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新規事業開発に必要な「コレクティブ・ジーニアス(集合天才)」という考え方

大企業の新規事業開発を支援するNEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは新規事業をクライアントと共に“共創プロセス”で伴走支援する中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。


Collective Genius (集合天才)とは?

「Collective Genius(集合天才)」という言葉を聞いたことがありますか?
今回は、新規事業開発をする上で重要なこの言葉をテーマにお話をしていこうと思います。

この言葉は、イノベーションを継続的に生み出す組織のあり方として近年注目されています。一人の天才に頼らず、チームメンバーの才能を集めて取り組み、良い結果を生み出すという考え方です。

Googleなど新しい事業やサービスを継続的に生み出し続けている組織には「Collective Genius」の文化が浸透していると、ハーバード・ビジネススクールのリンダ・ヒル教授は指摘しています。

イノベーションを生み出す一人の天才を育てることはとても難しいですよね。だけど、イノベーションを生み出すコミュニティを構築することは天才を育てるよりも実現性が高い。チームの力で一人の天才を超えよう、という考え方が「Collective Genius(集合天才)」です。
日本には「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますので、我々日本人にとって感覚的に受け入れやすい考え方だと思います。

アニメーション制作会社 Pixar

米国のアニメーション制作会社ピクサーは「Collective Genius」を体現している会社で有名です。1995年のトイ・ストーリー以降、毎年のようにヒット作を生み出し続けています。初期はアニメーションの天才であるジョン・ラセターの監督作品が中心でしたが、2000年以降は複数の監督がヒット作を生み出し続けています。

おそらく誰もが、自分の名前を冠したディズニーの創業者であるウォルト・ディスニーという天才を知っていると思います。一方、ピクサー創業時の社長、エド・キャットムルの名前を知っている人は多くはないでしょう。

彼は自分を含めたピクサーの3人の創業者、スティーブ・ジョブズ、ジョン・ラセターがいなくなってもずっと生き続けるクリエイティブな組織文化づくりに心血を注いできました。そしてそれを今、まさに実現しています。

その思想を象徴するのが以下の言葉です。

“アイデアをきちんとかたちにするには、第一にいいチームを用意する必要がある、優秀な人材が必要だと言うのは簡単だし、実際に必要なのだが、本当に重要なのはそうした人同士の相互作用だ。どんなに頭のいい人たちでも相性が悪ければ無能なチームになる。したがって、チームを構成する個人の才能ではなく、チームとしてのパフォーマンスに注目したほうがいい”

『ピクサー流創造する力』より

この言葉の中に出てくる重要なキーワードが“チーム”です。
彼はアイデアよりも、個人の才能よりも、人同士の化学反応、すなわちチームとしてのパフォーマンスに注目しています。そして、創造的なチームをつくることで、継続的なヒット作を生み出し続けているのです。

スティーブ・ジョブズは天才ではない 

もう一人、“チーム”の重要性を大事にしてイノベーションを生み出した人物を紹介します。

それはApple創業者のスティーブ・ジョブズです。
iMacやiPhoneは、スティーブ・ジョブズひとりの天才の力で生み出されたのではないかと思っている方もいるかもしれません。しかし彼は、情熱を持って働くチームがなければ優れた製品は生み出せない、と1995年のインタビューで語っています。

“ズバ抜けた才能を持つ者が集まって、ぶつかりあい、議論を戦わせ、喧嘩して怒鳴り散らす。そうやってお互いを磨き合い、アイデアをも磨き上げて美しい石を作り出す。これは本当に説明するのが難しい…一人の力ではない。私はシンボルにされているが、macの開発はチームの努力の結果だ。” 

「Collective Genius(集合天才)」という難しい言葉を使いましたが、シンプルに捉えると「チーム力」と言い換えてもよいと思います。 こっちの方が断然わかりやすいですね…
もしかしたら科学理論の発見などはたしかに個人の天才の力が重要かもしれません。しかし、ビジネスの世界における事業開発はチームの力が不可欠です。

「Collective Genius」の言葉を紹介させていただいた背景には、私たちが新規事業開発のご支援をさせていただく中で、「チームづくり」の視点が抜けたまま事業開発がスタートしてしまうケースが少なくないからです。

組織とチームの違い

 戦後、日本は製造業を中心に組織力によるものづくりで世界を席巻してきました。組織の力の重要性に共感する日本人は多いと思います。

ただ事業開発においては、組織とチームの違いを認識する必要があります。 
会社における組織は、安定した収益を上げている事業を効率的に運営するための事業部や部署など大きな単位です。いわゆる「組織化しなければならない」という場合、階層的な構造や制度づくりも含まれ、安定して事業を運営する集団をつくることを意味します。 

一方チームは組織と比べて人間同士の濃いコミュニケーションで成り立つ柔軟で動的な関係です。チームを定義すると「メンバー同士が相互作用しあえる範囲内の人間の集団」です。

事業運営においては、人数が10人以上になってくると、メンバーが相互作用しあいながら物事を進めていくことが難しくなるため、「組織化」することで、会社の規模を大きくしながら、効率的で安定した運営体制が形成されていきます。しかしその反面、集団の創造性は失われていきます。

不確実性が高く、トライ&エラーを繰り返しながらカタチにしていく新規事業開発において必要なのは、安定した組織ではなく、化学反応を生み出す「チーム」です。 

今の日本企業において、新規事業のチームづくりに携わった人はあまり多くないのが現状です。本来はまず、メンバー同士の活発な相互作用を生み出すチームづくりに注力すべきなのですが、大企業の組織のルールの枠組みの中でチームをつくってしまい、「Collective Genius」を生み出せていない、そんな状況が数多く見られます。 

それゆえに、新規事業開発をスタートしても、新規事業に携わるチームのあるべき姿を描けず、柔軟で創造的なチームがつくれていないことが、新規事業開発がうまくいかない大きな原因の一つになっているのではないか、と僕は考えています。 

最後に

今回は、「Collective Genius(集合天才)」という言葉をテーマに、チーム力の重要性についてお話をしてきました。
新規事業開発における「Collective Genius」を生み出す具体的なチームのあり方については、また別の機会にお話をしたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ではまた!

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