見出し画像

教育界でもパラダイムシフトーオンライン教育の現状

写真出典:日本経済新聞

教育は国の未来である

筆者が子供の教育(以下、子女教育) について語りますとそれは投資と関係あるのですか?と良く尋ねられます。子女教育は広義の投資であり、マクロでは一国の未来、ミクロでは一族の未来は子供の教育に委ねられると言っても過言ではありません。

withコロナ時代の教育

2020年は教育界にとって、パラダイムシフトの年になることは間違いないです。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)によりますと、新型コロナウイルスの影響で、世界188カ国15.7億人の学生が学校に通えていない状況でした。そして英国や米国の大学入試に必須のIGCSE,ケンブリッジOレベル、Aレベル、国際バカロレア、SAT、ACTは全てキャンセルになる事態にまで深刻化しています。

世界中で施された学校閉鎖は生徒や教職員や家族にのみならず、経済や社会問題にまで発展してしまっています。学生ローン問題、デジタルラーニング問題、食料問題やホームレス問題、チャイルドケア、ヘルスケア、住宅、インターネットなどなど負のインパクトは計り知れません。そして、新型コロナウイルス問題は世界に於ける教育格差を助長する問題にまで進展しています。特に顕著な問題はオンライン教育です。

海外の現状

これに関して、海外の状況を把握した上で、日本の現状を見ましょう。

1. 教育 ICT(情報通信技術)先進国と看做されているフィンランドやデンマークの教育動向に関して、遠隔授業のスタイルとしては、主に以下の3つがあります。

(1) リアルタイムの授業。先生が授業そのものをLIVE配信して進めていくもので、一方方向型の形式で、Microsoft TeamsやGoogle Meet、Google Classroomなどを使用して行います。

(2) 課題提供。課題の出題、提出のやり取りにWilma、Microsoft Teams、Google Classroomなど、オンラインのプラットフォームを活用してます。一日の初めに科目の授業時間になると課題の指示が届き、その課題を終了したら写真や動画で送るもしくは文章で説明するなどの手段でその様子を報告します。授業時間中には担当科目の先生にコメントを送って質問をすることもできますし、授業時間でなくとも、昼休みや授業後に質問を対応している場合もあります。

(3) コミュニケーション。教師が授業を一方方向的に進行するのではなく、子どもと教師の関係・友だち同士の関係を大事にするためにLIVEで双方のコミュニケーションをとる時間を作っている形式で10-15名で行います。

(1)から(3)を通して、オンラインでの授業を教師と保護者が協力し合いながらオンライン教育の手法を改善させています。実行しながら問題点があれば、保護者は学校にフィードバックし、学校はそのフィードバックを受け、できる範囲で改善を重ねていく流れです。フィンランドやデンマークは、元々のICT活用が進んでいたという理由から、授業のオンライン化が成功していると思われがちですが、このような小さな努力の積み重ねが成功へと実を結んでいるのだと思われます。

2. 感染者数や死者数が世界のトップになっている米国に関して、米国ではロックダウンになっている都市があり、全米の殆どの学校は休校を経験しました。そこでオンライン授業が提供され、「Zoom」、「Seesaw」、「Google Classroom」などのアプリが利用されています。インフラ不足の家庭にはクロームブックやルーターが無料で提供され、兎にも角にも子供たちへの教育をなるべく絶やさないようにオンライン化が進められ、教育格差が起きないように対策が施されています。

3. 教育先進国スイスでは、学校からiPadが無料で支給されており、米マイクロソフトのビデオ通話アプリ「Rooms」を使って授業が行われています。しかも、通常通りの時間割で対面授業と遜色ない授業が行われています。所謂、対面学校からオンライン学校に変化し、授業内容は変わらないものの、場所とコミュニケーションの方法が変わっただけの形式です。課題などは電子メールで随時送られ、ビデオ通話アプリも今は無料で使えるものが多いですからそれらを有効活用しています。

4. 新型コロナ感染源でありながら最も早く終息宣言をした中国では、JETROの資料によりますと、現時点でオンライン教育が2019年6月時点と比べて81.9%も増え、利用者数は4億2296万人、利用率は46.8%です。2018年12月時点での利用率は24.3%でしたから、2.1倍になったことになります。

5. アジアナンバー1の教育先進国であるシンガポールでは、教育省が主導して4月1日からオンライン教育を開始しました。小学生の場合、既に20万人が自宅から授業を受けています。学年によって違ったスケジュールで、教育省が作ったプログラムをこなし、課題もネットで送られてきます。オンラインでは困難な体育の授業もYouTubeを見ながら行っています。それでも時間的には小学生は毎日4時間、中学生は5時間、高校生は6時間の授業と通常と比べると多少見劣りするのは否めません。PCを持っていないなど、特別な事情がある家庭の生徒は、学校でオンライン授業を受けています。

6. 筆者が居住しているタイ・パタヤにあるラグビースクール・タイランドでは教育範囲は学問+生活態度で、教員と生徒・保護者の間で相談しやすい環境(メール・チャット・オンライン面談が充実)で行われてます。密な情報交換が可能で、保護者も子供の教育の進捗度を直接確認できる仕組みになっています。1担任で15-20人程度の生徒を担当し、教育や学校全般のことに対してどんな相談も可能です。リアルタイムオンライン授業で、学校独自の教材・コンテンツが充実(オンライン)しており、過去に出された教材、提出した課題、学習進捗度も確認できます。オンライン上で生徒同士の交友が可能(チャットグループなども作成できる)です。全体的にラグビースクールのリモート授業はトライアルというより実用レベルに達している印象で、リモートでの利点・欠点を認識した授業内容とコンテンツの充実度は高く保護者の満足度も高いです。その背景はリモートでも対応できる教師陣のレベルの高さと言えます。

日本の現状

これに対し日本ですが、経済協力開発機構(OECD)が2018年に79カ国・地域約60万人の15歳(日本の高校1年生)の生徒を対象に行ったデジタル機器利用率の調査によりますと、                                                           

1. 日本の学生の学校でのデジタル機器の利用頻度はOECD加盟国中、最下位となっており、 2. 「デジタル機器を利用しない」と答えた生徒の割合は約83%に及び、OECD加盟国中で最も多く、 3. 先生がICTの知識を必要としているかはOECD平均18%に対し日本は最上位で39%、 4. 生徒が学校にオンラインのプラットフォームが充分完備しているかに関しては、OECD平均65%に対し日本は最下位で19%、 5. 学校長がデジタル機器を使った授業の準備がしっかりできているかに関しては、OECD平均61%に対し日本は最下位で12%、 6. 先生と親との協働体制の必要性はOECD平均9%に対し日本は最上位で32%

なのです。残念ながら、日本はオンライン教育の劣等国なのです。

コロナ渦にでもオンライン学習が進まない訳

日本の学校で、新型コロナ渦にオンライン学習が進まなかった背景には、以下の理由があります。

1. そもそも学校におけるICTの活用が進んでいなかった事。日本の学校にはパソコンが配備されていますが、ほとんどの学校で、生徒が日常の授業で使う状況にはありません。生徒たちは学校外でゲームなどの娯楽のためにスマートフォンやタブレットなどの端末を使うことが多いものの、パソコンで文書を作成する経験は乏しく、教員も生徒もICTの活用に慣れていません。                    

2. 公立学校の横並び意識。私立や国立の学校では独自の判断で内容はどうあれ積極的にオンライン授業に取り組んだ学校はあります。ところが、公立学校においては教育委員会からの指示があれば対応するという姿勢で、地域内の学校で平等にオンライン授業を実施するのは困難だという日本特有の護送船団方式或いは横並び意識が尊重されているのです。

3. 日本の学校文化における対面至上主義。日本の学校では、インターネットが普及したとしても、パソコン画面を介したコミュニケーションには問題があると捉えられがちで、対面での授業が理想だという考え方が今だに根強く、オンライン授業は学校文化に受け入れられにくい風潮があるのです。

日本の偏差値70以上の超一流大学付属中学校ですら実態は以下の通りです。3月から完全に休校で、Google classroomに課題が掲載されました。英語のネイティブの先生のオンライン授業が始まったのが4月第1週。他はオンライン授業が5月から始まりましたが、各科目週に1回で、時間割はなくGoogle classroomに予定が掲載されるのを都度チェックしなければいけません。担任からは録画の動画が時々配信され、ライブの授業はまだ行われていないのが現状です。

海外に根付く子供が社会を支えていくという強い意識

新型コロナウイルス流行による教育格差の危機に直面している今、日本がオンライン教育途上国から抜け出し、オンライン教育を定着させ、オンライン教育で日本の生徒を救うことができるように早急に着手すべきです。

既述しました各国の状況と、日本との感覚の違いは明瞭です。海外の国々では、社会を支えていくのは子女たちであるという意識がはっきりとしていて、まさに子女教育が未来の国を支える「肥やし」となると認識しています。景気刺激策の一環として財政出動が講じられていますが、そうした対策の一部として、子女教育を重視する意識の高さが窺えます。要するに、危機だからと言って、子女教育に皺寄せが行かないようにし、平等に教育を施すという意識が、国家や社会の優先順位として高いのです。この危機において、教師は、彼らの授業を単にテクノロジーを利用した他の媒体で再現するのではなく、授業内容や方法面で全く新しいメソッドを取り入れていかなければないと理解し、子女たちの知識を情報化社会の中でどのように高め、情報分析力を身に付けさせるかを熟慮しているのです。

オンライン教育が格差を拡げる!?

これまで、教育界ではオンライン教育は格差を縮めるツールと扱われてきましたが、皮肉なことにこの非常事態にオンライン教育がむしろ格差を広げてしまう原因になるのではないかと危惧されています。タブレット端末、パソコンやWIFI環境などオンライン教育の前提となるインフラが生徒全員に整っているのは前提ですが、実際にはどこの自治体でも約2割の生徒はそうしたインフラを享受できないのが現実です。更に喩えインフラがあってもそれを有効的に駆使できる教師が居るか否かが死活問題で、現状のままでは教育格差が大きく広がっていくリスクは膨らみ続けてしまうでしょう。

それ故に、日本政府は早急に手立てを打つべきで、それを怠ると日本の未来は暗黒化してしまうことになるのです。それにはまずは意識改革が必要です。日本を訪れる多くの外国人のとって最大のガッカリは、「日本はハイテク国家だと思ったのに、Wifiは(やや誇張ですが)スターバックスコーヒーくらいしかない!」という事です。つまり一部の日本人の意識がいまだにインターネット社会に移行しておらず、昭和時代のようなアナログの時代にとどまっているに過ぎないということなのです。

日本は経済力が世界第3位を誇る国なのですから、その気になればオンライン教育のインフラだって整備できる筈です。また教師にノウハウがないと言っても、そもそもオンライン教育は、ロケットを作るような理工系の人材でなければ対応できないような高度な技術が要求される程でもありません。

結局は政府と教育界が事の重大性と危機感を共有した上で、意識改革をする事です。そしてオンライン教育というパラダイムシフトに対処していくことが最も重要なのです。

親が教育に責任を持つ時代

先日、教育現場の事情を熟知されている方から日本の教育現場事情をお聴きしました。今は、国としては資金は出さないが現場で工夫して頑張ってくれ!という感じだそうです。それはあたかも第二次世界大戦で日本が敗戦する直前に、武器も食料も戦地に送らず、兵士達に最善を尽くせと大本営からの指示が出ていたことを彷彿させます。戦後75年もの時間が経過し環境が大幅に変化しても、国の運営者は昔のままなのです。

既述しました教育格差は国内だけでなく、国際的標準からみても今後拡大する傾向に拍車が掛かるのではないかと危惧しています。筆者は決してグローバリストではありませんが、世界がグローバルの発想で動いている限り、日本人もその中で戦い、勝たなければならないのです。そして勝つための教育の場は国内だけでなく海外もあるのです。この話題になりますと、「日本人としてのアイデンティティが欠如する」だとか「変な日本人が出来上がる」などなど、賛否両論の意見が出ます。結局、子女教育の責任を持った親が自分の子供の教育に関してどのような選択肢が存在するのかをしっかりと知る必要があるのです。そして数々の選択肢の中から、一つの方針を決定することが大事なのです。未だに、「お受験」だ「中学受験」だと血眼になっている親達を見ていますと、それが考えられる選択肢の中から自主的に選択したものなのか、はたまた周辺がそうしているからそうしなければいけないという強迫観念に駆られて行動しているのか想像付かないです。

筆者は日本の教育のみならず、多くの海外子女教育の現場を見てきた経験から、既述のオンライン教育格差は日本教育の縮図だと言い切れます。ですから、子女を世界で通用するような人財に育て上げようとする目標を全うするのでしたら、確率論的観点から鑑み、もう日本では無理だと判断しています。是非、親達には子女教育と言う名の投資を徹底的に勉強して頂きたいです。ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授は、5歳未満の児童に対して高度な総合教育を実施すれば、投資額に対して年利13%のリターンが得られるという研究結果を発表しています。まさに、教育は広義の投資なのです。


立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

・投資と世界を学ぶYouTube
http://www.youtube.com/c/TatsuzawaKenichi

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?