【研究情報】ラムナン硫酸の抗ウイルス作用の論文を読む!

海藻ヒトエグサ抽出物「ラムナン硫酸(RS)」の抗ウイルス作用について、英文の研究論文が高いレベルの科学雑誌Marine Drugsに発表されましたので、掲載いたします。

これまでラムナン研究所で発表になっていた、ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス特異的抗体の産生を促進することについて、そのメカニズムまで踏み込んで、論じられています。
ラムナン硫酸の抗ウイルス作用は、ウイルスが細胞への吸着/侵入を阻害し、抗体反応を高めることによって感染を緩和するとのことです。

新興ウイルスを制御するための戦略として、薬剤耐性が出る可能性のある特効薬だけでなく、ウイルスの吸着/侵入阻害と抗体産生を持つものも望まれると、述べられています。

論文の内容について、順を追って要点を確認したいと思います。

以下の図表はすべて論文の中から引用しています。

タイトル:
Anti-Influenza A Virus Activity of Rhamnan Sulfate from Green Algae Monostroma nitidum in Mice with Normal and Compromised Immunity
掲載科学雑誌:Marine Drugs
URL: https://www.mdpi.com/1660-3397/18/5/254


表題:正常および免疫不全マウスにおける緑藻ヒトエグサ由来ラムナン硫酸の抗インフルエンザAウイルス活性


1.はじめに
新たな抗ウイルス剤の研究の必要性
・2009年のインフルエンザのパンデミックや、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、および新しいSARS-CoV-2など新興ウイルス感染症に対し、新しい制御戦略が求められる。
・抗ウイルス剤は、薬剤耐性株出現のリスクがあり、発育鶏卵を使用したワクチンの製造には6か月以上かかる。
・抗ウイルス活性と、免疫系の刺激やウイルス吸着の阻害などの異なる作用機序の両方を持つ薬剤が必要である。
・海藻などからの硫酸化多糖類は、ウイルス複製を減少させ、ウイルス特異的抗体産生を増加させることができる可能性がある。


この研究(論文)の目的
・in vitroで広範囲のウイルス(エンベロープ)に対するラムナン硫酸の抗ウイルス活性を明らかにした。
・in vitroおよびin vivoでのIFV感染に対するラムナン硫酸の抗ウイルス作用の特徴を明らかにした。
・ラムナン硫酸分子がマウスの腸上皮のM細胞に結合できるという組織学的証拠を示す。(腸の免疫センサーであるパイエル板はマイクロフォールド細胞(M細胞)に覆われている。)
⇒調査結果は、ラムナン硫酸が抗インフルエンザ治療薬への開発の潜在的な候補であることを示唆している。

※緑藻(M. nitidum)に含まれるラムナン硫酸(RS)は、いくつかのin vitroおよびin vivoの研究で、抗凝固作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、および抗肥満作用があることが報告されている。


2.結果
2.1. in vitroでのエンベロープウイルスと非エンベロープウイルス複製に対するラムナン硫酸の作用
・エンベロープウイルス(HSV-1、HSV-2、HCMV、麻疹ウイルス、おたふく風邪ウイルス、IFV、HIV、およびヒトコロナウイルス)に対して強力な抗ウイルス活性を示した。
・非エンベロープウイルスに対してほとんど、またはまったく抗ウイルス活性を示さない。
・ウイルスへの選択指数(SI = CC50 / EC50):宿主細胞に対する半数細胞増殖阻害濃度(CC50)と各ウイルス(EC50)のRSの半数効果濃度(EC50)を測定した。
・10を超える選択指数SI値は、抗ウイルス活性を示唆する。
・ラムナン硫酸のSI値は、「ウイルス感染中に投与(A)」の方が、「感染直後に投与(B)」よりも活性が高い。
⇒ラムナン硫酸は、エンベロープウイルスに対して抗ウイルス効果を示し、ウイルス複製の初期段階を阻害する。

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2.2.In Vitroでの抗インフルエンザウイル作用の標的
*インフルエンザウイル(IFV)複製に対するラムナン硫酸の添加時間の違いによる影響
⇒「感染中の1時間」、および「感染と同時処理し、その後培養」に、ラムナン硫酸を添加した場合に、ウイルス産生を最も効率的に抑制する。
⇒「ウイルス感染の3時間前」、「感染1時間後」、「感染3時間後」、「感染6時間後」にラムナン硫酸を添加した場合、ウイルス複製に顕著な阻害は観察されず。

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*ラムナン硫酸がウイルスの吸着と侵入に及ぼす影響
・抗ウイルスの標的は、宿主細胞表面へのウイルス吸着、宿主細胞へのウイルス侵入を阻害した。
・20および50 µg / mLの ラムナン硫酸処理は、Madin–Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞へのIFV吸着を著しく阻害した(a)。
・ウイルス侵入も用量依存的に阻害し(b)、ウイルス侵入に対する作用は、ウイルス吸着に対する作用よりも低い(a、b)。
⇒ラムナン硫酸がin vitroでのウイルス感染の吸着および侵入ステップを標的とすることを示している。

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2.3.免疫正常および免疫不全マウスの体重と死亡率に対するラムナン硫酸の影響
*ラムナン硫酸とオセルタミビルがマウスの体重変化に及ぼす影響
・IFV感染(2×105 PFU / 50 µL)の免疫正常マウスと免疫不全のマウスの両方で、体重と死亡率を確認した。
・免疫正常マウスおよび免疫不全マウス(n =処理群あたり16–21)使用。免疫不全を誘発するために、5-フルオロウラシル(5-FU)を注射した。
・対照群(経口で水を投与)では、免疫正常マウスと免疫不全マウスは、感染8日後に、体重がそれぞれ約20%、約30%減少した(a、b)。
・ラムナン硫酸処理は、免疫正常マウスと免疫不全マウスでは、体重が約20%および25%減少した。
・オセルタミビル投与は、免疫正常マウスは、顕著な体重減少なし。免疫不全マウスは、感染後7〜9日で体重5%減少し、感染後11日までに回復した。

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*死亡率に対するラムナン硫酸とオセルタミビルの影響
・免疫正常マウスはすべて、実験期間を通じて生存した。
・免疫不全マウスでは、1匹が安楽死させられ、1匹は対照群で死亡しているのが発見された。
・ラムナン硫酸処理群とオセルタミビル処理群では、マウスの死亡は観察されず。
⇒ラムナン硫酸は、免疫正常マウスと免疫不全マウスを致命的なIFV感染から保護できる。

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2.4.マウスにおけるウイルス複製に対するRSの効果
・肺および気管支肺胞洗浄液(BALF)でのウイルス量を、免疫正常マウス5-FU(-)と免疫不全マウス5-FU(+)で、感染3日後と7日後に測定した。
・Figure4はウイルスの測定実数を、Figure S1は対照群を100%とした場合のウイルス量の割合です。

*ラムナン硫酸
・肺のウイルス量:感染3日後に免疫正常マウスで50%に減少し、免疫不全マウスでは減少できず。
・感染7日後には、免疫正常マウス、免疫不全マウスともにウイルス複製を抑制した。
・気管支肺胞洗浄液(BALF)でのウイルス量:感染3日後に免疫正常マウス、免疫不全マウスでは、ウイルスを減少できず。7日後に免疫正常マウス、免疫不全マウスともにウイルスを抑制した。

*対照群
・免疫正常マウスでは、感染7日後もウイルス量を検出した。
・免疫不全マウスでは、感染7日後もウイルスの複製が持続した。
⇒ラムナン硫酸が免疫正常マウスと免疫不全マウスの両方でウイルス増殖を抑制した。

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2.5.血清中の抗体産生量に対するラムナン硫酸の効果
・抗体応答への作用評価のため、免疫正常マウスおよび免疫不全マウスにIFVを感染させ、感染3、7、および14日後に血清を採取した。
・ラムナン硫酸は、免疫正常マウスと免疫不全マウスの両方で、感染後7および14日目に血清中の中和抗体の力価を高めた。
・オセルタミビルは、免疫正常マウスで感染3および7日後に、免疫不全マウスでは感染7および14日後に、抗体産生を有意に抑制した。
⇒ラムナン硫酸がウイルス特異的抗体の産生を刺激したことを示す。

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2.6. M細胞によるRSの取り込み
・ウイルス量の減少と抗体産生増進のメカニズム調査のためにFTIS標識のラムナン硫酸(FITC-RS)を使用した。
・FITC-RSは、経口投与5分後と60分後のマウスのパイエル板上に観察されず。
・投与30分後、FITC-RSの蛍光発光は、腸の免疫センサーであるパイエル板のほとんどすべてのM細胞で、明確に観察した。
⇒ラムナン硫酸がM細胞を通過し、経口投与後30分以内にパイエル板に侵入した。
※FITCのみを経口投与した場合は、30分後にM細胞から物質自体は検出されず。

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4.ディスカッション
*ラムナン硫酸の抗ウイルス作用
・in vitro:ウイルスの吸着/侵入を阻害した。
・in vivo:抗体反応を高めることによって感染を緩和する。
⇒ラムナン硫酸の作用機序は、現在承認されているオセルタミビルなどの薬物とは異なると考えられる。
⇒長期使用してもラムナン硫酸の耐性ウイルスは、出現可能性が低いと考えられる。
⇒ラムナン硫酸は、インフルエンザウイルス感染や他のエンベロープウイルスと戦えるツールになると考えられる。

*ウイルスの吸着/侵入を阻害
・硫酸化多糖分子とウイルス糖タンパク質の間のイオン相互作用が、ウイルス阻害の主なメカニズムと推測された。
・インフルエンザウイルスに対するラムナン硫酸の分子レベルのターゲットは、ヘマグルチニン(HA)と推測された。
※HAは、ウイルスのエンベロープ上にある糖タンパク質であり、宿主細胞への結合に使用される。

*ウイルス特異的抗体反応を高める
・ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス特異的抗体の産生を促進する。
・経口投与されたRSが腸管免疫反応に刺激作用を及ぼす。
※オセルタミビルは体内でのウイルス増殖を抑制しますが、ウイルス特異的抗体の産生を抑制した。

4.材料と方法
 説明は省略させていただきます。

5.結論
・ラムナン硫酸がウイルスの吸着・侵入を阻害し、感染に対する抗体反応を高めることで感染を和らげることを報告する。
・感染性細胞でウイルス増殖を抑制するオセルタミビルとは作用機序が異なる。
・長期間使用してもラムナン硫酸の耐性ウイルスは、ほとんど出現しないと考えられる。
・さまざまな種類のエンベロープウイルスに対するラムナン硫酸の研究を続ける。


結論にあったように、今後もラムナン硫酸の研究は続くようです。
今後も、発表された論文を見つけたら、掲載いたしたいと考えております。



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