資本の頭の上にそびえていて、そこから独立しているイメージと言うか。あとその政治の舞台はどうしても国家が前提で、国家へ収斂されがちですよね。だから、国境を超えてやってくるたくさんの移民の移動や労働に特徴的なもの、より具体的に言えば、移民を含む今の資本主義の毎日を生きる労働者たちに特徴的なものというか、彼らの形にならない過剰性、自律性のようなものが出発点ではないですよね。生きた身体の自律性を獲得したい、欲望を最大限にしたいという次元からすれば、いくぶん遠いというか。まあ、戦略面での話なのでしょうが。

移民に厳しい「同盟」のサルヴィーニ 


杉本 結局、一般大衆の思いをすくう所が勝っちゃうわけでしょうね。だから同盟の人も若い時から自分たちの局でディスクジョッキーやって、そういうナショナルな思いを汲んで、いま副首相ですか。 


北川 サルヴィーニですか? 


杉本 ですね。副大統領でしたっけ?

 
北川 内務大臣兼副首相です(2019年3月現在、同盟は現在政権から離脱)。

 
杉本 内務大臣ですか。で、いま移民を排除すると言っているわけですよね? 


北川 はい。追放するとも。もう移民を敵と言い、犯罪者扱いし、追い出すんだと言えば選挙で勝てる感じでしょう。移民たちはほとんど選挙権もないですし。

 
杉本 おそらくでも、メッザードラさんも言ってるし、ビフォさんも言ってるけど、移民なしでヨーロッパは立ちいくか?というと、立ちいかない。

 
北川 資本主義にとって、間違いなくそうだと思います。

 
杉本 だから結局排除は、追い出しはしないけど、二級市民扱いにするという形で。 


北川 まさにそうです。「ヨーロッパ市民」と同等の権利を与えるなら、「移民」というカテゴリーの労働力を使う必要はないわけですから。移民を使う理由はこれにつきるでしょう。均質化を目指すはずの近代国家が、労働力を「移民」として使いまわそうとする理由です。こうやって労働者の間を分割統治していく。そこで激しく争わせる。ただ、今はもっと複雑化していて、国家が移民の移動を単純にコントロールできるような状況ではなくなってきたとは思います。斡旋や手配に関わる人々や集団、それは合法、非合法含めてですが、それがメチャクチャ増大しているからです。あるいは短期雇用の移民労働の募集と供給が、ある意味では瞬間的になされるようになってきていますし。
 というわけで全員を送還するとかは無理だから、目立つところで移民を標的にするという事はすごくやるんですね。例えば地中海の船。北アフリカ、特にリビアから地中海を渡ろうとする移民たちの救助活動に、2014年あたりから複数のNGOが船を用意して、活動に取り組んできました。リビア沖まで出向いて人命救助にあたっていたんです。ランペドゥーザ島の港にも停まってましたよ。「シーウォッチ」というドイツのNGOでした。船の他にも「アラームフォン」という集団があって、活動家が各地にいます。救助を手配するための電話番号をインターネット上に挙げてるんですよ。まさにホットラインです。その番号に船上の移民たちから電話がかかってくるんですね。沈みかけの状態にある船から何というか、悲惨な、混乱した電話も数々あるみたいです。アラームフォンがしているのは、電話で船の現在地を、携帯のGPSを頼りに聞き取って、ローマにある救助船を手配する沿岸警備センターに連絡することです。ちなみに、こうしたホットラインは、もともとゼライという神父が行っていた活動なんです。彼もエリトリアから逃亡して地中海を渡った人です。イタリアに住んでました。
 NGOの船が救助したら、最終的には入港許可を含めて、イタリア当局に引き渡す必要はあるんですね。でもその前段階として、海上の現場に出向いて、直接救助活動してきたわけです。だから沿岸警備にあたる人たちと一定程度協調してやっていたんですよ。それをここ数年で国が徹底的に罰しているんです。港に入れない、受け入れない。それを許さない。NGOがリビアの密航斡旋業者とつるんでるとか、連中にあんなに金があるのはおかしいとか、極右も政府も検察もそういうキャンペーンを張ってきました。一種の「犯罪化」です。そういうことで、いろいろ厳しい条件をつけて、NGOの船が活動しにくいようになってきたんです。それでこうした協調関係も難しいというか、崩れていったと思います。さっきのゼライ神父も、その活動が「不法入国」を支援しているとして検察の捜査を受けました。2017年だったと思います。ほんの2年前、2015年にはでノーベル平和賞の候補者だったんですよ。

 
杉本 変われば変わるもの……。

 
北川 そこで、いまメッザードラが積極的に関わっている団体なのですが、「メディテッラーネア」というグループができていて、かなり多岐にわたる運動が関与しています。このグループは船を頑張って購入したんですけど、それはイタリア船籍なんですね。船籍、船の国籍ってあるじゃないですか。例えば、スペイン船籍のNGO船であれば、なんでスペインの港に向かわない?という形で、イタリアは入国拒否出来てしまうようなんです。でもメディテッラーネアの船は、イタリア船籍なので、こうした理屈での入港拒否は、基本出来ないんです。ところが、当局は船を港に着けさせなかったりする。それはイタリアが救助する必要のない海域でなされた救助活動だから、よそへいけ、と。例えばそれはリビアの海域でしょ、と。海上の国境の話です。だから、行き場を失くして、数週間、救助された人たちを乗せたまま地中海を漂流する状況が続いたりする。よくそれが国と国との外交問題になっているんです。イタリアとマルタとか。そっちの責任で受け入れろ、いやそっちだろとか。でも救助船からすれば、リビアが担当する海域で救助をしても、近くの「安全な港」であるイタリアの港に行きたい。国際法にそって。紛争が続いていることもあるし、移民への激しい暴力や恐喝が指摘されているリビアという国は、「安全な港」とはなかなか言えないからです。なんというか、こういうのはすでに20年前くらい前からときに起こっているんです。移民を救助した漁師が捕まったりする。不法入国を助けたやろ、ってなるんです。だから、漁師の船にせよ、地中海を航行しているたくさんの商船にせよ、沈みかけている移民の船を発見しても、手助けをしにくい。それで難民が死んでしまったケースもあると言われています。これが今はより組織的にやられて結構ひどくなっている。地中海を渡るための道、インフラがない。特に、もはやリビア沖で救助する船がなくなってきてる感じです。イタリアがリビアと連携して、そこをリビアの沿岸警備隊が相当厳しく取り締まっているようです。こんな感じなので、難民の権利とかそんなのも見過ごされてます。
 話を戻すと、メッザードラたちの船はイタリアの船籍。だからイタリアの国が入国する船を港で拒否することは基本出来ないはずで、そういう形でやっていたんですけど、最近彼らの船も財務警察に差し押さえられている途中だとか。

 
杉本 イタリアの船ということですが、結論から言ってしまうと乗っているのは難民の人たち。

 
北川 ええ。難民の人たち、移民の人たちを助けて乗っけているわけです。 


杉本 そういうやり方も当局のほうで知られてしまったと? 


北川 そういう感じですね。地中海とかメディアで大きく取り上げられるような場所、国境を特に厳しく管理しているんです。もちろん街中で「移民」とみなされる人に対する警察によるドキュメント・チェックもたくさんなされていますし、極右勢力の自警団的行動や町の人々の視線、ときに暴言や殴打だって、今まで以上にずっとあるでしょう。殺人だってありますから。本当に移民にとっては大変につらい状況なんです。精神的な面でもかなり厳しいと思います。じゃあ全員を強制送還するかと言えばそれは経済的理由からもあり得ないし、物理的にもあり得ない。その人の国籍の確定、その国が受け入れるかどうか、強制送還する移動手段の用意など、困難なわけです。こうした状況なので、移民たちにとって厳しい極右政権の状況ではあるみたいです。

 
杉本 なるほどねえ。もともとシリア難民の人たちが押し寄せてくるような状況の中から移民の人たちが来はじめていると思うんですけど、アフリカから来る人が多いわけですか? 


北川 やはりそうですね。ただシリアから逃げてくる人々もイタリアにたどり着いていました。あと遡ると、1996年の末に大規模な沈没事故がありました。何と数年ほど見過ごされていたんですよ。そのときに亡くなった人は、パキスタン、インド、スリランカなど、南アジアからの人たちでした。

 
杉本 地中海を渡って? 


北川 そうですね。単純にイタリアにいる外国籍の人と言ったら、ルーマニア、中国、アルバニア、モロッコなどの人が多いんですけど、現状、海を渡ってイタリアにくるのはアフリカの東、西からの人たちが多いです。西のほうだとナイジェリア、ギニア、ガンビア、コートジボワールとか、東だとエリトリア、スーダンとか。ソマリアもかな。割と自力でくるチュニジアからも継続してますね。


杉本 やっぱりここがね。ヨーロッパとアフリカの接点というか、近い所での大変さですよね。

 
北川 そしてヨーロッパとかつての植民地との間のいろいろな不均等性やすでにあるアフリカ、地中海、ヨーロッパ内を縦断する移住斡旋に関わる産業や仕組み。あと移民たちの欲望や人間関係のネットワークを考えると、ルートや規模は変わるとしても、ヨーロッパへ向かおうとする人間の移動はそうそうなくらないとは思います。彼らの移動のすべてが、出発地からまっすぐにヨーロッパへと向かうわけではないんですけど。

体感治安と二重の基準 

杉本 どうでしょう?素朴にやっぱりある程度までにしないとさすがにちょっとまずい、ということはないですか? 


北川 その感覚が一番、右へ流れる理由なんですよね。国家、領土、主権のイメージを強化する立場へ向かう。

 
杉本 バランスが難しいというか。ある程度で軽量化はできないというか。あまり人を軽量化とか言っちゃいけないんだけど。でも移民を欲しい時は欲しいでやっていたでしょうし、それがもう大量に押し寄せてくると、「何だ?今まで受け入れてたのにアウトかよ」と。結局政府は自分の都合次第なのか、とやはり思われちゃいますよね。 


北川 さっきの話ですけど、例えば「シリア難民危機」の話でも、例えば*バリバールというフランスの思想家は、ヨーロッパはシリアの難民をほとんど受け入れていない。多くは、中東のシリア周辺のレバノンとか、そういう国々にいると言っています。ちなみにこういう紛争があったときに、難民をできるだけ紛争地の近隣諸国のキャンプなどに封鎖するというのは、冷戦後に顕著な難民統治のやり方です。要は、豊かな国まで来させないぞと。実際、単純に数で言えば、難民は世界で見てもアジア、ついでアフリカに集中しています。だから世界でこれだけ豊かなヨーロッパがまだまだ全然受け入れてないやん、まだいけるやん、と彼はいうわけですよね。全く正しくて、その通りだと思うんです。でもね、「そんなに受け入れて大丈夫なの?」という人々の懸念はそういう確固たる数字で示されてもダメなんです。そこじゃないんです。 


杉本 体感治安のような話ですね。

 
北川 そうです。だからこうした議論はまさに「全体」に訴える線だと思うんですけど。社会全体、国家全体、ヨーロッパ全体。さっきの話で言うと全体の視点に立脚して、大丈夫だろうと。そう言っちゃうと、何か……。

 
杉本 通じない? 


北川 冷静な意見で、なければダメな議論ではあるんです。ただそれはいまの社会で不安や恐怖、しんどさ、いらだちなどを抱えている人にすんなり通じないんじゃないかなという気がします。同盟の活動家は知りませんが、同盟に票を入れている人たちだって、全員が揃って移民をガンガン追い出せ、ぶっ潰せみたいな思想で凝り固まっているわけではないと思いますよ。

 
杉本 それだけじゃ支持できないですよね。

 
北川 そういう時にいわゆる政党左翼は何を言えるのか?何ができるのか?と。移民が多すぎるという感覚が多くのイタリアの人たち、「民衆」、「人民」、あるいは「労働者」のなかにとてつもない勢いで醸成されてきたとき、何をしているか。やっぱりそれほど何もしていないし、何もできない。連中は極右だ、排外主義者、人種主義者と言って終わるわけです。さっきのジジ・ロッジェーロの批判ですね。サルヴィーニが内務大臣になる前の政権は、中道左派を中心とした政権でした。そのときの内務大臣に*ミンニーティという人がいました。元共産主義者です。彼は実は、ほとんどサルヴィーニと同じようなことをやってたんですよ。去年2018年2月に、ファシスト化したイタリア人男性が、移民たちに無差別発砲事件を起こしたんですね。そのときにミンニーティは、移民がさらに増えて移民を管理できなければ、私たちの民主主義の容量が危機に頻すると言ったんです。つまり移民が増えれば、極右が勢いを増して、その暴力が増大して、民主主義社会がファシスト化してしまう。だから移民を抑制しないといけない、移民を制限、拒否しないといけないと。その結果、例えばリビア、リビア沖での取り締まりの強化につながるわけです。地中海を渡ってくる人が、管理というか、暴力なんですけれども、そのせいで最近移民が減ってきたことで、ファシズムは抑制され、民主主義の容量が守られる。これで極右化せずに、民主主義のままでいられると。そもそも、地中海で救助活動にあたるNGOに対して最初に厳しい措置をとったのは、サルヴィーニではないんですよ。ミンニーティであり、中道左派政権です。サルヴィーニは程度や政治利用の仕方はもちろん違うとはいえ、基本その路線上にいるとも言えます。

 
杉本 そうなのか……。

 
北川 だからいずれにしても、国民国家というか、国家主義へと根本的には戻ってしまうパターンだと思うんですね。

 
杉本 確かEUは、*シェンゲン協定でしたか?入国して移民認定されるとEU域内のどこへ行ってもいいんですよね。

 
北川 そうです。EU統合の象徴だったとは思います。市場の自由化、労働市場の自由化といった新自由主義的な文脈で実行に移されたとはいえ、です。しかし、それも現状からすれば、やっぱり人種主義的なものだった。現在のEUでは見た目が黒い肌をしているといった理由で、EU内の国境が越えにくいものになってるんですね。ベルギーなどではヨーロッパ市民とされているはずのイタリア人さえ仕事がない状況になったら国外追放してると聞きます。もうヨーロッパ内部でも強制送還があるわけです。とはいえ、基本的にはシェンゲン協定があるから、「ヨーロッパ人」がイタリア-フランス国境を越えようとしても警察は基本的には手出しはしないわけですが、移民と認識された人だけは徹底して捕まえる。

 
杉本 本当ですか。別に何も悪いことしてないんでしょう? 


北川 してないです。それどころか、こうした移動は自由を拡張する行動として、政治的なものとして理解されないといけない。既存の民主主義に対して、境界の暴力に対して。だからというべきか、しかしというべきか、既存のルールとはぶつかります。許可なしに勝手に入ってきたとなるんです。例えば*「ダブリン規則」というヨーロッパ内の難民保護ルールがあります。この規則があるために、保護されたい人は、最初に辿りついたヨーロッパの国で難民申請しなければならないんです。だからフランスに行きたいとしても、地中海を渡ってイタリアに着くとか、連れていってもらうとイタリアで難民申請しないといけないんですよ。フランスには行けないんです。そういう人は難民に該当しうる人であっても、フランス側では事実上「不法移民」になってしまう。 


杉本 あ!そうなんですか。最初にたどり着いた国で難民申請しないといけない? 


北川 だからそこでしたくない人はイタリアを逃げ出さなければいけないんですね。

 
杉本 逃げ出して、そのあとのサポートはどんな?

 
北川 ないです。インフォーマル化するしかない。インフォーマルな手段で、インフォーマルな支えで越境するしかありません。 


杉本 なるほど。不法入国という形ですか。 


北川 そうみなされるんですよね。そもそもヨーロッパのビザ政策などのために、行きたい国まで飛行機で移動できない人、正規のやり方、「合法的」なやり方で移動できない人。その場合は、どうしても文字通り“地を這った”移動をするしかない。そうなると目的地以外の国、ギリシャやイタリアを通らないといけない。でも難民申請したいならイタリアでお願いしますと言われちゃうんです。そうするともう本当に行きたい他の国には行けないですよね。親族とかがいても。そして、彼らが最初に足を踏みいれた国が責任をもって難民審査しないといけない。ルールとしては。

 
杉本 そうなんですか。そうするとイタリアも困りますよね。

 
北川 と言ってます。

 
杉本 それはそうですよね。

 
北川 数で言えば、実際に受け入れている数はドイツとかに比べたら少ないとは思います。日本の状況からすれば「少ない」とかは言いにくいですけど。

 
杉本 そういえば陸側から来たドイツのシリア難民を受け入れるということで、メルケルさんは日本では立派だね、と言われて。でもドイツでは大変評判が悪くなっているようですね(笑)。

 
北川 そうですね。だから本当にいま「移民」という主題をめぐって社会が2つに割れてますね。

 
杉本 う~ん……。 


北川 まあ、右翼のほうがどうしても強くなってますね。要するに移民という話題の前では、国家前提の言語で、国家主義的にしか語れていない訳です。受け入れるとか、追放するとか、選別するとか。

 
杉本 むかしからテリトリー意識みたいな発想はねえ。やはり自分自身省みても出てくるだろうと思うからなぁ。 


北川 まあでも、移民は受け入れても何も変わらない、起こらないよというのも嘘だと思うんですよ。もちろんそれは犯罪が増えるとかそんな意味ではありません。ただ、何も変わらないと言うのは、彼らの移動、越境が社会に、それこそ既存の民主主義に与えている政治性を無視するまた別の態度だと思います。でも、こうした移動、越境のすべてが、わかりやすく政治的な表現で表に出てくるものとして考えてはいけないんですね。こうした移動、越境は、もっとその手前で、それと気づかれずに社会を変動させている。静かに変動に巻き込んでいるようなものでもあるんです。ほんとうに。
 偶然なんですけど、ちょうど矢部史郎さんも、福島第一原発から撒き散らされた放射能からの自主避難者たちの移動について、同様のことを書いてたんです。「おお、そうやんな」って興奮しましたね。
 だからね、結局、ここでオペライスタでしたら、この変動、動乱から階級主体とか、新たな政治の形とかを考えていかないといけないんじゃないかと思いました。簡単なことではないですけど。


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*サンドロ・メッザードラーーボローニャ大学人文学部准教授(政治哲学)。西洋思想史研究、非正統派マルク ス主義、社会哲学、ポスト植民地主義論を理論的背景に、グローバル化と人の移動、労働と主体性、現代資本主義を多角的に考察する「境界研究」の旗手として世界的に活躍。昨今のEUの移民・難民危機にも積極的に行動・発言する。 邦訳書に『逃走の権利』(人文書院、2015)など。
*シリザーー2004年にギリシャで結成された左派政党の同盟。結成以来ラディカルな立場を固めてきたが、ユーロ危機以降、新自由主義への抵抗を前面に押し出し、2015の総選挙で過半数を獲得、債務減免による国内経済の立て直しを指導し、トロイカ(欧州中央銀行、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF))との交渉。しかし交渉は難航。2019年の総選挙では第二党に甘んじる。(『資本の専制、奴隷の隷従』(航思社)より。加筆)
*五つ星運動―イタリアの政党。2009年10月に人気コメディアンのジュゼッペ・ピエーロ・グリッロと、企業家・政治運動家のジャンロベルト・カザレッジョによって結党。 党名の五つ星は「水・エネルギー・開発・環境・交通」を意味し、同党の主要目標である公共水道、持続可能な交通、持続可能な発展、インターネットへのアクセス権、環境主義を表している。大衆の不満に率直な賛同を示すポピュリズム政党として行動し、雇用制度の安定化、公的債務のデフォルトなど改革への反動を主張するし、その遠因である欧州連合からの離脱や欧州統合への反対、政治腐敗への不信と派閥・政党主義の政界構造への反対なども掲げられている。また環境主義及び環境主義と反資本主義的な傾向を関連させる形でダウンシフト(スローライフ)的な反物質主義・非競争社会の形成なども主張している。更に新しい社会の中心としてインターネットを高く評価しており、デジタルデモクラシーに基いて立候補者をネットを通じて選ぶなどの選挙戦術を展開している。(Wikipediaより)
*ポデモスースペインの政党。大衆運動を背景に2014年1月に結党。SNSなどのメディアを活用し、同年5月の州議会選挙で大躍進を果たす。党名は英語で「We can」、日本語で「われわれには可能だ」の意味[14]。政治思想は左派ポピュリズム、反エスタブリッシュメント、欧州懐疑主義。
*バリバールー1942年、フランス生まれ。哲学者 パリ第10大学ナンテール校名誉教授,カリフォルニア大学アーバイン校特別功労教授。’68年からパリ第1大学助手、講師、助教授。’94年パリ第10大学教授、2002年名誉教授。政治哲学、道徳哲学を講じる。著書に「史的唯物論研究」「プロレタリア独裁とはなにか」「マルクスの哲学」「人種・国民・階級」「ルイ・アルチュセール―終わりなき切断のために」「市民権の哲学」「ヨーロッパ市民とは誰か」「スピノザと政治」、共著に「資本論を読む」など。(コトバログより)
*シュンゲン協定―《Schengen agreement》欧州諸国間において人の移動の自由を保障する協定。加盟国域内での出入国審査を廃止し、域外からの入国者には共通査証(シェンゲン査証)を発給。国境を越えた警察・司法協力を行う。名称は、1985年にルクセンブルクのシェンゲンで調印されたことから。フランス・ドイツ・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクの5か国により発足し、1999年発効のアムステルダム条約によってEUの法的枠組みに組み込まれた。(デジタル大辞泉より)
*ダブリン規則―ヨーロッパ連合(EU)加盟国の領域内において国際的保護を求める庇護(ひご)申請が申し立てられた場合、申請を優先的に審査する国を決定するための規則。原則として、難民としての庇護を求める者は、最初に到着したEU加盟国で申請を行い、審査が実施されることになる。申請はかならず一つの国によってのみ審査され、加盟国間でたらい回しにされたり、一度却下された者が他国で申請を再度試みたりすることは認められない。なお、申請者の家族がいるなどのつながりをもつ国がある場合は、その国に移送され審査を受けることになる。また、ダブリン規則の実効的運用を目的として、EU内で庇護申請を行った者は、ユーロダック(Eurodac)というデータベースシステムに登録される。(ニッポニカより)

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札幌で人文社会系のインタビュー活動をしています。自由と社会を軸に考えつつ、最近は道外にも取材に行っています。インタビューサイトURL https://www.kenjisugimoto.net/

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