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戦略の創造学①

 米欧を基点に研究を行うミクロ経済学者であり、デザイン思考とドラッカー(マネジメント)の融合によって新たなビジネスを産み出すためのプログラム「ISD」を米国で立ち上げた山脇秀樹氏の著書。

  多くの文献や事例を踏まえて深い洞察が行われており、繰り返し熟読して噛み締めたい一冊ですので、少し長めに要約してご紹介します。

Chapter-1 :なぜ新しいモデルが必要なのか
  日本には身近な問題を様々な工夫によって解決する課題解決の能力や習慣が根付いている。それによって日本の製造業は1960〜80年代に目覚ましい発展を遂げ、世界を席巻した。しかし技術革新の速度が増し、グローバル化が進んだ90年代以降、日本企業の国際競争力が低下している理由は、60〜80年代の成長を支えた「より良く、より安く」という持続的イノベーションに頼ってしまったことにある。その間、破壊的イノベーションを行なった米系企業によって激変したビジネス環境において、日本企業はその場その場を切り抜ける仕事に追われ、自社の『目的』と『ビジョン』を見失ってしまったのではないか。
    筆者は、「競争に勝つための戦略、戦略といっているうちに、なんのための戦略だか忘れてしまった」「最初から目的とビジョンがないままに戦略を立てている」のではないかと見方を示し、その原因が、維新から高度成長期に我々日本人のDNAに染み付いた「既にある課題に対して対策を考える」という無意識の習慣、すなわち課題そのものを考える習慣のなさにあると指摘している。

Chapter-2  :ビジネスの目的・使命・ビジョン
   ビジネスの『目的』について筆者はドラッカーを引用して「ビジネスとは顧客がある製品・サービスを購入して充足する、その顧客にとってそれまで欠乏していたもので定義するべき」、すなわちビジネスの目的は、顧客の目線(企業の外側)からの目線でのみ定義できるとしている。この時、見落としてはならないことはビジネス環境(社会、市場、顧客の行動)は急速に変化するということであり、経営者が問われるのは「すでに起こった未来」を見つけ、それを新たなビジネス機会とすることだと筆者は述べている。「すでに起こった未来」の代表的なものは人口動態だが、日本にとっては中国の台頭とシンガポールやインドを含むアジア経済圏の拡大もそれに含まれる。
   筆者は、「絶え間なく起こる社会・経済・技術・環境等の変化のトレンドを見過ごすことはビジネス機会を見逃すことに通じる」、「致命的なのは既に観測されている大きな地殻変動の兆しを過小評価すること」であるとした上で、観察された変化から洞察を行なって機会を見つけ、さらにそれを事業に結び付ける上での方向性を決定付けるものこそ『ビジョン』であると括っている。

Chapter-3 ;観察から洞察へ

   観察した”事実“から、何が言えるか、それがどのような機会に繋がるか、と思考を進めること(=洞察)が次のステップです。

   筆者は、アメリカにおけるアジア系アメリカ人の比率の上昇、プロフェッショナルの職業に就く人口に占めるアジア系の比率、という“事実”から既にアジア系アメリカ人がアメリカの消費市場において無視できないペルソナの一つになっていることを指摘した上で、主人公にアジア系を起用した異例のハリウッド映画のヒットの背景に、「白人の比率は低下し続けているにも関わらずハリウッド映画の主役は全て白人」という「なんかしっくりこない不調和」があったとしています。

    その他、本章では、既に起こった未来を創り、社会・経済の通念をを覆した例として、新規参入が極めて難しいとされる完成車市場への参入に成功したテスラを挙げています。

  また本章ではドラッカーの次の一節が引用されています。

   「その産業をよく知る人にとっても、産業構造と市場構造は往々にしてまったく揺るぎないものに見え、それらの構造は変わることなく、現在の状態が長期的に継続すると思い込んでしまう。一方、市場あるいは産業構造の変化はイノベーションを起こす大きな機会である。」

(続く)



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