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共創の鍵となる思考法、インテグレーティブ・シンキング(統合思考)

大企業の新規事業開発を支援する、NEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは“共創プロセス”で新規事業を伴走支援させていただく中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。


今回のテーマは、価値を共創する際に必要な思考法、“インテグレーティブ・シンキング(統合思考)”です。

近年「〇〇思考」を冠した書籍がたくさん出ていますが、あまり日本では統合思考という言葉は知られていないように思います。
今回は馴染みの薄い、しかし新規事業開発において重要な“統合思考”をテーマにお話をしていきます。

Collective Genius(集合天才)とBTCチーム

これまでのnoteでは、“Collective Genius(集合天才)”を生み出すチームづくりの重要性にはじまり、B(ビジネス)・T(テクノロジー)・ C(カスタマーエクスペリエンス)それぞれ3領域の専門性を持ったメンバーで構成される「BTCチーム」を紹介させていただきました。

さらにBTC各領域のメンバーは自分の専門領域に閉じることなく、メンバー全員で議論をしながら仮説検証を繰り返すことができるようにするための「場のデザイン」の重要性についてお話してきました。

ダイバーシティが引き起こす問題

異分野の才能豊かなタレントが集まったまではよかったが、いざ議論し始めてみると、大きな問題が生まれます。

多様な視点から意見やアイデアがたくさん出て、収集がつかない。いわゆるカオス(混沌)状態になってしまう。容易に想像できますね。
最悪の場合、チームがバラバラになってしまいます。
もしあなたがチームリーダーだったら今まさに悩んでいるかもしれませんね…

しかし、新規事業開発のプロセスにおいては、カオス状態を受け入れ、コントロールすることが必要不可欠です。
カオス状態を避け、予定調和的な議論や進め方をしてしまうとどうなるか。様々な観点からユニークなアイデアがたくさん生まれることはないでしょう。

カオスを受け入れるマインドセットの重要性

アメリカ西海岸のパロアルトに本拠地を置く、デザインコンサルティング会社のIDEO(アイデオ)は、デザイナー、エンジニアはもとより、文化人類学、演劇の舞台制作やMBAホルダーなど様々なバックグラウンドを持った人材がチームを組んで、イノベーション創造に取り組んでいます。「デザイン思考」を広めた会社としても有名です。

そのIDEOも、多様な専門人材が一緒になって新たな価値を生み出す4つの要素として、オープンマインドチームを導くリーダーチームワークと並んで、「カオスから価値を生み出す信念」の重要性を説いています。

“IDEO: Shopping Cart Design Process”の動画を元に筆者が作成

既存事業の運営では、わざわざカオスを生み出すようなことはしないでしょう。ある程度うまくいっている事業運営の効率性が落ちてしまうリスクがあります。
一方、新規事業創造の現場では、異なる専門性を持った人材がアイデアをぶつけあい、異なる価値を組み合わせ統合しながら、新しい価値を創造しなければなりません。
その営みの中でカオスは避けられません。カオスの中で、それぞれの考えの良い部分を組み合わせ統合しながら、新しい価値を生み出していくことが求められます。

ダブル・ダイヤモンド

そのような共創の営みは、「発散」と「収束(統合)」の繰り返しのプロセスです。このプロセスを可視化した有名なフレームワークが「ダブル・ダイヤモンド」です。

ダブルダイヤモンドの概念図

ダブル・ダイヤモンドは、左側の「課題(プロブレム)」を定義するステップと、右側の「解決策(ソリューション)」を生み出すステップの2ステップで構成されています。
どちらのステップにも「発散」が含まれていて、いきなり課題の特定や解決策の創出をしないことが特徴です。

複数の異なる専門家で構成されたチームが、それぞれの視点で課題を探索した上で、議論を通して本当にチームで取り組むべき課題を絞り込み定義します。また解決策についても、アイデアをたくさん生み出した上で、議論を通して筋のよいアイデアを組み合わせながら解決策としてまとめ上げます

この共創プロセスは、単純に「みんなで考える」のとは違います。

専門性を持った一人一人が、多様な観点から課題を探索し、真に向き合うべき課題を絞り込みます。
そして、課題を解決するアイデアをたくさん考えた上で、優れたアイデアをメンバーと議論しながら、ソリューションへと統合していきます。
個人の視点から出発し、チームで探索・統合していくプロセスこそ、共創プロセスの本質です。

このプロセスのベースになっている思考法が「インテグレーティブ・シンキング(統合思考)」です。

統合思考は共創プロセスの軸となる考え方で、トロント大学のロジャー・マーティン教授は統合思考をこのように定義しています。

“相反する二つの考えを同時に保持し、対比させ、二者択一を避けて、両者の良さを取り入れつつ両者を上回る新しい解決に導くプロセス”

「インテグレーティブ・シンキング: 優れた意思決定の秘密」より引用

このようなプロセスを通して、ユニークな価値を生み出すことができるのです。

変化が大きく不確実性が高い市場に対して、ビジネス・テクノロジー・カスタマーエクスペリエンスの要素を融合させて価値を生み出すためには、チームの力で一人の天才を超える“Collective Genius”が求められます。

そのために必要なのが、BTCそれぞれのスペシャリストでチームをつくり、発散と収束による“統合思考”の実践です。

終わりに

今回事例に挙げたデザイン思考に対する批判や捉え方は様々です。が、新規事業開発においてはデザイン思考はその全体プロセスの一部でしかないので、デザイン思考単体で、良し悪しの判断はできないと考えています。(そのあたりについてはまた今度お話しようと思います)

今回お伝えしたかったことは、“チームで新しい価値を生み出すための本質的に重要なファクターはなんだろうか、ということです。それはいわゆる“プロセス”や“フレームワーク”的なものではなく、思考と信念(マインドセット)です。
目を向けるべきは、デザイン思考の背後にある、人と人とが共創活動しながら新たな価値を生み出すために必要不可欠な思考と信念です。
それをチームで共有し醸成しながら実践を繰り返していくことが、新規事業開発成功の確率を高める鍵であると私たちは考えています。

今回のお話はこれでおしまいです。いかがでしたでしょうか?
ここまで読んでいただきありがとうございました!ではまた!

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