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映画「AIR/エア」 とBorn In The USA


「Born in the U.S.A!Born in the U.S.A!」

アメリカの有名バンド・ブルーススプリングティーンのヒット曲「Born in the U.S.A」で映画「AIR/エア」はエンドロールに入っていきます。Gジャンの袖を切ったロン毛のおじさんが歌っている80年代アメリカのヒット曲。なぜ、この曲がこの映画の最後に流れるのか、と考えると「大作娯楽映画はちょっと…」という方も「AIR/エア」を楽しめますよ。

間口の広いエンタメ大作

「AIR/エア」はAmazonオリジナルの作品です。今や世界中のスニーカーヘッズに愛されるエアージョーダンの誕生秘話。ナイキの社訓や社名の由来、バスケシューズの規定を超えたマーケティングの話など、へぇーと唸る蘊蓄と、80年代の数々のヒット曲を散りばめ、スニーカーヘッズの若者から80年代を生きた年代でビジネス書として有名な「SHOE DOG」を読んだ人々まで、娯楽映画として幅広く楽しめるさすがAmazonという内容になっています。

今回キーとなるエンディングに流れるこの曲は、実は映画の中盤でも言及されています。主人公とナイキの会社の同僚がこんな話をしている。映画中のなんでもない会話なんですが、ちゃんとエンディングにも繋がってます。

Born in the U.S.Aって知ってるか?毎日通勤で聞いているんだ
自由の歌だと思って気持ちを上げるために毎日聞いていたが、実は違かった
歌詞をよく聞くとベトナム戦争帰りの軍人に仕事がないという歌だった
今はナイキの靴も韓国や台湾製になっている
俺はそこを気にするべきだったのかもしれない
離婚して日曜日しか会えなくなった子供と仲良くなるために毎週ナイキの靴を買ってあげるんだ
海外製でも俺は子供にナイキの靴を買う

映画より記憶に基づきなんとなく抽出

同僚はナイキを愛している。アメリカを愛している。でも、彼が愛したナイキやアメリカは少しづつ変わり出しています。海外へ生産拠点が移り、戦争から帰った軍人には職も与えない、そんな会社やアメリカに同僚は葛藤を感じています。自分が会社や国家を愛する気持ちと、それが変化しこれで本当に良いのかと思う気持ち、その葛藤が映画全体のテーマと繋がってこの楽曲「Born in the U.S.A」に表されているんです。「ホントに?それは映画好きが深読みしすぎでしょー」という感じですが、私はそう思ったんです。以下がその理由です。

映画のエンディング

映画の最後には、登場人物のその後の活躍と共に「Born in the U.S.A」が流れます。これぞアメリカというチャレンジャーが成功した物語として、良かった良かった、と楽しめる最後ですね。自由と挑戦というアメリカのイデオロギーを体現する主人公を称賛し、古き良き80年代ポップスで盛り上がり楽しめる大作エンタメ映画のエンディングとして相応しい終わり方です。

一方、「Born in the U.S.A」は母国アメリカでも単にアメリカを称賛する楽曲と勘違いされていることで有名でもあります。実際国粋的な楽曲としてレーガンやトランプの選挙楽曲として、誤解されたまま利用されていることはニュースにもなっていて、見識あるアメリカ人であれば周知の事実です。

このエンディングから「Born in the U.S.A」の歌詞を理解している観客は、エンタメ映画のエンディングのカタルシスと共に、会社の同僚が感じていた葛藤や、悲しみのようなものが感じられる設計になっています。かたや楽曲の意味を考えないトランプ主義者はシンプルなエンタメ映画として普通に楽しむでしょう。ハーバード大卒のインテリであるマット・デイモンと監督のベン・アフレックが作った本作では、もちろんこのような解釈は想定されていると思います。

映画好きの映画の楽しみ方

映画全体としてはエンタメ映画としてしっかりと観客を楽しませながら、小さな仕掛けから映画好きも楽しませることができる、イケメンおじさんの用意周到な映画だと思います。ホントかウソか映画を見て確かめてみてはどうでしょうか。

参考

PV 「Born in the U.S.A」

大いなる誤解を受けた「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」届かなかったメッセージ (reminder.top)

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