祖師ヶ谷大蔵  そしがや だいぞう

1992年に新卒でMR。ゴルフ、麻雀、接待が仕事の時代。2002年に突然全てを辞めて渡…

祖師ヶ谷大蔵  そしがや だいぞう

1992年に新卒でMR。ゴルフ、麻雀、接待が仕事の時代。2002年に突然全てを辞めて渡米。NYで大学に通いながら、ヤフオクでビジネスを始める。NYの大学で出会った日本人彼女と結婚。帰国後製薬会社の本社に復帰。2007年から全く別の仕事を今も続けている。

最近の記事

新人 1-6 充血した土曜

「おたくの所長さんのせいで、人生狂ったよ。。。。」 アストラス製薬の須田はそう言うと、黒みがかった顔が夕陽で紫っぽく照らされた。新人は、「知らんは・・・」と、思いながらも、自分の将来の姿のダメパターンと認識した。 金曜日の夕方にしか訪問が許されていない、世田谷の外れの大学の分院。MRも疎らの中、須田は新人に突然話しかけたのだった。明日はアストラス製薬として須田も担当している善福寺川国際病院の麻雀大会である。 「俺の明日を返せよ!」 薄暗い病院の廊下を去りながら、ヨレヨ

    • 新人 1-5 蒲田某所で遭遇

      「あ!!」 二人はお互いの目を見あった。女は客である新人君の手を引き、少しだけ慌てて、しかしながら平静を装い部屋まで誘導した。 二人は視線をそらして、別々の一定方向を見つめながら、次に何を言えば良いのか考えていた。 「ぬいてくよね?」 女が小声で言った。 「ああ。いやっ。うん。え?」 新人君は返事にならない返事をしたが、要約するとYesである。 女は、新人君の大学の1学年上で、同じ学部、同じ専攻、同じサークルだった。そして外資のバイオ系製薬企業に新卒で入社してMRをし

      • 新人 1-4 競馬と麻雀の前日

        「バカヤロー、気をつけろよお前!! な!」 所長の罵声が、罵声といってもいつもの、温かみのある罵声が、先輩に飛んだ。 仕事に影響するまで飲み過ぎるなということのようだった。 「すみません。」 先輩も所長は怖いらしい。だた、先輩が謝るか謝らないかのうちに、所長は広げていた競馬新聞に目を戻していて、もうどうでも良いという雰囲気だった。 「忙しいなー。院長と薬剤部長と、婦長と外科の部長と整形の部長と、あ、あと理事長の分もあっからよー。」 所長はそう言いながら、札束をデスクの

        • 新人 1-3 冷たいアスファルト

          「どすっ!」 千歳烏山の裏通りの場末のスナックで安酒をダラダラ飲みながら、閉店後も粘って午前3時頃にようやく店を出ると、突然、鈍い音とともに強烈な膝がりを食らった。 ・・・ううっ 動けなくなり横たわると、頬から裏通りの汚れたアスファルトが丑三つ時をすぎた街の風で冷たくなっているのを感じた。 ・・・ふふふ。ここでのたれ死ぬのも悪くないな。 薄い、漠然とした、魍魎とした、この世から去りたいという、忘れられていた願望が先輩の中で呼び起こされた。抵抗すらしなかった。 され

          新人 1-2 北池袋に進路を取る

          先輩が出て行くと、所属するMRは全員出払っていて、所長と新人だけが取り残された。所長は相変わらず誰か、外国人と思しき人と電話で盛り上がっていた。 靴を履いたままの足をデスクの上に投げ出し、禁煙オフィスではあるが、タバコをふかしながら一頻り話が終わって電話を切るや否や、新人に話しかけてきた。 「おい、新人君、わりーけど乗っけてくれねーか?」 聞き治すと、北池袋まで営業車で乗せて行って欲しいと言うことだった。定時にはまだ1時間半ほど早いが、営業所には何も監視カメラがあるわけ

          新人 1-2 北池袋に進路を取る

          新人 1-1 幸せの黄色いチェーン

          「あ、ちょっと、得意先のファイルは俺のデスクの下にあるから、勝手に見て。」 タバコを吸いに外に出て行った先輩にそう言われると、新人君は言われるがままに先輩のデスク下のキャビネットを引き出した。研修が終わり、配属になったのは東京支店。明日から先輩と世田谷区のGP(開業医と中小病院)をOJTとして同行するのだ。 キャビネットの引き出しを開けるると、ファイルは、いくつも重なる黄色いチェーンに埋もれる形で見つかった。 「・・・これは!」 息を飲む新人君が目にしたのは、駐車禁止

          新人 1-1 幸せの黄色いチェーン