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乃木坂46における「世代交代」

※本記事の内容はあくまで執筆者個人の考えです。事実とは異なる内容を含むかもしれませんが、虚偽を広める意図や誹謗中傷を行う意図等はありません。

組織を立ち上げ、軌道に乗せ、さらに大きくしていく過程では、創業メンバーから創業期を知らないメンバーへの移行を行うタイミングがある。乃木坂46は、創業メンバーとも言える1期生が2023年に全て卒業し(最後の1期生である齋藤飛鳥ちゃんの卒業コンサートを2023年5月に実施)、2023年夏から現在に至るまで3期生・4期生・5期生という創業期を経験していないメンバーで活動を続けている。「世代交代に成功した稀有なアイドル」と言われる乃木坂46は、いかにしてこの移行を実現したのか。アイドルグループに限らず、世の中の様々な組織の舵取りしていく上で大事な示唆がここにあるのではないかと思い、個人的な見解で世代交代が成功している要因を紐解いてみたい。


乃木坂46のグループとしての歴史

乃木坂46というグループの歴史を少しだけ確認しておこう。乃木坂46は2011年8月に結成され、36名の1期生が加入した。その後、2013年3月に14名の2期生が加入し、以後、2016年9月に3期生12名、2018年11月に4期生11名、2020年2月に新4期生5名、2022年2月に5期生11名が加入している。「大人数アイドルグループは1期生が卒業したら衰退する」と言われているが、1期生が卒業した後もライブ会場を満員にし、今もアイドルシーンを牽引していることを考えると、どうやら通説を覆したと言っても良さそうだ。

乃木坂46が世代交代に成功したのはなぜか?

世代交代が成功したのか失敗したのかは意見が分かれると思うが、ここからは個人的な見解も交えて、世代交代は「成功した」という前提で筆を進める。その成功を支えた大きな理由の一つは、継承と革新のバランスの良さにあると考えている。

個人的な感覚にはなるが、乃木坂46の1期生は伝統を守る・引き継ぐことに固執していなかったと感じる。乃木坂46というグループが続いてほしい・長く愛されるグループであってほしいとは思っていても、「こうするべき」「こうあるべき」というべき論を押し付けることはなかった。

これは1期生が後輩へ何も教えなかったという意味ではないが、後輩が先輩の姿勢から意識的・無意識的に学び取ったことが多かったのではないかと思う。後輩としても、単に先輩たちの姿勢を継承したい・今の形を守りたいという意識ではなく、「自分たちらしい新しい乃木坂46をつくりたい」という意識が芽生えていった感覚がある。

4期生の遠藤さくらちゃんは、『日経エンタテインメント!2024年2月号』(2024年1月4日発売)の中で次のように述べている。

先輩方が築かれた、優しさや仲の良さなどの根本的な乃木坂46らしさは今も変わっていません。そこに私たちの世代ならではのものを加えられたら、グループとしてさらに大きくなれるはず。23年は「これが今の私たちです。見てください」という思いで走り続けました。24年はそこから、どうやって自分たちならではの何かを作り出すかも意識していきたいです

『日経エンタテインメント!2024年2月号』

継承と革新のバランスを取った次の乃木坂46像をつくっていく意思表明に聞こえる。こういう意識を遠藤さくらちゃんだけではなく、他のメンバーも含めて持っているということが、世代交代を成功に導いている一因だと感じている。

また、組織文化という観点からこのことを考えていくなら、株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹さんが書いた『いま必要なのは「ゆるやかな組織変革」?「もったいない」から始める、前向きなカルチャー変革のアプローチ』(2024年3月29日)が参考になる。

安斎さんは、「カルチャーを変革していく際に、『今がダメダメだから変わらなければならない』という現状否定から入ると、カルチャー変革のプロジェクトはまずうまくいかない」と綴っている。これは乃木坂46の世代交代にも大いに関係すると考えており、メンバーたちは今がダメだと思ったのではなく、「既にあるけれど目が向けられていない組織のよさやポテンシャルに目を向け、そういったものを呼び覚ましながら、“ゆるやかに”組織を変えていく必要がある」と安斎さんが仰るようなアプローチを無意識的に採用していた可能性が高い。健全な危機意識と前向きに新たな組織をつくっていくという意識が世代交代を成功に導いたと言えよう。

世代交代できたのは個々の強さが関係している

逆説的に聞こえるかもしれないが、世代交代を成功に導いたのは、個々人の活動も大きく影響していると感じる。『日経エンタテインメント!2024年2月号』の中で3期生の久保史緒里ちゃんは次のように述べている。

新たな課題や目標を待つのではなく、次は自分たちで決めていくべきだと思っています。緊張の糸が緩むことなく、みんなでお互い刺激し合いながら頑張りたくて。その刺激の1つが個人の活動だと思うので、どんどん増やしていきたいです。

『日経エンタテインメント!2024年2月号』

また、3期生の山下美月ちゃんも次のように述べている。

乃木坂46のメンバーとしては、個人としての活動を頑張ることで、グループを支えられたらいいなと。これまでも先輩方がそうしてくださったからこそ、いろいろなメンバーの個人活動につながったりしたんです。そんなふうに、後輩たちが活躍できる環境をちゃんと作り上げていくことが「二度目の夢」かもしれません。

『日経エンタテインメント!2024年2月号』

久保史緒里ちゃんも山下美月ちゃんも個人活動を頑張ることの大事さを挙げている。ともすると、世代交代というグループ全体のことは、グループとしてどう動くかが関係しているように感じるが、3期生の中でも中心を担う2人からは、個の強さがグループの強さに繋がっていくという発言がなされている。

個人が頑張れる環境が形成されているということが、乃木坂46というグループの強さを支えている。「グループの中でこれを頑張って上を目指そう」と思うのではなく、「個人として自分が頑張れる領域で頑張って、それをグループ活動に還元しよう」という意識が強い。序列で組織をつくるのではなく、それぞれの思いと意向が反映される組織づくりがなされている。「この場所で頑張っていいんだ」という感覚を各メンバーが持てていることが大きい。

様々な組織の人材育成・基盤の構築支援を行っている株式会社Momentor代表の坂井風太さんは、『「◯◯ガチャ論」に依存することの危険性+「ワークライフバランス」というか「ワークライフコントローラビリティ」の方が大事なのではないかという話』(2023年12月7日)というnote記事の中で以下のように述べている。

「コンフォートゾーンから出よう!」の言葉で出られる人はすでに出ているので、本来的なメッセージは「コンフォートゾーンから出られそう感」を整えることであり、「選択肢の提示×選択肢を選べる感はセット」

「人の意志」や「選択肢の拡大」が重視されてきた一方で、そこで零れ落ちてきた「自分ならできそう感」や「この人たちとならやれそう感」がなければ、組織のマジョリティーが変わることはない、と考えています。

むしろ、MVVで「挑戦」と掲げているのに、全く挑戦しない部課長を見て、「なんだよ、嘘かよ」となってしまう状況は、現場の白けを生むだけであり、「MVV策定が何かを変えてくれる」という「MVV信奉」はリスキーと感じます。ただ、「変わった感」は出せるので、空中戦施策としてはもってこいです。

坂井風太さんnoteより抜粋

乃木坂46には「選択肢を選べる感」があるのだと思う。それが様々なメンバーの挑戦を促し、成長に繋がり、次の組織を担っていける状態を生み出しているのだと思う。

結局のところグループ愛が大事

ここまでつらつらと世代交代の成功を実現に導いたであろうことを書いてきたが、結局のところ、その組織に対する愛を持って活動しているかどうかが何より大事だと思っている。

組織のことが大好きで、組織のために頑張りたいという強い思いを持っているメンバーが集まっているからこそ、乃木坂46は持続的な組織になっているのだと思う。

今の3期生・4期生・5期生には、もともと乃木坂46のファンだったというメンバーも多い。そういうメンバーが、グループの中に入っても愛を持ち続け、ファンとして見てきた視点も持ちながらより良いグループにしたいという思いを持っているのは大きい。

Real Soundの『乃木坂46の強さはメンバーのグループ愛にある? 久保史緒里らファンに並ぶ“乃木坂マニア”の存在感』(2019年7月14日)という記事でも、乃木坂46愛を持ったメンバーに言及されている。同記事の中では、齋藤飛鳥ちゃんが以下の発言をしたことにも触れている。

後輩も乃木坂46そのものをみんな愛してくれていて。先輩が引っ張るというよりも、各々が乃木坂46のために自発的に努力をしています

Real Soundさんの記事より抜粋

こういった発言が2019年時点の記事に出てくるということが、乃木坂46というグループの強さを表している。先輩が引っ張るのではなく自発的に、それぞれが愛を持って活動する状態が継続していることで、2023年に最後の1期生として齋藤飛鳥ちゃんが卒業しても世代交代が上手くいった。

「私たちが乃木坂46です」と発したキャプテンの覚悟

2023年に行われた「真夏の全国ツアー2023」最終公演の明治神宮野球場で、現キャプテンの梅澤美波ちゃんが「私たちが乃木坂46です」と語ったのは感動を誘った。音楽ナタリー『「私たちが乃木坂46です」世代交代後初の全国ツアー完走、神宮4DAYSで新たな歴史刻んだ夏』(2023年8月29日)から梅澤美波ちゃんのスピーチを以下に引用する。

私たちにも4日間乗り越えられました! 怖さや不安もあったけど、確実に私たちの成長につながりました。今、先輩たちのあとをしっかり受け継げたと、証明できたと思います。私たちが乃木坂46です! 過去も今も未来も全部まとめて愛して、みんなで前へ進んで行きます

音楽ナタリーさんの記事より抜粋

この決意表明は、2024年とその先の未来にどう結実するのだろうか。創業期を経験していないキャプテンが引っ張る新しい乃木坂46像を楽しみにしたい。

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