日下慶太

文を書いたり、写真を撮ったり、UFOを呼んだりしています。自分がどこに向かっているのか…

日下慶太

文を書いたり、写真を撮ったり、UFOを呼んだりしています。自分がどこに向かっているのかよくわかりません。著作『迷子のコピーライター』(2018/イーストプレス)写真集『隙ある風景』(2019/私家版)写真ブログ『隙ある風景』http://keitata.blogspot.com/

マガジン

  • つれないつり

    釣りについての短編です。スズキ、イワナなど魚種ごとに短編があります。釣りを知らない人でも、読み物として楽しめるようにしています。

  • コロナから10年後の世界

    コロナから10年後に想定される6種類の世界を描いてみる。これは自分が未来に向けて何をすべきか整理するためのものでもある。2020年の4月末に東京コピーライターズクラブのリレーコラムで執筆したものを、ここで改編。

  • アホが作る街と広告

    • 3本

    『迷子のコピーライター』(著:日下慶太)のおまけとして収録された「アホが作る街と広告」を全文無料公開。 「商店街ポスター展」などの取り組みで知られる、電通のコピーライター日下慶太さんが20年の広告の仕事の中で培った、仕事をするうえで大事にしていることを綴っています。

最近の記事

つれないつり(12) ヤマメ

真名川の真ん中を歩く。前方にまっすぐ川が伸びている。上には広い空が広がっている。瀬に陽の光があたり、つややかな丸石が光を帯びる。前方の大きな石にむかってスピナーを投げる。水中で光り輝く金色のブレードはそのまま下流に流されていく。パクンと魚が食った。少しだけ重みを感じる。流れの中から銀色のものが出てくる。小指ほどの小さなヤマメだ。体に合わない大きな針をくわえている。体全体は銀色で下半分にだけうっすらとオレンジが塗られている。縦の楕円がエラの少し後ろから尾びれまで配置されている。

    • つれないつり (11) イワナ

      前回の釣行で目の前でたくさんのイワナを釣られた私は、イワナは天然記念物ではなく釣れるものなのだと理解した。イワナが釣れないのは自分の技術不足である。しかしながら、道具が圧倒的に足りないからでもある。 イワナのアタリを逃さないような竿を買った。どこに投げたかわかるように色付きのラインを買い、リールに巻き直した。前に買ったウェーダーは安物ですぐに穴が空いたので新しいウェーダーを買った。ウェーディングシューズも買った。4センチほどの小さなミノーを赤、緑、黄、と買い揃えた。スピナー

      • つれないつり(10) セイゴ

        大阪にいてどうしても釣りに行きたくなったときは安治川の河口で釣りをする。両岸は工場地帯で、水は錆びた緑色をしている。生命を拒んでいそうな液体が流れているが魚影は濃い。うまくいけば1日で5本も釣れることもある。(私も釣りがうまくなった)。とはいえ、釣り上げても食べる気にはならない。 「くさかちゃん、おれも釣りに連れってや」 私が釣りをすることを知ったOさんはことあるごとに言ってきた。Oさんについては説明が長くなるがそれだけの価値はあるので紹介させてほしい。 Oさんは東京の

        • つれないつり (9) アイナメ

          竜宮城の竜をとれば宮城になる。宮城の由来は竜宮城なのだ。スピリチュアル系の友人はそう力説した。竜宮城のモデルとされる宮城県の金華山へと行った。女川からフェリーに乗り30分、船には私しかいなかった。船頭のMは観光ガイドのように、船から見える風景を説明する。三陸沿岸のリアス式海岸のこと、牡蠣やホヤの養殖場、自然と震災の話になっていった。 Mは震災時、船に乗っていた。海上でも大きな揺れを感じた。沖から壁がやってきた。その壁は動いていた。少しずつ近づいていた。壁はすべて同じ高さで壁

        つれないつり(12) ヤマメ

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        • つれないつり
          13本
        • コロナから10年後の世界
          7本
        • アホが作る街と広告
          3本

        記事

          つれないつり(8) イワナ

          大野の白く長い冬が揺らぎ始めると、渓流釣りは解禁になる。 大野に通って1年ほどになった。地元に何人かの友人ができた。彼らは釣りを始めて数ヶ月なのに、すでにイワナを釣っているという。しかも、一匹や二匹ではなく、二桁を越えていた。私はまだ一匹も釣ったことがないというのに。地元だから何度も行けるとはいえ、私も数回行っている。しかし、釣りの経験は私の方が長い。イワナは地元の人間にやさしいのか。山に住む人の感覚がイワナを釣らせるのか。何はともあれ一緒に釣りにいこうということになった。

          つれないつり(8) イワナ

          つれないつり (7) メバル

          冬は釣りにいくものではない。容赦ない北風が襲ってくる。魚は水温が暖かく安定している沖の深場へと移動して、岸にはほとんどいなくなる。冬はリールをメンテナンスするなど釣り道具を整備しながら、春が来るのを待つのがよい。ただ、冬に釣れる魚がある。メバルである。どうしても釣りに行きたくなった12月のある日、私は海へと出かけた。 メバルは夜行性である。ただで寒いのに、さらに寒い時間帯に行かなくてはならなない。夜の漁港に車を止めて海へ出た。釣り人は誰もいない。 メバルは常夜灯付近を狙う

          つれないつり (7) メバル

          つれないつり(6) ハネ

          前回の釣行の二日後、また釣りににやってきた。 釣れなかったことがあまりにも悔しかった。 そして何より、釣れなかったが釣れることがわかったのだ。 今回は誰も誘わず、独りできた。 今夜も街灯が暗い水面に浮かぶたくさんの波紋を浮かび出している。 水面にじっと目を凝らすと相変わらず、その細い体から考えられないような速度でバチがスイスイと水面を泳いでいる。 前にSが釣ったポイントを丹念に攻める。小さなアタリはあるものの魚はノラない。しばらくすると、全く反応がなくなった。Sが使ってい

          つれないつり(6) ハネ

          戦時下の庶民のしなやかさ

          今年の5月祖母が亡くなった。享年97歳、大往生だ。そんな祖母はよく戦争の話をしてくれた。それを、5年前にとある週刊誌の「戦後70年記念特集」で執筆を依頼されて寄稿した。それをせっかくなんで少し改編して以下に書いてみる。 ===================================== 祖母は戦時中、明石市にいた。祖母によれば、祖父(享年85)は電気技師だったため、戦地には行かず、明石市にある川崎航空機工業(現・川崎重工業)の工場勤務だった。 1945年1月から

          戦時下の庶民のしなやかさ

          つれないつり(5) ボラ

          満潮が過ぎた。月に照らされた運河の表面が騒がしくなってきた。たくさんのミミズのようなものが、そのボデイから考えられないようなスピード動いている。 普段、海底にいるゴカイ、イソメなど、海のミミズのようないわゆる多毛類という生物が、交尾のために巣穴から出てきて水面を漂う。これを「バチ抜け」という。ゴカイが太鼓のバチに似ているからそう呼ばれているそうだ。短いバチ、長いバチ、いろんなバチが私の目の前で動いている。 大阪湾の工場近くの運河で、自然の営みが夜毎に行われている。生命の神

          つれないつり(5) ボラ

          つれないつり(4) ウグイ

          大阪から福井まで特急サンダーバードで2時間、その後、2時間に1本の越美北線という単線に乗り換えて、山を3つほど越えて、このままどこに連れて行かれるのかと思っていると、突然平野が開けてくる。そこは福井県大野市。人口3万4000人の美しい盆地である。ここに仕事ができて通うようになった。ここには海はない。あるのは美しい山と清らかな川と巨大なダム。ここではイワナやヤマメが釣れる。川で釣りをするしかない。 市内の中心部を流れる真名川沿いの道を走ってポイントを探していると、橋の近くに大

          つれないつり(4) ウグイ

          つれないつり(3) ガシラ

          Sがカヤックを買った。釣り用のカヤックである。Sは釣りを始めたばかりで糸の結び方も知らず、満潮も干潮もよくわかっていない。それがいきなりカヤックを買った。固定電話もないのに、ポケベルも飛び越えて、いきなりケータイを持ったマサイ族のような技術の素っ飛ばし方である。釣りには順序というものがある。まあ、それはさておき、彼はカヤックを買った。さっそくカヤックで釣りに行こうということになる。ぼくはカヤックをレンタルした。10月頃だった。 カヤックは背丈ほどの長さである。中央に背もたれ

          つれないつり(3) ガシラ

          つれないつり (2) サバ

          女川の町は色がなかった。永遠に灰色が続くようだった。曇りの日は本当に切なくなってくる。津波が町を飲み込んでから2年が経っていた。 この町に仕事で通うようになった。店はほとんどが仮設店舗で遊ぶ場所がない。自然と海へ向かうことになった。海には色があった。空の色によって青になる。緑になる。他と変わらぬ海だった。この海はたくさんの人を飲み込んでいた。陸はそのことをまだ覚えている。海はそれをもう忘れてしまったように何事もなく過ごしている。 「釣りですか?」 ホテルにチェックインし

          つれないつり (2) サバ

          つれないつり (1)  スズキ

          川のように見える瀬戸内海を越えて国東半島に降り立つ。寝ぼけてまだ起きたばかりのような山を抜け、しばらくすると別府の湯気の柱が見えてくる。トンネルを抜けると大分の街だ。もう何度目の出張だろうか。とり天も食った。唐揚げも食った。温泉も入った。あまりすることがなかった。そうだ、釣りだ。釣りにいけばいい。海はすぐそばだ。まずはスズキこと、シーバスを狙ってみようじゃないか。海のブラックバス、シーバス。大分まで来たのだからきっと釣れるだろう。仕事はちょうど金曜日で終わった。明日は土曜日。

          つれないつり (1)  スズキ

          つれないつり (0) はじめに

          竿を思い切り振ると、糸の先にぶら下がったおもりは前にではなく、右に飛んでいった。横で釣りをしているおっさんを直撃し、おっさんの体に糸がぐるぐると絡まった。父は「すいません」と恐縮しながらおっさんに絡まった糸をほどいていた。これが私の頭の中にある初めての釣りの記憶である。釣りは父に教えてもらった。釣りが好きな父親について行って横で釣りを覚えた。近所のため池に行くことがほとんどであったが、旅行に行けば海や川で釣りをした。父、祖父、私と親子三代に渡って糸を垂らしたこともある。自身が

          つれないつり (0) はじめに

          コロナから10年後の世界 エピローグ

          私はまず自分のために書いた。書きながら見えない未来を見ようとしていた。そして、ここは大変おこがましく、おせっかいなのであるが、複数の未来を提示して、読者それぞれに考えて欲しかったのである。もちろん、様々な人が、「with コロナ」「アフターコロナ」と未来について書いて語っている。私は、私らしく「物語」という手法を用いて、未来を具体的に血を通わせて見えるようにしたかった。 私は、この短編によってコロナ後の世界のベクトルを単純化して示したにすぎない。ベクトル、つまり、力の方向と

          コロナから10年後の世界 エピローグ

          コロナから10年後の世界 F

          コロナウィルスが世界で猛威を振るった。多くの感染者と死者が出たが、治療薬のアビガンが量産され、ワクチンも開発された。開発者のビル・ゲイツにちなんで、ワクチンの名前は『Windows 2021』と言われている。今はアフリカと中央アジアで感染が確認されてはいるが、ペストのように過去の病気となりつつある。 世界経済はコロナウィルスで大きく減退したが、傷口が元に戻っていくように、かさぶたはもう剥がれ、今は薄皮が張っている。日本政府は愚鈍であったが、医療従事者の奮闘と、習慣づけられた

          コロナから10年後の世界 F