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新人 1-1  幸せの黄色いチェーン

「あ、ちょっと、得意先のファイルは俺のデスクの下にあるから、勝手に見て。」

タバコを吸いに外に出て行った先輩にそう言われると、新人君は言われるがままに先輩のデスク下のキャビネットを引き出した。研修が終わり、配属になったのは東京支店。明日から先輩と世田谷区のGP(開業医と中小病院)をOJTとして同行するのだ。

キャビネットの引き出しを開けるると、ファイルは、いくつも重なる黄色いチェーンに埋もれる形で見つかった。

「・・・これは!」

息を飲む新人君が目にしたのは、駐車禁止の時にお巡りさんがサイドミラーなどに掛けて施錠する、あの黄色いチェーンである。

それをかけられたら、もう、警察しか外すことのできない、あれである。

あのチェーンが、切断された形で先輩のオフィスのデスク下のキャビネットの中にいくつも重なっていた。

「あ、あの、チェーン、まじっすか? なんかすごいっすね。」

タバコから帰ってきた先輩に、少しむせりながら新人君が言った。その時、先輩は一瞬鬼の形相で新人君を無言で力強く睨みつけたのだが、新人君は気づいていないようだった。

秒速で表情を和らげながら、

「え、そうそう。すごいだろ。素人には切れないんだよ。友達が町工場やっててさ、そこで切断してくれるんだよ。すごいだろ?」

と先輩は笑みを浮かべながら自慢げに言った。

「いや、そっちじゃなくて。。」

新人君が絶句していると、先ほどから資料の数字とにらめっこをしていた営業所長が先輩に凄み始めた。

「おい、鈴木医院に5万錠詰めてこいよ、な、今日!」

「あ、はい!!」

「じゃ、新人君、明日な。」

所長に返事をしながら、慌ててオフィスから出て行く先輩を、見届けた後、新人君は所長をチラ見した。

新人君い一瞥をくれることすらしなければ、もちろん声をかけることをせずに、所長はどこかに電話をし始めた。

「はいは、シャッチョさんですよ。飯食ってから行くよ〜。」

・・・もしかして、ブラックに入っちゃった?

新人君はデスクで固まるばかりだった。

つづく


【注意】この物語はすべてフィクションで全く想像の世界です。


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1992年に新卒でMR。ゴルフ、麻雀、接待が仕事の時代。2002年に突然全てを辞めて渡米。NYで大学に通いながら、ヤフオクでビジネスを始める。NYの大学で出会った日本人彼女と結婚。帰国後製薬会社の本社に復帰。2007年から全く別の仕事を今も続けている。
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