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富士山へ挑戦

富士山へ登って2ヶ月が経つ
辛くて苦しくて絶望的な登山だったけど
その時の記憶は曖昧でフワッとしていて
本当に登ったのか実感があまりない

登山中の感情や風景や雰囲気など
断片的には強く印象に残ってますが
実感という感覚が薄く
なんだか幻のような体験だった

その時の記憶の感覚を頼りに
書き綴ろうと思います

✳︎

6月、ふと富士山へ登ろうと思い立ち
富士登山へ向け色々な準備や経験をしてきた

正直言って登山という行為は
「心から楽しい!」という感じには
あまりなれなかった

でも山を登ることでしか味わえない
なにか不思議な高揚感を得る瞬間もあり
自分なりに登山の魅力に触れられる事ができた

今回の富士登山は、ツアーで参加する事にした
今考えると、この選択がなかったら
絶対に山頂まで登れなかったと思う

それだけプロの指導や他者との協力
同じ目標への共有という行為には
莫大なエネルギーを生み出すと実感できた

体力的にも精神的にも
ボロボロでギリギリの状態だったけど
今回の経験は自分の人生にとって
大きな収穫になったと思える

✳︎

前日から近くのホテルを予約して
万全の状態で富士山へ挑んだ
お盆の高速道路の渋滞も避けられ
この選択は大正解でした
(前泊って贅沢で大人になった気分です)


そして当日。


富士山の五合目に到着して感じた事は
「富士山、でかい!」という事でした
近くで見るほど富士山の大きさは
とてつもなく大きく感じてしまった

結論から言うと
この瞬間がいちばんハッピーでした
ここから約20時間の地獄の苦行が始まる

そんな事を知る由もなく
この時の自分は希望に満ち溢れ
今回の挑戦にギラギラと魂を燃やしていた

2人のガイドさんと1人のツアー会社の人
そして14人の参加者のチームで登った
皆さん登山家といった雰囲気で
あきらかに自分1人だけが浮いていた

それでも皆さん優しく声をかけてくれた
この声がけは登山が終わるまで続いた

人の優しさや温もりに触れ元気をもらえ
人と関わるのが苦手な自分にとって
とても新鮮で幸運な体験でした

登山開始は楽勝だと思いましたが
徐々に勾配がキツくなり
少しずつ足場も悪くなっていき
重いリュックが体力を奪っていった

これまで幾つかの山を登り
ある程度の登山の経験値を上げ
体力も鍛えてきた筈なのに
富士山は別次元の厳しさだった

登山開始2時間ほどで
この挑戦に対して正気の沙汰とは思えない
不条理な行為をしてると思ってしまった

歩いて3時間くらいで急に呼吸が苦しくなり
まだ半分にも達していないという情報に
絶望を感じてしまった

そこからは、ただただ苦行が続いた
自分の中の煩悩や雑念が
ずっしり重くのしかかってきて
自分の弱さに腹が立ってしまった

18:00。約5時間かけて
8合目の宿泊する山小屋に到着した
まだ着いてないけど、やっと着いたと思った
この時点で体力はゼロになっていた

お腹が空いてるはずなのに
夕食のカレーが喉を通らない
何かを食べる行為にもエネルギーが必要で
疲れ過ぎてスプーンが止まってしまった
こんな経験も初めてだった
(苦手なはずの、どら焼きは驚くほど美味しかった)


そして山小屋で4時間の仮眠

蜂の巣のような小さな穴の
就寝空間へ入り体を休める

しかし眠れない…
疲れてるはずなのに眠れない
幼少期から神経質で環境が変わると眠れない
そんな自分にとってはこの場所も
登山同様に苦痛でしかなかった

そして不運なことに
両隣の人のイビキが凄まじく
眠れない。眠れない。眠れない

左右のイビキのリズムがバラバラで
でもたまにランデブーもしたりして
その不快がより一層、眠れないを加速させた

結局、一睡もできなかった
ストレスだけが溜まる4時間だった

この時、自分に圧倒的に欠けている能力は
図太い精神力だと痛感した
この不眠がこの後に体調不良に影響してしまう

✳︎

23:00〜山頂を目指して再出発
外は真っ暗でひどく寒くなっていた

そして満点の星&流れ星が飛び交っていた
嘘みたいな夜空に「プラネタリウムみたいだ」
と本末転倒のようなバカみたいな感動をした

満点の星の近さ、頻繁に流れる流れ星を見て
思わず笑顔がこぼれ希望が湧いた
富士山に登ってる現実を実感ができた

しかし、ここからの道のりは険しく
足元の悪い崖を登るゾーンが続いた
ここまでの、ゆるい坂道とは全く違う
負荷のかかる苦しい道のりだった

そして突然
寒さ、吐き気、頭痛、動悸が
激しく襲いかかってきた
8合目で高山病になってしまったのだ

キツい。キツい。キツい。

それでも登らなければならない状況は
人生で最も辛い時間だった
こんなに辛いのだったら
いっそのこと消えて無くなりたいとさえ思えた

高山病になってかは
綺麗な流れ星が流れても
まったくの無反応になってしまい
絶望的な精神状態が全身を支配した

人間は精神や体力が極限に近づくと
思考が止まり何も考えられなくなるもので
疲れや寒さや体調不良がピークを越えると
謎の快楽がやってきて気持ち良くなった

何なんだ?この感覚は?
何なんだ?この気持ち良さは?

そして、なぜか笑顔が止まらなかった
可笑しくて、心地良くて、気分爽快で
なぜか笑いが止まらなくなってしまった

「寝ないでください」

休憩中、同行するガイドさんに
激しく体を揺さぶられた
知らずの間に寝てしまっていたのだ
たぶん笑いながら寝ていたと思う

それでもこの気持ち良さには抗えない
笑顔が止まらない、眠気が止まらない
最高に気持ち良い、邪魔しないでくれと思い
もうどうなってもいいから
このままずっと眠っていたい
そんな多幸感に満たされていた

しかしガイドさんの真剣な顔と
ひどく心配そうな表情を見て
ふと我に返ることができた

この時の状態を家に帰ってから調べてみると
「低体温症」という症状らしく
脳内からドーパミンが大量に出て
気持ち良くなっていたみたいでした
そのまま眠っていたら
最悪の結果もあったみたいだった

✳︎

気を取り直して再出発
高山病は治ることはなかったけど
それでも登るしかない
もう9合目まで登ってしまっていたので
引き返す事はできないという状況だった

もう気力も体力も精神力も空っぽで
どんなに振り絞ってもエネルギーが残ってない

どこへ向かってるのかも分からない
何でここにいるのかも分からない
ここで何をしてるのかも分からない
苦しみや辛さという感覚も分からない
朦朧として自分が自分でなくなっていった

この状態を「悟り」と言うのだろうか
ただ無心で足を一歩前に出し続けるだけだった



そして登頂。


「やっとゴールへ辿り着いたぞ!」
そんな達成感のような感情は全く湧かなかった
無心の状態で、ヒザから崩れ落ちてしまった

地面に大の字になった
その時見た満点の星空は
嘘みたいに綺麗で澄んでいて輝いていた

ここが夢なのか現実なのか分からなかった
正確には分からないというよりも
そんな事はどうでもよかった

綺麗な星の下で無心で開放的な気持ちになれた

✳︎

少し落ち着いてから
山頂の山小屋で豚汁を飲んだ
甘くて温かいスープを喉に流し込むと
失った魂が戻ってきた感覚になり
普段の自分が自分に戻ってきた

周りを見回すと同じツアーの参加者さん達も
みんな豚汁を幸せそうに飲んでいた
その光景を見て目頭が熱くなってしまった
突然、意味もなく涙腺が緩んできた

一緒に苦難を乗り越えたからなのか?
一緒に目標を達成したからなのか?
一緒に豚汁を食べていたからなのか?
よく分からないけど謎の感動が突然やってきた

「あの…ありがとうございました。」
あきらかに不自然なタイミングで
その言葉が口から、ふと出てしまった

突然何言ってんだ?みたいな空気になり
時間が止まったような感覚になった

その時の皆さんの不思議そうな顔と
晴れ晴れとした笑顔がとても印象的だった
あの時の皆さんの顔は今でも鮮明に覚えている
今回の登山で最も印象深い場面になった

気を緩めたら泣いてしまいそうだったので
全力で豚汁だけに集中して誤魔化した

✳︎

豚汁を食べ終え
山小屋の外へ出てみると
山頂には御来光を待つ人で溢れていた

富士山を登る約6割くらいの人が
外国人という、その光景にも驚いてしまった

そして数百人で御来光を待つ
その時の気温は2℃だったらしい
とても非現実的で神秘的な空間だった

ちょうど太陽が登る部分にだけ
雲が掛かってしまったけど
御来光の光を感じられた

無条件に心に響くものがあった
正確には響くとか刺さるとかではなく
沁みるという感覚に近かった

・もう少しだけ生きてみよう
・世界は素晴らしいかもしれない

そんなことを漠然と思った
それがこの時の自分の内側から湧き出る
ストレートな感情だった

物心ついた青年期の頃から
こんな世界くだらない
どうにでもなっちまえ
いつ死んでもかまわない

常にそんな感覚を持っていた自分にとって
日本一高い場所へ登り、御来光を見て
そんなことを感じられただけでも
ここへ登って良かったのかもしれない

✳︎

今回の富士登山で得たものは
何だったんだろうか?
自宅に帰ってから
そんな事ばかりを考えていた

その答えは正直よく分からない
何か意味があったのかもしれないし
全く意味がなかったのかもしれない

今後の人生に少しでも反映されれば
いいのかなという結論に至ってます

そんな富士登山の挑戦と心境でした
ここまで読んでくれ嬉しいです
ありがとうございました。



【後記】

実は富士山を登ったらSNSを辞めようと
心に決めていました
何となくSNSに疲れてしまい
虚無感を感じてしまってたからです

しかし富士山を下山する途中で
SNSで出会えた素敵な人たちの
見たことのない表情を思い浮かべてたら
SNSを辞めてしまうのではなく
休むでもいいのではと思いました

約2ヶ月、SNSを休んでみて
自分自身と向き合える貴重な時間を作れました

そして再開してみて、皆さんと再会できて
“世界は素晴らしいかも"と素直に思えてます


それではまたCiao!

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