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新人 1-5 蒲田某所で遭遇

「あ!!」
二人はお互いの目を見あった。女は客である新人君の手を引き、少しだけ慌てて、しかしながら平静を装い部屋まで誘導した。

二人は視線をそらして、別々の一定方向を見つめながら、次に何を言えば良いのか考えていた。

「ぬいてくよね?」
女が小声で言った。

「ああ。いやっ。うん。え?」
新人君は返事にならない返事をしたが、要約するとYesである。

女は、新人君の大学の1学年上で、同じ学部、同じ専攻、同じサークルだった。そして外資のバイオ系製薬企業に新卒で入社してMRをしているはずである。卒業以来、連絡はなかった。

特に恋愛関係などになったこともないが、かつて毎日のように会っていた二人。

それは薄くて青白いツルツルした蛇のような色だった。若い女の胸が、カビ臭い暗闇に露わにり、一際光を放っていた。

新人君は、欲望のまま、女にされるがままになった。

「なんで?」
迷いながらも、新人君が独り言のように呟いた。

「まあね。」
一呼吸置いた後、女はそう答えて、ローションの入ったボトルを手にした。

「会社は?」
新人君が聞くと、
「行ってるよ」
と、女は答えた。

「この時間は?」

「まあね。」
女は、さらにきわどい部分へのサービスに入り、会話は途切れた。


女は、学生時代からこの店でバイトをしていた。就職が決まり、外資のバイオ系の製薬会社にMRとして入社した。給料は高く、若くして十分すぎるほど得ている。

が、女の会社は、MRの営業所はない。そもそも女の所属する部門はオーファンドラッグ1製剤で、日本全国にMRが30人も居ないらしい。毎日毎日、此れと言って会社で何かあるわけでもなく、神奈川県全域と静岡県の一部を一人で担当している。誰にも会うわけでのもないので、こうして、学生時代から内緒でバイトしていた蒲田の店に、たまに出ているらしいのだ。


新人君のドメスティックな国内上場企業の雰囲気とは、同じ業界と言えど、大きく違う。


「どうだった?」
女は上目遣いに新人君に問う。

「ていうか、俺ら二人とも勤務中だよね。何してんだろう?」
二人は微妙に笑いとも、失望とも言えない、何か大き見えない存在に支配されていた。

「わからないの。まあ、そろそろやめるわ。」

「これ? それとも会社?」

「これに決まってるでしょ。」

タバコを一本、箱から取り出して火をつけ、くわえながら、女は遠い目をした。遠くには何があるのか。二人にはわからない。共有しているのは、生暖かくてカビ臭い、場末の空間のみだった。

「よかった?」
細いタバコの煙を細く吐き出しながら女は新人君の目を見た。タバコの匂いがカビ臭さを一瞬消した。天井付近で出口を探しながら右左に彷徨う煙だけが、この部屋の生命感を醸し出していた。

「うん。」
新人君は何かを返事に込めようとしたが、なす術がなかったので、割とはっきり答えた。女の表情は、その新人君の態度に込めたメッセージを感じ取ったようにも見えた。




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