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人材紹介に明日はあるか


  コロナショックに伴う経済損失や人々の行動様式の変化から、世界の自動車販売数が減少しています。近年、グローバル市場の拡大に加え、国内景気の長期安定もあって堅調に業績を伸ばしていた完成車メーカーも厳しい状況に見舞われています。
  この苦境をいかにして脱するのか、またこれを契機に一気に構造改革を進めて組織として生まれ変わるのか、或いはコロナ後の新たな社会に対して新たな存在価値を打ち出すのか、各社の動向は興味深いところです。

  さて、私が身を置く人材紹介ビジネスも、景気の影響を大きく受ける業界としてリーマンショックをはじめとする過去の不況期には様々な辛酸を舐めてきましたが、今回も“業績のコメ”ともいうべき取引先からの新規求人申込は激減しています。
  担当する業界によっては担当取引先の半数以上が新規採用を見合わせたというコンサルタントもいれば、個人業績の大半を占めていた大口取引先が選考を停止した、という状況に見舞われている人もいます。

  過去の不況期にも同様のことはありましたが、こういう状況で各社が取り組むのは「新規開拓」です。もちろん、人材紹介会社に限らず企業が成長を続けるためには常に顧客を増やし続けることが必要です。しかし過去の経験から、失敗する(誰にも価値を産まない)新規開拓もあります。それは、「求人募集を行なっている会社ならどこでもいい」とばかりに本来の自社サービスの特長(付加価値)が及ばない領域へと開拓の手を拡げることです。

  文系職の若手人材に強い紹介会社が、今積極採用を行なうテック企業の求人をどれだけ集めたところで、そのニーズに合う人材を紹介することは簡単ではありません。また技術者に強みを持つ紹介会社が短期的な人手不足にあえぐ運送業界に開拓の手を拡げても大したサービスはできません。
  要は、もはや人材紹介会社に求められるサービスは「他のチャネルでは集められない稀有で優秀な候補者を推薦してくれること」でしかなく、それは過去からの積み重ねによって差別化されたデータベースとコンサルタントの専門性によってのみ実現できることです。

  もし今、本来の強み領域以外の登録人材(求職者)を新たに集めることに過度なリソースを投入してしまうと、これまで積み上げてきた強みを相対的に弱めてしまい、それは次のフェイズで自社の強みを失ってしまうことになります。

  もしトヨタが、価格の高いHV車が売れ難いことを理由に、環境性能の低い低価格車を大量生産し始めたらそれは社会の共感を得られるはずがありません。

  同じように、人材紹介会社は“今求人が分かりやすく顕在化していること”だけを理由に無節操な求人開拓を行ない、“取り敢えず手元にもっている人材を、人が採れなくて困っている企業に妥協を迫ることで推薦する”ことで自らの提供価値(存在意義)をいたずらに劣化させたら、アフターコロナの新たな社会を生き残っていくことはできないのではないでしょうか。

※参考


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