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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第5話 コロナ禍と知財

 2019年末に中国で感染が確認され、2020年から本格化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2023年5月にようやくWHO(世界保健機関)が緊急事態宣言の終了を発表しました。コロナ禍は我々の日常生活に大きな影響を及ぼしましたが、特許・実用新案、意匠、商標といった産業財産権も例外ではありません。
 コロナ禍と知財に関する話題としては、まずワクチンに関するものが挙げられます。たとえばmRNAワクチンの特許については、モデルナがパンデミック中は権利行使をしないと宣言し、後にその宣言を解除してファイザーおよびビオンテックを訴えるなど複数の係争にも発展しました。公益と私益のバランスをどう取るかといった点のほか、バイオ医薬品であることに起因する「特許の藪やぶ」(複数の企業が細切れに多くの特許を持つ状況)による訴訟の泥沼化など、個人的にもいろいろと考えさせられました。
 身近な知財からもコロナ禍の影響を見て取ることはできます。なかでもわかりやすいのがマスク関係です。たとえば特許・実用新案の出願について、国際特許分類A62B18/02( マスク)が付与されているものを検索してみると、2018年は93件、2019年は76件だったところ、2020年は529件、2021年は259件となっており、明らかに急増しています(J-PlatPatで2023年11月17日に検索。意匠、商標も同様)。ちなみに、マスク以外のものとしては、換気・送風、消毒・除菌、検査などに関する出願が増加していました。
 また、登録意匠について「意匠に係る物品」に「マスク」が含まれるものを検索してみると、2018年公報発行分は131件、2019年は98件だったものが、2020年は775件、2021年は389件となっており、特許・実用新案出願と同様の傾向を示しています。マスク以外では、感染対策のために他人とソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るように啓発する画像意匠などが目に留まりました(意匠登録第1684689号ほか)。
 さらに商標出願について「〇〇マスク」なる登録商標などを検索してみると、2018年は53件、2019年は55件だったものが、2020年は284件、2021年は149件となっています。こちらもやはり同様の傾向です。
 実際に登録されたものを見てみると、「洗えマスク」( 商標登録第6291535号)、「ふんわりピュアピュアマスク」(商標登録第6309630号)、「笑えマスク」(商標登録第6321517号)、「食べれマスク」(商標登録第6322721号)、「走れマスク」(商標登録第6341981号)、「つけたまマスク」(商標登録第6368908号)、「歌っちゃいマスク」(商標登録第6423458号)など、なかなかセンスを感じさせるものがあります。
 新型コロナウイルスを撃退するイメージを想起させる商標も見受けられます。たとえば「コロナバリア」(商標登録第6277838号)、「コロナアタック」(商標登録第6288277号)、「コロナバズーカ」(商標登録第6311343号)、「コロナハンター」( 商標登録第6413448号)、「コロナキラー」(商標登録第6522736号)です。そういったなかで、コロナウイルスとの共生をイメージした「コロナ君」(商標登録第6523021号)は異彩を放っています。『ゴーマニズム宣言』などで知られる漫画家・小林よしのり氏により描かれたもので、この柄の入ったハンカチなどが販売されているようです。

商標登録第6523021号

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年1月号掲載


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