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「尖って生きろ」というけれど

帰省して訪ねた母校で、お世話になった先生と再会した。
先生はこの3月で定年を迎え、4月から再任用期間に入ったらしい。

「最近僕もちょっと丸くなりましてね」
「あかんあかん、お前は尖っていけ」

笑いながら話しかけた僕に、先生からお叱りの言葉が返ってきた。

「最近お前みたいな生徒がおらんくなってなあ」

最近の生徒は、なんでも丸く収めようとしてばかりだという。
周囲の顔色を窺っては自分も歩調を合わせようとする生徒に、先生は不満げだ。

今からずっと前のこと、先生が初めて赴任した学校の話。

この学校の職員会議は、一部の関係教員が事前に決めた事項を追認するだけの無意味なものだったらしい。

「おいお前ええか。職員会議やぞ、わかってんな?」
「わかってるって、何のことですか」

初の職員会議を前に、当時新任だった先生はコワモテの先輩教員に呼び出された。

「新人は1年間何も発言するなよ。1年経ったらいろいろわかってくるやろから、来年なったら発言してもええわ」

先生はこの先輩教員の言いつけを守り、職員会議で1年間無口を貫いたそうだ。

先生は当時をこう述懐した。

「やられたな。1年黙ってたら黙る癖がついてしまうねん。2年目になってもいまさら発言できへん」

こうして上層部の決定に従うだけの職員会議ができあがった。

思い返せば、僕は母校で言いたいことを言って過ごしてきた。

修学旅行は慰安旅行じゃないと最後まで主張したし、楽しい遊びがなくても避難訓練をやるべきだと叫んだし、アカデミックな学園祭をしたいと1人で講演会をぶち上げた。

あの頃の僕に周囲の顔色を窺うという発想はなかった。

最近の生徒は思うことがあってもすぐに取り下げてしまうらしい。

「何も言わない生徒の方が楽やねんで。せやけど、これに慣れてしまったらあかんと思うねん」

何も言わないことに慣れてはいけない。

安住の先にあるのは、無意味な追従を繰り返す組織だけだ。

先生は続けた。

「おかしいことは『おかしい』と言える人にならなあかん。今の世の中こそ、そういう人が必要なんちゃうかなあ」

おかしいことは「おかしい」と言える人になれ。

母校はいつになっても、僕の目を覚ましてくれる場所だ。

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