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新規事業開発の成功を高めるBTCチーム

大企業の新規事業開発を支援するNEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは新規事業をクライアントと共に“共創プロセス”で伴走支援する中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。

前回の投稿では、新規事業開発に必要なチーム力、「コレクティブ・ジーニアス(集合天才)」についてお話をさせていただきました。

今回は、事業開発を進める上で理想的な「チームのあり方」について少し具体的に踏み込んでお話をさせていただこうと思います。


複雑化するビジネスモデル

まず私たちが認識しないといけないのは、2000年以降、GAFAを中心としたデジタル・プラットフォームの台頭によりビジネスモデルが複雑になってきているということです。
「製品をつくって売る」シンプルなビジネスモデルに比べて、デジタル・プラットフォーム企業のビジネスモデルは複雑です。

特徴的な例は「顧客」が表面的にはわかりづらくなっている点です。
例えば、「Googleマップの顧客は誰か?」という問いに対しては、ちょっと考えないといけないですね。
アプリの利用者=顧客ではありません。タダで利用しているので。

主要顧客はGoogleマップを自社のアプリにAPIで組み込んでいる事業者だったりします。

利用者が収益源とはならない

成功しているデジタル・プラットフォーム企業の強みの一つに、サブスクリプションサービスに代表されるような、継続的な価値提供により収益を上げるストック型の収益モデルがあります。
製品開発&販売による売り切り型で収益を上げてきた多くの日本企業にとって、魅力的な収益モデルです。ストック型の収益モデルの最大の特徴は、顧客から継続的に収益を得ることができるので企業経営が安定することです。

いわゆる「モノ売りからの脱却」という合言葉で、デジタルを活用したストック型の収益モデルの構築に取り組もうとしている日本のものづくり企業は少なくありません
しかしながら、事業開発をご支援させていただく中で、あまりうまくいってないケースに度々遭遇することがあります。

なぜでしょうか?

サービス開発に適したチームとは?

デジタルを活用したストック型の収益モデルを実現している企業は、サービス利用者以外から収益を得る収益モデル、サービスを提供するインフラの高度な仕組み、ビッグデータを活用しユーザー1人1人に最適化した顧客体験の提供など…ビジネス、テクノロジー、カスタマー・エクスペリエンスが一体となってサービスを構築し価値を創ることで、他社との違い、すなわち競争優位性を生み出しています。

デジタルを活用した魅力的なサービスを創造するためには、ビジネス、テクノロジー、カスタマー・エクスペリエンス、それぞれの専門知識を持ったメンバーで構成されたチームでサービス開発を進める必要があります。しかし、このようなチームを構築できていない企業も多く、その結果、魅力的なサービスづくりができない状況が生まれています。

例えば、YouTubeに代表されるような動画配信プラットフォームは、広告による収益を生み出すためのビジネスモデル、パーソナライズされたレコメンデーションエンジン、そしてユーザーの快適な視聴体験を実現する直感的なユーザーインターフェースなど、ビジネス・テクノロジー・エクスペリエンスの要素が巧みに組み合わさって構成されています。

デジタルを活用したサービスは、ビジネス・テクノロジー・エクスペリエンスの3つの要素が不可欠です。

それゆえに、それぞれの専門スキルを持ったスペシャリストで構成されたチームをつくることができない企業は、デジタルを活用したストック型の収益モデルのサービスをつくり、継続的な収益を生み出し続けるのは難しいのです。

BTCチーム

3つの要素、ビジネス・テクノロジー・カスタマーエクスペリエンス、各領域のスペシャリストで構成されたチームを、それぞれの頭文字をとって「BTCチーム」と言います。
デジタルを活用したストック型の収益モデルのサービスを高速にアップデートし続けていくためには、BTCチームは不可欠です。

BTCチーム・トライアングル

 BTCチーム、それぞれの役割は以下の通りです。 

B:ビジネス…ビジネスゴールに責任を持ち、主に競争戦略と収益モデルを考え、社内調整をしながら事業を推進する。

T:テクノロジー…サービス提供価値を実現する技術に責任を持ち、設計開発を行い、安定的なサービス運用を実現する。

C:カスタマーエクスペリエンス…顧客体験に責任を持ち、サービス全体の体験設計を行い、顧客の目に触れ操作するタッチポイントをデザインする。

顧客価値創造というひとつのゴールに向かって、BTC領域それぞれのスペシャリストがスクラムを組みながら事業を創造するチームのあり方が「BTCチーム」です。

越境人材

ここで重要な考え方があります。
新規事業開発のBTCチームでは、B人材はビジネスのことだけ、T人材はテクノロジーのことだけ、C人材は顧客体験のことだけを考えていればよい、というわけではないということです。

サッカーチームに例えると、フォワードの選手は前線で相手にプレスを与えるディフェンスをしなければならいし、また、ディフェンダーは攻撃時にはサイドから前線に上がって、攻撃参加することもあります。

選手一人一人はチームの中でのコアとなる役割を持ちながら、状況によって、チーム全体の動きと連動し、自分の役割を越境してチームの勝利に貢献する、これが目指すべきチームのあり方です。

ものをつくって売る、このようなシンプルなビジネスモデルだと、企画→設計→開発→販促の各ステップでそれぞれの担当者が自分の役割をまっとうすればよいかもしれません。いわゆる分業制です。

しかし、不確実性が高く複雑な要素が絡む新規事業のサービスづくりにおいては、プロトタイプをつくり仮説検証をしながら、事業成功につながる打ち手をスピーディーに実施していくことが求められます。それはまさにサッカーゲームの中で、はじめて戦う相手に対してチーム全員が連動し、あの手この手で試行錯誤しながらゴールを狙いにいくようなものです。

そのようなチームをつくるためには「越境人材」が不可欠です。越境人材とは、ビジネスの専門家がテクノロジーや顧客体験に精通している、エンジニアでありながらビジネスや顧客体験に精通している、デザイナーでありながらビジネスやテクノロジーに精通している、そんな人材です。

しかし、今の日本にはビジネスの現場でこのような課題感を持ち「越境人材」を目指す人材が少なすぎます。 会計などの数字には強いが、技術やデザインについては興味がない。またデザイナーは自分のつくる制作物のクオリティにはこだわるけどもビジネスについては全く興味がない、というような人たちは少なくありません。

このような自分の専門性に閉じた人材を集めても、収益モデル、技術、魅力的なインターフェースが統合されたデジタルサービスを生み出すチームをつくることはできません。

しかし、興味のないことに興味を持たせ、越境人材を育成するのは簡単なことではありません。

場のデザイン

そこで重要になるのが、対話のための「場づくり」です。

越境人材を生み出すチームづくりは、BTCそれぞれのスペシャリストが一緒に議論しアイデアを出し合える「場づくり」が鍵を握ります。

企画初期段階のビジネス領域の話だからといって、エンジニアやデザイナーを議論に参加させず進めてしまう。このようなやり方でプロジェクトを進めてしまうと、エンジニアやデザイナーは自分の領域で仕事をこなせばよい、と既存事業の延長線上のスタンスで取り組み、永遠に越境人材になることはないでしょう。

対話の場づくりにおいて大事なことは「全員で議論する」という意識をメンバー全員が持つようにすることです。

例えば、サービスの提供価値について議論する場合、ビジネス領域のスペシャリストだけではなく、エンジニアやデザイナーと一緒に議論することで、様々な価値の切り口を見い出して深く議論することが可能になります。
エンジニアがいればレコメンデーションのあり方について、またデザイナーがいれば表示するコンテンツの見せ方について深く解像度を高めて議論することができるというように、価値の探索と深掘りができるのです。

このようにそれぞれのスペシャリストがお互いの領域を超えて議論し合うことで、チーム内で「知の交換」が活性化されます。メンバー同士の知の交換を通して、自分の専門領域以外について学ぶモチベーションが生まれます。

しかし、このような場づくりを重要視せずに、企画をビジネス中心のメンバーで進めて、設計フェーズでエンジニアが入り、ある程度仕様がまとまったらデザイナーにパスする。そのような縦割り分業体制的な進め方をしてしまうと、チームで専門領域を超えた議論をする場が生まれず、越境人材を生む土壌ができません

このような既存事業の延長線上のようなやり方で新規事業開発を進めている限り越境人材は育ちません。また、スピーディーにプロトタイプをつくって何百回と仮説検証サイクルを回すことができるチームもできません。

最後に

今の日本企業の新規事業開発プロジェクトでは少なからずこのような状況が起こっています。その結果、BTCそれぞれの専門性を最大限に発揮して企画の早い段階でプロトタイプをつくって、試行錯誤しながら仮説検証サイクルを回すことができていない新規事業開発プロジェクトは少なくありません

いわゆる机上の議論からなかなか抜け出せない状態です。

BTCチームをつくれないがために、“Collective Genius(集合天才)”が生まれない。さらに、不確実性が高い新規事業開発において、デジタルを活用したサービスづくりに必要不可欠な「つくりながら考える、考えながらつくる」ことができない状況が生まれてしまうのです。

少し長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ではまた!


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