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Blue: 理想の上司

つい先日の授業で「理想の上司」についてのディスカッションがあった。よくあるトピックで、面白いことに(interestingly)毎年生徒たちの答えが変わっていく。しかし、どの世代も一貫して言えるのは、「信頼できる人」や「聞き上手な人」と言った、どこかで聞いたような回答が多数を占める。

はぁ…
そもそも、グループの中で責任のある立場なのだから、信頼されるのは当たり前。それよりも、人は一人では生きていけないのだから、話を聞かない人は、論外。

世の中、一体全体どうなっちまったんだい!と言いたいところである。

「信頼」をどう築くのか、「聞き上手」に引き出した後、何をするのか。そんな当たり前で簡単に言えることなのに、実際のどんな行動が値するのかはあいまいである。「理想の上司」、一日にしてならず。

ふむふむ。

幸運にも、私には「理想の上司」と言える人がいた。授業でこのトピックが出る度に、当時の笑顔で溢れた活気ある職場がよみがえる。その中心で私たちを率いるのは、まぎれもなく「理想の上司」だった。

初夏のひまわりを思わせるような生き生きとした表情、さらにそこに輝く大きな目をした彼女は、常に笑顔で、苦労を一切人には見せない人だった。彼女が赴任してきたばかりのとき、一人残って作業をし、何度も終電を見逃していたことなど、誰も知る余地もなかった。新しい職場で、途方もない努力を誰にも言わずにこなしていた彼女。今でも笑顔の彼女だけが私たちの記憶に残っている。

当時私の仕事ぶりは社会人経験が浅過ぎたのか、アメリカ被れし過ぎていたのか、とにかく自由奔放過ぎて、職場ではあまり上手くいっていなかった。

本部の頭の固い上司たちには、陰で使えないポンコツと呼ばれ、来年の契約を考えるほどだったらしい。私の方も、彼らのことを「ブ×××ども」と思っていたので、こちらは御相子。日本では誰も気にしない(気付かない)非合理で納得のいかないルールや、理不尽な規則に従うことができない為、決められたマニュアル通りに仕事を進めることはほとんどなかった。

ある時、仕事帰りに一緒にグラスを傾けながら、会社に対しての不満を彼女にぶちまけた。

彼女は静かにうなずき、聞いていた。私のあふれ出る怒りの感情とは正反対に、何の問いかけもなく、ただ耳を澄ましていた。まさに「聞き上手な上司」だった。温かく見守る彼女の姿勢と、怒りの感情で冷え切った目つきをした私との温度差が、とてつもなく遠い国から来た人と会話しているようで、少し寂しさを覚えた。

そして、ようやく私は愚かな自分の姿に気が付いた。今更ながら、彼女の口から会社の不満や人の悪口を聞いたことがなかった。その時、自分自身がとてつもなく恥ずかしく思えた。自分の能力や仕事ぶりはさておき、他人の不満を漏らしても、相手を不快にさせるだけで、何も変わらない。

彼女はその一部始終を優しく見守るように、ただ、ただ、私の叫びに耳を傾けていた。

そこで、「~だから、こうしていきたい」とこれからの話に変えたとき、彼女が口を開いた。「そうだね、大丈夫。一緒に頑張ろう」と。「じゃあここからどう始めようか」と続いた。

彼女は反省や適切な対処を強制したりはしない上手に引き出す。だから私たちはあたかも自身で解決したかのような錯覚を起こし、自信に繋げていく。彼女は誰よりも忍耐強く、そして私たち自身よりも私たちを信じていた

もちろん、それだけが「理想の上司」ではない。彼女は、人を見る目が合った。あのキラキラと輝くあれだけの大きな瞳にはその能力が備わっていてもおかしくはない。

彼女は適材適所に正しい人材を送ることが出来た。私たち以上に私たちの能力を見抜いていた。必然的にそれぞれが得意分野で能力を発揮していくことで、誰かの苦手は誰かの得意に当たっていた。さらに私たちは、彼女がいるから、何があっても大丈夫だと言う確信があった。そんな絶対的守護神を持つ、全員野球の最強チームと言われるほどに成長した。

もちろん、これは仕事だけのことではない。仕事を通して、彼女は私たちに人と一緒に生きていく楽しさを教えてくれた。思いやりや、溢れた愛情を、出会うすべての人に与えていた。誰もが彼女の虜になり、慕った。職場が笑顔でいっぱいになった。人は人を呼び、右肩上がりで私たちの部署は成績を上げて行った。彼女が栄転とはいえ移動になったとき、職場スタッフ全員の涙が止まらなかった。

その後、彼女が育てた部下たちはメキメキと頭角を現し、どんどん昇進していった。泣き虫で押しの弱かったスタッフは、営業成績で全国一位を取り、入社して間もない研修期間でトレーナーに目をつけられたド派手なギャルも、大きな部署を任されのち、管理職に就いた。今までの経験を活かし、ハイクラス転職したスタッフもいる。

彼女は間違いなく私だけではなく、出会う人全て、この社会での生き方を変えた。アメリカから帰国したばかりの私は世間知らずで未熟なテキトー自由人だった。それでも、今は、なんとか周りの人たちを大切にし、感謝を忘れずになんとかやりくりしている。あ〜、白馬の王子様、迎えにこないかな😅

Kelly's Point of View:  理想の上司の条件


1.  人の悪口を言わない。聞くこともNG。
2.  自分の努力は見せない。逆に楽しんでいるところをみせる。
3.  部下の前で責任のなすりつけ合いするべからず。器の小ささが明るみに出る。
4.  「会社の決まりだから」と言うべからず。信頼をなくす。
5.  完璧を装わないこと。完璧な人なんていないのだから。
6.  「大丈夫だよ」と言ってあげられること。時に大丈夫じゃなくても、言霊になる。
7.  否定はしない。間違いやミスは教えるのではなく「諭す(さとす)」こと。自分で気付けば、同時に反省もする。
8.  ミスしたとき、起こってしまった過去よりも、これからどうするかの計画を一緒に立てること。
9.  「ありがとう」という感謝の言葉。
言われるより、常に言う側に。


彼女がいなければ、私だけではなく彼女がが育てた部下たちは全く別の人生を歩んでいたはず。ありがとう。

Love,
Kelly


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