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新人 1-3 冷たいアスファルト

「どすっ!」

千歳烏山の裏通りの場末のスナックで安酒をダラダラ飲みながら、閉店後も粘って午前3時頃にようやく店を出ると、突然、鈍い音とともに強烈な膝がりを食らった。

・・・ううっ

動けなくなり横たわると、頬から裏通りの汚れたアスファルトが丑三つ時をすぎた街の風で冷たくなっているのを感じた。

・・・ふふふ。ここでのたれ死ぬのも悪くないな。

薄い、漠然とした、魍魎とした、この世から去りたいという、忘れられていた願望が先輩の中で呼び起こされた。抵抗すらしなかった。

されるがままの先輩を見て、ヤンキーが一瞬怯んだ。

「おい。このおっさん、笑ってるぞ。まじキモい。」

「終わり終わり。これだけ。」

言葉は上からだが、相当ビビっているヤンキーたちは不気味さを払いのけるようにその場を去った。あり金、クレジットカード全てをカツアゲした。


乾いた足音だけが地面から響いて、だんだん遠のいて行くのを感じた。


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「・・・おい、ちょっと助けてくれよ。」

あり得ない時間に、着信音で起こされた新人君は、電話越しの虫の息の先輩の絞り出すようなカスレ声をきき、慌てて現場に向かった。

千歳烏山の裏通りには、真っ暗で、静まり返っている。常夜灯の青白い光に群がる小さな虫が飛んでいる状況だけが、生命感を伝えるものだった。

横たわる先輩以外、何も存在しなかった。

「せ、先輩・・・」

新人君の到着に気づいて先輩は徐に半身を寝返った。ヒビの入ったメガネのレンズと顔面からの出血を見て新人君は息を飲む。

「先輩、どうしたんですか!?」

「おう。新人君、わりーな。てか、この道路、冷たくてきもちいぞ。お前も試してみろ。」

「ま、まじっすか」

そういうと、新人君は先輩の横に横たわった。アスファルトからは地表を吹く埃まみれの夜風と、かすかにオイルの匂い、どこからか捨てられて母猫を探す子猫の唸る声が聞こえた。

二人の男は、妙に冷たい空気中に横たわり、それとは裏腹に、得体の知れない生暖かな不安と、うっすらと、しかしながらツヤの消された赤みがかった空を共有した。


「冷たいっすね。」


「だろ?」


【この物語はフィクションで、想像の世界です。】


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